「会社全体を譲りたい」「一部事業だけを売りたい」「買収の前に出資や業務提携から始めたい」。M&Aの手法は、実現したいことによって候補が変わります。
最初に決めるのは、会社・事業・株主のうち何を変え、何を残すかです。手法名や税金のイメージだけで選ぶと、必要な契約や人材を引き継げない、会社に借入や費用が残る、といった問題が生じます。この記事では主要な種類のメリット・デメリットを比較し、相談前に候補と確認事項を整理する方法を解説します。
売却・買収・提携の方法を決めかねている方は、目的と残したい条件を整理して、M&A HACKの無料相談をご利用ください。当メディアは合同会社SFSが運営しています。個別の法律・税務判断は弁護士・税理士等に確認してください。
目次
M&Aの主な種類とメリット・デメリットを比較する
M&Aは合併・買収等を表す言葉で、広い意味では資本提携や業務提携まで含めて使われることがあります。「買収」「提携」という分類だけで判断せず、具体的に株式・事業・権利義務をどう扱うかを確認しましょう。
以下は主な選択肢の一覧です。中小企業庁の「中小M&Aの主な手法と特徴」と、会社法の関連規定(2条・199条、合併・分割・株式交換・株式移転の規定、2026年10月15日時点)を踏まえて整理しています。
| 種類 | 何が変わるか | 主なメリット | 負担・デメリット |
|---|---|---|---|
| 株式譲渡 | 既存株主が株式を譲り、対象会社の株主構成が変わる | 会社の事業・契約・雇用を継続しやすい | 会社の簿外・偶発債務等も残る。株式や契約条件の確認が必要 |
| 事業譲渡 | 合意した事業と資産・契約等を移す | 対象を選び、他の事業を会社に残せる | 個別の承諾や移転手続、許認可等の確認が必要 |
| 会社分割 | 事業に関する権利義務の全部または一部を承継させる | 一部事業の切出しや組織再編を検討できる | 債権者保護・労働契約承継等の手続と承継範囲の精査が必要 |
| 吸収合併 | 消滅会社の権利義務を存続会社に承継させる | 法人を一つにして運営を統合できる | 債務等も承継。組織・システム・雇用等の調整負担がある |
| 新設合併 | 関係会社が消滅し、新設会社に権利義務を承継させる | 新しい法人の下で統合を設計できる | 設立・承継・統合の準備が必要。過去の義務が消えるわけではない |
| 株式交換・株式移転 | 既存の会社、または新設会社を完全親会社とする関係を作る | 法人を残しながら親子関係や持株会社体制を作れる | 対価・比率・株主の権利、組織再編の手続を確認する必要 |
| 第三者割当による増資 | 新株の割当てにより会社が出資を受ける | 会社の資金調達と新たな株主との関係構築を図れる | 議決権の構成・既存株主への影響、発行条件等の確認が必要 |
| 資本提携・業務提携 | 出資等や、販売・開発等の協力関係を作る | 目的を絞った協力から始められる | 意思決定・負担・権利・解消時の条件が曖昧だと調整が難しい |
表の利点は成立や利益の保証ではありません。株式交付等のほかの手法や、複数手法を組み合わせる方法もあります。実際の契約条件や会社の状況で、必要な手続と負担を比較してください。
目的別に候補を絞るための選択表
候補を一つに決める前に、希望に近い方法を二つ挙げ、実行できない条件を探すと比較しやすくなります。まずは次の表で、自社の目的に近い行を確認してください。
| 実現したいこと | 検討する候補 | 先に確認すること |
|---|---|---|
| 会社全体の事業・組織を引き継ぎたい | 株式譲渡等 | 株主構成、会社に残る債務、主要契約・許認可の条件 |
| 会社を残して一部事業を譲りたい | 事業譲渡、会社分割を使う方法等 | 対象の範囲、必要な人材・契約、残る会社の収支 |
| 法人を一つにして運営を統合したい | 吸収合併、新設合併等 | 承継する権利義務、組織・システムの統合負担 |
| 法人を残して完全親子関係を作りたい | 株式譲渡、株式交換、株式移転等 | 対価、株主の意向、既存会社か新設会社を親にするか |
