「建設用金属製品業界でのM&Aの相場は?」
「建設用金属製品業界でのM&Aの事例を知りたい」
この記事をご覧の方は、上記のような疑問をお持ちの方が多いのではないでしょうか。
M&Aは企業の今後を左右する非常に重要な経営判断ですが、検索しても専門的な用語ばかりでなかなか概要を理解できない方も多いでしょう。
そこで、M&Aの専門企業である「M&A HACK」が、建設用金属製品業界のM&Aについて分かりやすく簡潔に解説します。
業界の市場動向から、M&Aにおける注意点、実際の成功事例などについても詳しく解説していきますので、建設用金属製品業界のM&Aに興味がある方は、ぜひ参考にしてください。
目次
建設用金属製品とは
M&Aを行う上で、業界についての基本的な理解を深めることは重要です。
建設用金属製品業界のM&Aを行う上で、前提となる知識は以下の3点です。
- 製品の種類と用途
- 建設用金属製品会社のビジネスモデル
- 建設用金属製品業界の代表的な特性
それぞれ詳しく解説していきます。
製品の種類と用途
そもそも建設用金属製品とは、鉄骨、鉄塔、金属格子、サッシ、ドア、シャッター、金属屋根などの、建設で扱う金属製品を指します。
建設用金属製品では、鋼材、アルミニウム、金属屋根材などの素材が用いられることが多いです。
これらの素材が用いられる理由と使用用途は、以下の通りです。
素材 | 使用される理由 | 使用用途 |
---|---|---|
鋼材 | 強度が高く割れにくいため | 機械や構造物の部品など |
アルミニウム | 軽くて柔らかく、 加工しやすいため |
外壁や窓枠、電線など |
金属屋根 | 耐震性と耐水性が高いため | 屋根 |
建設用金属製品会社のビジネスモデル
建設用金属製品会社は、建設現場で使用される金属製品を製造・加工し、主に建設会社や建設資材の卸売業者に対して製品を販売します。
金属製品を造るにはもちろん材料が必要となるため、素材となる鋼材やアルミニウムなどの仕入れも行います。
どの業種でもなるべく安く仕入れてなるべく高く売ることが基本方針となりますが、近年、建設資材の物価が大きく上昇中です。例えば鋼材は鉄鉱石から、アルミニウムはボーキサイトという鉱石からできており、そういった建設資材の価格がウクライナ侵攻を境に高騰しています。
2015年を基準とした建設資材物価指数は以下の通りです。
年 | 建設資材物価指数 |
---|---|
2018年 | 102.7 |
2019年 | 104.2 |
2020年 | 104.5 |
2021年 | 110.6 |
2022年 | 124.6 |
2023年 | 133.0 |
一般財団法人 建造物価調査会「建設資材物価指数(2015年基準)」より
建設資材の高騰により建築物の価格も高騰することで、消費者の購入意欲が下落する可能性もあります。
建設用金属製品業界の特性
建設用金属製品業界は、建築・建設業界の動向に大きく影響されるため、経済状況や政策の変化が業界に大きな影響を与えます。
また、エネルギー効率や環境保護に関する要求が高まる中、新しい技術や材料の研究開発に継続的に取り組むことが求められています。
さらに、業界では多くの企業が競合しており、顧客との信頼関係や独自性のある技術・製品が、業界での競争力を決定する重要な要素です。そのため、企業は品質管理やサービス向上、新技術の開発に注力しています。
建設用金属製品業界の市場動向と市場規模
M&Aを検討する上で、市場規模とその動向を理解することは必須と言えます。
ここでは建設用金属製品の市場について理解できるよう、市場の課題や規模、将来の展望などについて解説します。
建設用金属製品業界が持つ課題
建設用金属製品業界には、大きく3つの課題が存在します。
1つ目の課題は、労働力の不足です。建設業界全体が人手不足であることや、高齢化の影響といった背景により、今後労働力が不足することが予測されます。これにより、企業は生産性の向上や作業効率化のために、ロボットやAIの導入を検討する必要があります。
2つ目の課題は、製品開発において環境配慮が不可欠となっていることです。環境問題の悪化に伴い、現在はこれまで以上に省エネルギーやリサイクルが求められています。企業は環境負荷の低い素材の開発や、省資源化に取り組む必要があります。
3つ目の課題は、海外市場への展開が求められていることです。国内の建設需要が縮小傾向にあるため、海外に目を向ける必要性が出てきました。しかし、海外市場での事業展開にはリスクや費用が伴うため、適切な戦略やパートナー選びが重要となります。
