会社を売却したとき、仲介手数料はいくらかかり、最終的にいくら受け取れるのか。M&Aを初めて検討する経営者にとって、成功報酬の「料率」だけでは判断しにくい問題です。
M&Aの手数料は、報酬を計算する基準額・最低手数料・着手金などの別料金によって変わります。「成功報酬5%」という表示が同じでも、請求額が同じになるとは限りません。本記事では費用の内訳、レーマン方式の計算例、見積もりを比較する質問を整理します。
売却価格がまだ決まっていなくても、業種・年商規模・希望時期と、費用について分からない点を整理すれば相談を始められます。M&A・事業承継の無料相談はこちら。
目次
M&A仲介手数料の相場は、料率と最低額をセットで見る
一律の金額を「自社の相場」と考える前に、同じ案件条件で見積もりを取ることが大切です。会社の規模だけでなく、候補先の探索、交渉支援、契約や譲渡実行の調整など、依頼する範囲によっても比較条件が変わります。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、料率だけでなく報酬基準額、最低手数料、発生タイミングを確認し、複数の仲介者・FAを比較する考え方が示されています。出典:第3版PDF・63〜75ページ(2026年10月6日確認)。
例えば、少額の会社売却では、料率で計算した報酬より最低手数料の方が高くなることがあります。一方、借入金のある会社では、譲渡価格以外の金額を報酬の基準に含める契約かどうかによって費用が変わります。まずは「想定する譲渡価格なら、自分に請求される総額はいくらか」を尋ねましょう。
公表された料金体系を比較する入口として、M&A支援機関登録制度のデータベースも利用できます。最低手数料や報酬基準額を確認できることは、中小企業庁のガイドライン掲載ページでも案内されています。公表条件を確認した後、自社案件に適用される条件を書面で確認してください。
仲介手数料の内訳と、見積書で確認する項目
成功報酬以外の費用があるか、既に払った金額を成功報酬から差し引くかを確認します。初期費用がない料金体系でも、外部専門家や実費の負担までなくなるとは限りません。
| 費用 | 何を確認するか | 質問例 |
|---|---|---|
| 相談料 | 初回相談と継続相談の範囲、正式な依頼との境界 | どの段階まで無料ですか。費用が発生する前に説明がありますか。 |
| 着手金 | 契約時などの支払条件、返金条件、成功報酬への充当 | 不成立になった場合の扱いと、成約時に差し引く金額を教えてください。 |
| 月額報酬 | 月額、請求開始日、期間延長や契約終了時の扱い | 交渉が長引いた場合、何か月分まで負担しますか。 |
| 中間金 | 基本合意などの発生条件、返金・成功報酬への充当 | 基本合意後に中止した場合も支払いは必要ですか。 |
| 成功報酬 | 算定基準、料率、最低額、支払条件と支払時期 | 最終契約の締結時と譲渡実行時の、どちらで発生しますか。 |
| 外部専門家・実費 | DD、法律・税務の助言、交通費等の担当者と請求元 | 報酬に含む業務と、別見積もりが必要な業務を分けてください。 |
着手金や中間金は、成功報酬の一部として扱われる契約も、別途加算される契約もあります。「払った分は必ず差し引かれる」と考えず、見積書と契約書の両方で照合してください。総額は税抜・税込のどちらで示されているかもそろえて比較します。
DDの実施費用と、仲介者の調整業務を分ける
デューデリジェンス(DD)は、買収対象の財務・法務・税務等を調べる工程です。第3版では、仲介者が自らDDを実施することと、資料の整理や日程調整を支援することを区別しています。仲介手数料の見積もりに「DD支援」とあっても、専門家の調査費用が含まれるとは限りません。
買い手は、誰が調査・評価を担当するのかと、その費用を別に確かめてください。売り手は、開示資料の準備をどこまで支援してもらえるかを確認すると、契約後の作業負担を見通せます。
レーマン方式の計算方法と、基準額で変わる報酬
レーマン方式は、報酬基準額を金額の階層に分け、それぞれの部分に料率を掛けて合算する方法です。全額に最後の階層の料率を掛ける計算ではありません。
以下は第3版に示される方式の一例です。すべての会社がこの料率を使うわけではなく、定額制や一律料率などの契約もあります。
| 報酬基準額の各部分 | 例として用いる料率 |
|---|---|
| 5億円以下の部分 | 5% |
| 5億円超〜10億円以下の部分 | 4% |
| 10億円超〜50億円以下の部分 | 3% |
| 50億円超〜100億円以下の部分 | 2% |
| 100億円超の部分 | 1% |
仮想例1:報酬基準額が8億円の場合
上の料率を使い、最低手数料や別料金を考慮しない仮定では、次の計算になります。金額は税抜です。
- 5億円以下の部分:5億円 × 5% = 2,500万円
- 5億円を超える部分:3億円 × 4% = 1,200万円
- 合計:3,700万円
8億円全額に4%を掛けた3,200万円とは異なります。見積もりに計算式がない場合は、階層ごとの内訳を出してもらいましょう。
仮想例2:同じ売却価格でも、借入金等を含めると変わる
株式の譲渡価格を1億円、報酬計算に含める負債を2億円と仮定します。両方とも5%で計算し、最低手数料・別料金・税を考慮しない比較です。
| 仮定した算定基準 | 基準額 | 計算結果 |
|---|---|---|
| 株式の譲渡価格だけ | 1億円 | 500万円 |
| 譲渡価格+負債(移動総資産を基準とする例) | 3億円 | 1,500万円 |