| 会社に資金を入れる、または協力から始めたい | 第三者割当増資、資本提携、業務提携等 | 資金の受取先、経営への関与、業務分担と終了条件 |
「売主個人が対価を得たい」と「会社に資金を入れたい」は分けてください。既存株式の譲渡では通常、代金を受け取るのは売主の株主です。新株を発行する増資では、会社が出資を受けます。同時に行う場合も、お金の行き先と株主構成を個別に整理します。
株式譲渡と事業譲渡は、引継ぎの単位が違う
株式譲渡:会社を継続する利点と、残る問題を確認する
株式譲渡では対象会社の法人格が変わらないため、資産・負債・雇用・契約・許認可等は原則存続します。一方、未払残業代や紛争等の問題も対象会社に残ります。買い手は、必要な事業だけを見て会社全体の問題を見落とさないようにしてください。
支配権変更に関する契約条項がある場合には、協議や承諾等が必要になることがあります。株主が変わるだけだから手続は不要、と判断するのは避けましょう。譲渡承認・株券・株主名簿などの手続は株式譲渡の仕組みと確認事項で解説しています。
事業譲渡:対象を選ぶ利点と、個別手続の負担を比べる
事業譲渡は、事業の全部または一部を、対象を定めて移す方法です。対象を調整しやすい反面、設備だけを取得しても、店舗の賃貸借や主要取引、必要な人材・許認可が整わなければ営業できません。
労働契約を承継する場合には、従業員本人の個別承諾が必要です。厚生労働省の改正指針は2026年5月25日から適用されており、説明・協議や労働条件等の確認も求められます。手続を決める際は事業譲渡の承継チェック表を使い、未確認項目を一覧にしてください。
会社分割・合併・株式交換等は、法人の残し方から考える
会社分割:切り出す範囲と承継手続を設計する
会社分割は、事業に関する権利義務の全部または一部を、分割契約・計画に従って承継させる組織再編です。既存の会社へ承継する吸収分割と、新設会社へ承継する新設分割があります。「会社分割なら不要な資産もすべて移る」と一律には言えず、対象を精査する必要があります。
債権者保護や労働契約承継等の手続を確認し、許認可は個別法令ごとに扱いを確認してください。事業の切出しに使う場合も、従業員の条件を自由に変更できるという理解で進めないでください。分割だけでは第三者への売却まで完了しない構成もあるため、分割後にどの株式・事業を誰へ移すかを確認します。
合併:一つの法人にまとめた後の運営を見積もる
吸収合併は、消滅会社の権利義務を存続会社へ承継させる方法です。新設合併は、関係する会社が消滅して、新たに設立する会社へ権利義務を承継させます。新会社にすることで、過去の債務や組織の問題がリセットされるわけではありません。
法人の一本化に加え、会計・システム・顧客窓口・労働条件等の調整を計画します。会社を消滅させる必要があるか、子会社のまま運営する方法では目的を満たせないかも比較してください。厚労省の事業譲渡・合併に関する指針は、合併の労働契約が包括的に承継される点も示しています。
株式交換・株式移転:完全親子関係を作る方法を比べる
株式交換は、対象会社の発行済株式全部を既存の会社に取得させる方法です。株式移転は、一つまたは複数の会社の発行済株式全部を、新設する株式会社に取得させる方法です。法人を残しながら完全親子関係を作る点と、会社自体を一つにする合併を区別しましょう。
対価の種類・比率、既存株主の権利、再編後の意思決定を確認します。現金負担や税務上の取扱いだけで有利と決めつけず、会社形態や所定の手続も含めて専門家に確認してください。
出資・提携を選ぶ場合は、経営への関与と退出条件を決める
会社の取得や統合を急がず、資金調達や販売・開発等の協力関係を作る方法もあります。資本提携には株式取得や持合い、第三者割当増資等があり、株式の移転や株主構成の変化を伴います。業務提携は、出資を伴わずに行う場合もあります。
第三者割当による新株発行であれば、会社が資金を受け取る一方、既存株主と新株主の議決権構成等が変わります。資本提携だから経営に影響しない、と考えず、株式の内容、役員の選任、重要な事項の決定方法を確認してください。