建設用金属製品業界の市場規模
建設用金属製品業界の市場規模は、建設業界から大きく影響を受けています。
2023年の日本国内での建設投資はで約70兆円であり、その中で金属製品の市場規模は数兆円規模で推移しています。建設現場で使用される鉄骨、金物、アルミニウムなどの金属製品が多岐にわたり、業界全体として金属製品が大きな市場を形成しているからです。
また、国内外の建設需要の変化や、新素材の開発、技術革新などにより、市場規模は今後も変化することが予想されます。企業は市場環境の変化に対応し、持続的な成長を目指すことが求められていると言えるでしょう。
参考:1. 建設投資の動向 | 建設市場の現状 | 日本建設業連合会
建設用金属製品業界の市場動向の背景
建設用金属製品業界の市場動向に影響を与える背景には、以下の3つの要因があります。
1つ目は、建設業界の景気動向です。建設業界の景気が良好であれば、建設現場での金属製品の需要が増加し、市場が活性化します。
2つ目は、技術革新や新素材の開発です。新しい技術や素材が開発されることで、既存の金属製品に変わる新たな需要が生まれることがあります。例えば過去には、耐久性に優れるアルミニウム合金を用いた床材や、通常よりも2倍以上の強度がある鋼材などが開発されています。
3つ目は、環境問題に対する意識の高まりです。環境に配慮した製品開発やリサイクルが求められる中、企業は環境負荷の低い製品や省資源化の取り組みにより、市場での競争力を高められます。
以上の要因が市場動向に影響を与えており、企業はこれらの要因を総合的に判断し、市場に合わせた戦略を立てることが重要です。
建設用金属製品業界の成長要因と将来の展望
建設用金属製品業界は、いくつかの要因によって安定的な成長を続けることが予想されます。
1つ目の要因は、建築需要の増加です。2025年の大阪万博に向けた建設計画など、新しい施設や住宅の建設、インフラ整備やリフォームが盛んに行われることで、金属製品の需要が高まっています。
ただし、既に建設業は成熟しており、さらに高齢化や人口減少によって経済成長が鈍化しているため、大きな成長・拡大はあまり見込めないでしょう。
2つ目の要因は、技術の進歩です。例えば、建設現場で使用される金属製品の軽量化や、熱伝導性を持たせるような加工技術の向上が挙げられます。これにより、建設作業の効率化が図られ、コスト削減や省エネルギーが期待できるため、企業間の競争力も高まっています。
このような要因から、建設用金属製品業界は今後も安定的な成長を続けるでしょう。しかし、競争が激化したり、原材料価格が変動することによる影響には注意しなければならないと言えます。
建設用金属製品業の動向と今後
建設用金属製品業界での動向を理解することは、M&Aの戦略を決める上での助けになるでしょう。
近年の建設用金属製品業界での動向として、以下の3点が挙げられます。
- 海外調達の増加
- 技術力と設備の向上
- 持続可能性と環境配慮への意識向上
それぞれ解説していきます。
海外調達の増加
近年、建設用金属製品業では海外調達の増加が顕著となっています。
国内の生産コスト上昇や人件費上昇に伴い、企業が海外から製品や部品を調達することでコスト削減を図るためです。特に東南アジアや中国など、労働力が豊富で生産性が高い地域が調達先の主要エリアとなっています。
しかし、海外調達には品質や納期の安定性に関するリスクが伴うことから、企業は品質管理体制の構築や、製品を作り出すまでの一連の流れの最適化への取り組みも急務となっています。予測の難しい経済状況の中で、企業がどの程度の海外調達比率を設定し、リスクマネジメントを行うかが今後の競争力を左右する要因となるでしょう。
技術力と設備の向上
建設用金属製品業界では、技術力と設備の向上が求められています。
その理由は、素材となる製品の品質が建築物の品質に大きく影響するためです。さらに、設備の向上によって生産性を高めることは、売上の増加とコスト削減に直結するという理由もあります。
例えば、研究開発による新素材の開発や、生産ラインを最新の設備に切り替えるといった動向があります。
このような流れによって、より多様なニーズに応える製品を提供できるようになるとともに、環境負荷の低減や生産効率の向上が実現される見通しです。技術力と設備の向上が、ビジネス環境の変化に対応し、競争力を高める要因となります。