この差は料率ではなく、基準額の違いで生じます。「株価」「企業価値」「移動総資産」といった名称だけで判断せず、役員借入金・現預金・その他負債を計算にどう含めるのか、具体的な式を確認してください。例の金額は実際の相場や当社の料金ではありません。
売却価格そのものの考え方は、M&Aの売却価格・評価方法の解説も参考になります。価格評価と仲介報酬の算定基準は、分けて確認することが大切です。
最低手数料と手取りの計算で見落としやすい点
最低手数料がある場合、料率だけで計算した金額より請求額が大きくなることがあります。小規模な売却を検討するときほど、最低額を先に確認してください。
仮想例3:3,000万円の売却に最低手数料500万円がある場合
「譲渡価格の5%、ただし最低500万円」という契約を仮定すると、3,000万円 × 5% = 150万円でも、成功報酬は500万円です。税や別料金を除いた単純計算では、譲渡価格から報酬を引いた残額は2,500万円になります。この500万円は仕組みを説明する仮定で、標準料金を示すものではありません。
この残額を「最終的な手取り」とは呼べません。着手金等の加算、外部専門家費用、税金、借入金や役員貸付・借入の精算、取引条件に応じた価格調整など、別に確認する項目があるためです。個別の税引後手取りは、取引形態と当事者の状況を踏まえ、税理士等に確認してください。
買い手も、買収価格だけで予算を決めないようにします。仲介・FA報酬、DD、契約関連費用、取得後の運転資金や統合費用を項目別に整理すれば、価格交渉に使える予算を把握しやすくなります。
仲介会社・FAとの契約前に聞く8つの質問
仲介は売り手と買い手の間で調整を行い、FAは依頼した側の立場から支援します。費用比較の前に、自分がどちらのサービスを受けるのかを確認しましょう。違いはM&AのFAと仲介の解説で整理しています。
- 自社の想定価格で、支払総額はいくらか。希望価格だけでなく、低い価格で成立した場合も見積もってもらう。
- 基準額に何を含めるか。株式価格、負債、役員借入金などの扱いを数式で確認する。
- 最低手数料は何円か。適用単位や条件、税抜・税込の表示を確認する。
- 着手金・月額報酬・中間金は成功報酬から控除するか。成約時と不成立時を分けて説明してもらう。
- 支払義務はいつ発生するか。基本合意、最終契約、譲渡実行を区別し、契約後に実行されない場合も確認する。
- 相手方から受け取る手数料の条件はどうなっているか。仲介の場合は、自分の報酬だけでなく相手方の条件の説明も求める。
- 報酬に含む業務と担当者は誰か。候補紹介、調整、専門家の調査、譲渡後支援を分け、別料金を確認する。
- 途中解約や契約終了後の費用条件は何か。紹介済み候補との取引などで費用が発生する条件を、契約書で確認する。
仲介の相手方手数料について、第3版は双方の手数料が取引条件に影響する可能性も説明しています。例えば買い手の予算が決まっていれば、買い手側の費用負担も、提示できる買収価格を考える要素になります。自分の手数料の安さだけで比較を終えないことが大切です。
説明と契約書に食い違いがある場合は、署名前に修正・補足を求めてください。金額が安くても必要な支援が含まれていなければ追加費用が生じます。反対に、総額と担当範囲に納得できない場合は、同じ条件で別の支援機関の見積もりを取り、必要に応じて専門家の意見を聞く方法があります。
費用のよくある質問
完全成功報酬なら、M&Aのリスクはなくなりますか?
成功報酬の支払条件と、取引上のリスクは別の問題です。成立前の費用負担を抑える料金体系でも、価格や契約内容、経営者保証、情報開示、譲渡後の対応などの確認は必要です。外部専門家費用や実費も含め、何が無料で何が有料なのかを契約前に確認してください。
基本合意後にM&Aが中止になった場合、費用は返りますか?
支払った着手金や中間金の返還、既に提供された業務の対価、実費の扱いは契約条件によります。返金を前提にせず、「売り手の事情」「買い手の事情」「条件が合わない場合」などのケースで、返還される金額と残る負担を質問してください。
売却価格が未定でも、手数料を相談できますか?
相談できます。最初は業種、年商規模、売却したい対象、希望時期、借入金の有無を整理し、複数の想定価格で費用の考え方を確認しましょう。数字が未確定な項目は、その旨を伝えれば大丈夫です。見積もりを精緻にするためにどの資料が必要かも確認してください。
まずは同じ条件で見積もりを比較する
費用の比較を始めるときは、次の順序で準備すると、料率だけの比較を避けられます。
- 売却・買収のどちらか、株式か事業か、対象と希望時期を整理する。
- 想定価格と借入金等を、分かる範囲で整理する。
- 依頼したい支援範囲を伝え、同じ条件で総額を見積もってもらう。
- 最低額、別料金、控除、支払時期、不成立時の条件を照合する。
- 担当範囲と費用に納得してから、契約内容を判断する。
検討から譲渡実行までの順序は、M&Aの流れ・スケジュールの解説で確認できます。まだ売却を決めていない方も、相談時には「費用を含めて選択肢を比較したい」と伝えると、確認すべき事項が明確になります。
M&A HACKでは、会社売却・事業承継・買収の相談を受け付けています。相談内容には、業種・年商規模・希望時期と、手数料について確認したい点をご記入ください。初回の相談は無料です。M&A・事業承継の無料相談をする。
本記事は一般的な費用の比較方法を説明したものです。計算例はすべて仮定であり、当社・他社の料金表や個別案件の見積もりではありません。出典は中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月改訂)、確認日は2026年10月6日です。実際の料金・支払条件は各支援機関との契約書・見積書でご確認ください。