合弁会社を設立・共同運営する場合も、誰が資金・人材・技術を出すか、利益と費用をどう分けるか、意見が対立した場合にどう決めるかを整理します。まず、次の五つを契約前の質問にしてください。
- 共同で達成する目標と、各社の担当は何か
- 出資額・追加負担・損失の扱いはどうするか
- 知的財産やデータを誰が保有・利用できるか
- 意思決定が止まった場合の解決方法は何か
- 提携の終了・株式の売却等の条件はどうするか
少額出資や提携でも、資金や権利に関するリスクがなくなるわけではありません。協力を試す範囲と、その後に拡大・終了する判断条件を決めましょう。
スキーム選びで共通して確認する5つの条件
手法の候補が決まったら、実行できるかを次の条件で確認します。一つでも未確認なら、担当と確認期限を決め、結論を急がないでください。
- 対象と残すもの:会社、事業、株式、契約、人材、資産・負債の範囲。移す対象だけで営業や運営が成り立つか。
- 同意・承認・許認可:株主、債権者、取引先、従業員等への必要な手続。所管行政への確認と実行日までの日程。
- 価格・資金の行き先・総費用:対価を受け取る主体と時期、税金、調査・支援費用、登記・移転・統合、運転資金。M&Aの価格算定と手数料の確認事項を使い、前提をそろえる。
- 債務・保証・契約責任:簿外債務、経営者保証、表明保証・補償等。手法を選ぶだけで責任がすべて消えると考えない。
- 引継ぎ後の運営:従業員・顧客への説明、システム、責任者、未完了事項。実行後の収支や計画との差を誰が点検するか。
中小M&Aガイドライン第3版(47~51頁)も、調査結果を契約条件へ反映することや、経営者保証の取扱いを慎重に検討することを示しています。税率や組織再編税制の適用、契約の有効性は個別条件によるため、手法名だけで節税や安全を保証しないでください。
仮想例で考える手法の選び方と進め方
会社を残して一店舗だけを譲る場合
複数店舗を営むA社が一店舗だけを第三者へ譲り、残りを続けたいと仮定します。事業譲渡と、会社分割を使って対象を切り出す方法等が候補です。店舗の設備だけでなく、賃貸借・許認可・人材・仕入契約の扱いと、A社に残る共通費用を比べます。主要な条件を満たせないなら、対象変更や日程延期、見送りを検討します。
会社に資金を入れて共同開発したい場合
B社がC社と共同開発し、B社自身の開発資金も確保したいと仮定します。既存株主の株式を売るだけでは、その代金がB社に入るとは限りません。新株発行による出資と業務提携等を候補に、資金の行き先、議決権、開発成果の権利、追加投資と終了条件を比較します。いずれも説明用の仮想例で、特定企業の成功事例ではありません。
進める際は、①目的と残す条件を書く、②候補を二つ挙げる、③未確認の契約・人材・資金等を整理する、④必要な調査と専門家を決める、⑤総費用・実行条件・日程を比較する、⑥実行後の担当と評価日を決める、という順序で検討してください。M&Aの流れと準備チェックも参考にできます。
よくある質問と、初回相談の準備
最も簡単で、必ず有利になる手法はありますか?
一律には決められません。必要な承諾や許認可、権利・負債、株主の意向、資金、統合の負担で変わります。所要期間や総費用は、対象と必要な工程を明らかにしてから確認してください。
少数の株主や不要な債務を、手法の選択だけで排除できますか?
他の株主や債権者の権利は、単純な持株比率や手法名だけでは判断できません。取引条件と必要な手続、相手方の権利を弁護士等に確認してください。保証解除等も、金融機関等との確認が必要です。
相談時点で手法を決めておく必要がありますか?
決め切る必要はありません。目的、対象・残すもの、株主構成、事業別の収支・借入の概要、主要な契約・許認可、希望時期を整理し、わからない項目は未確認と記してください。支援先を比較するときはM&A支援会社の選び方とFAと仲介の違いを使い、担当範囲と費用を確認できます。
まずは目的に近い候補を二つと、決められない理由を整理しましょう。機密資料や従業員の個人情報は、開示する範囲・方法を確認してから共有してください。M&Aの手法と進め方を無料相談する際に、「何を残し、何を引き継ぎたいか」をお知らせください。