持続可能性と環境配慮への意識向上
近年、企業活動において重要視されている点は、持続可能性と環境配慮への意識です。この背景には、地球温暖化や資源枯渇の危機があります。
建築分野で行われている環境への配慮は、省エネルギー設計や使い捨てでない建材の採用などです。例えば、文化シヤッターグループのBXカネシンによって、有害物質を出さない防錆・防腐力に優れた製品が開発されています。
環境に配慮した建設事業は、企業にとっては新たなビジネスチャンスでもあります。技術革新によって、より環境に優しい製品を製造できれば、企業からの受注が増えるでしょう。
建設用金属製品業界のM&Aの動向
建設用金属製品業界においてもM&A動向が盛んになっています。その背景には国内での競争激化や海外市場での拡大があげられます。
M&Aの動向を理解することは、M&Aの方向性を決める一助となるでしょう。ぜひ参考にしてください。
最近のM&A事例とその特徴
最近のよく見られるM&A事例は、国内大手企業による吸収合併や、海外企業との提携です。このようなM&A事例に共通する特徴として、企業間で技術の共有や相互のノウハウを活用することで、業界全体の競争力向上を図る狙いがあると考えられます。
技術力の向上は生産性の向上、作業の効率化、製品の品質向上など多大な恩恵を与えます。そのため、技術やノウハウの獲得のためにM&Aを行う企業が増えていると考えられるでしょう。
例えば2015年に、三協立山がアメリカAleris社の株式を取得しました。これを通じて、三協立山は高度な技術の獲得と、海外への事業展開を目指しています。
大手による業界再編の進展
近年、建設用金属製品業界では経営合理化を目的とした業界再編が進んでいます。つまり、大手企業による買収です。
大手による買収は、競争力のある企業が市場シェアを確保するためや、技術や設備を手に入れることで自社の強みを拡大すること、生産力の向上といった目的があります。
例えば業界最大手のLIXILは、トステム、INAX、新日経、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの5社を統合して誕生した企業です。
そして今後、大手による業界再編の流れは強まると予想されます。将来、人口の減少により新規住宅の建設数が少なくなり、業界の先行きがだんだんと厳しくなると考えられているためです。
海外企業の買収による事業拡大
大手企業は国内での買収だけでなく、海外企業の買収も行っています。
高い技術力を持つ海外企業を買収することで新規事業の立ち上げや技術・知財を獲得するためです。その結果、新たな市場への参入や海外市場での事業拡大を目指しています。
国内での建設業界の大きな成長はあまり期待できないため、海外進出のために海外企業を買収する企業も今後増加すると考えられます。
建設用金属製品のM&Aをするメリット
建設用金属製品のM&Aにおけるメリットを、売却側と買収側の視点に分けてそれぞれ解説します。
売却側にも買収側にもM&Aを行うメリットは多岐に渡るため、検討する上で参考になるはずです。
売却側のメリット | 買収側のメリット |
---|---|
経営の安定化 | 高度な技術の獲得 |
生産性の向上 | 市場シェアの拡大 |
後継者不足の解消 | 事業の多角化 |
従業員の雇用の維持 | 素材の調達から販売までの流れの強化 |
技術の継承 | 人件費の削減 |
選択と集中 | |
株式の譲渡収入による、経営からの撤退 |
売却側のメリット
売却側にとって、M&Aには以下のようなメリットが存在します。
- 経営の安定化
- 生産性の向上
- 後継者不足の解消
- 従業員の雇用の維持
- 技術の継承
- 選択と集中
- 株式の譲渡収入による、経営からの撤退
これらのメリットを活かし、売却側企業は新たな成長戦略を展開することで、今後の市場環境に適応できるでしょう。
経営の安定化
資金力のある大手企業に買収されることによって、経営が安定するメリットがあります。
まず、買収企業のネットワークを活用することで、新規事業や顧客開拓が容易になるでしょう。大手企業のブランド力を借りられることは、中小零細企業にとって非常に役に立つはずです。
さらに、大手の傘下に入ることで、将来的に経営が厳しくなったとしても、事業を再建する機会が得られます。親会社からの発注や支援を受けられるためです。
実際、黒字経営をできているうちに、大手の傘下に入って将来に備える中小零細企業が増加しています。
生産性の向上
M&Aによって企業の規模が拡大し、製造プロセスや設備の最適化が図られることで、生産性が向上します。生産性が向上することのメリットは多岐に渡ります。
- 利益率の向上やコスト削減
- 企業間で技術交流が進むことで、新たな製品開発や製造技術が向上する。それに伴い、市場競争力の強化にも繋がる
- 少ない資本で多くの製品を生産できる
- 少ない労働力でも高い生産性を維持できるため、高齢化、人口減少による人材不足に対処できる
- 労働時間が削減できる。それに伴い、従業員のワークライフバランスも整う
以上のように、生産性の向上は企業に多くの利益を与えてくれます。
後継者不在の解決
後継者不足は多くの企業が直面する問題であり、特に中小企業や家族経営の事業において顕著です。後継者が見つからないと、企業の存続が危ぶまれ、地域経済や雇用にも影響が出るといった点が問題となります。
しかし、M&Aによって第三者に会社を承継できれば、オーナーが引退した後も会社を存続させられます。特に近年は少子高齢化によって後継ぎが不足しがちです。そのため、M&Aで第三者に承継する経営者が増えています。
後継者不足による問題が解消されることで、企業が持続的な成長を遂げることが期待できるでしょう。
従業員の雇用の維持
後継者不在の解決に付随し、従業員の雇用の維持ができるというメリットもあります。雇用の維持は、企業の成長や地域経済の安定に大きく寄与するといった点で非常に重要です。
基本的に経営者は自社の従業員を守る責任があると言えるため、後継者不在による廃業で従業員を雇用できなくなることは非常に心苦しいことでしょう。
しかし、第三者の後継者が現れれば、基本的に売却前と同条件で雇用が継続されます。
また、仕事内容の幅が広がる可能性もあるため、売却によって従業員のキャリアの幅が広がるという利点もあるでしょう。
ただし、ある程度早い段階で従業員にはM&Aを検討している旨を説明しておく必要があります。十分な説明がない場合「この会社は大丈夫なのだろうか」と不必要に従業員の不安を募らせてしまう可能性があります。
技術の継承
もし後継者が見つからず廃業となってしまった場合、その企業で培われてきた高度な技術が失われてしまう恐れがあります。技術の喪失は、企業にとっても、業界にとっても、消費者にとってもマイナスにしかなりません。
しかし、M&Aによって事業が存続すれば、技術が次世代へ受け継がれます。また、買収側の企業と技術やノウハウを共有することで、新たな価値を創造する機会も生まれるでしょう。新しい価値が創られることにより、企業の競争力が維持され、事業の持続的な成長への寄与も期待できます。
中小零細企業の場合、より自社の技術・ノウハウを磨くことに精力を傾けていることが多いため、その技術を失わずに済むことは大きなメリットでしょう。
選択と集中
選択と集中は、企業がリソースを効率的に活用するための重要な戦略です。理由は、企業が所有できるリソースには限りがあるためです。限られたリソースをどこに集中させるかを適切に判断することで、市場での競争力を向上させられます。
例えば複数の事業を展開している場合、建設用金属製品の事業を売却することで他の事業に集中できるというメリットがあります。
もちろん、建設用金属製品の事業が上手くいっている場合は、売却する必要はないでしょう。しかし、もし上手くいっていない場合や、より上手くいっている事業がある場合は、建設用金属製品の事業を売却することで、お金などのリソースをより上手くいっている事業に回せます。
選択と集中は企業にとって競争力を高め、成長を促進するための重要な戦略の1つです。
株式の譲渡収入による、経営からの撤退
株式の譲渡収入による経営からの撤退は、特に年配の経営者にとって非常に重要なメリットです。なぜなら永遠に会社を経営し続けることは不可能だからです。
しかし、株式を第三者に譲渡して経営権を委譲することにより、経営者はプライベートな生活を追求できます。後継者がいない場合、従業員のために延々と働き続けないといけないですが、M&Aによって後継者が見つかれば、自身は経営から離れてゆとりのある生活を送れるでしょう。
また他にも、経営からの撤退によって新たな事業を始められるというメリットもあります。既存の事業を運営するには当然時間がかかりますが、売却によって新しい事業を始める時間のゆとりが生まれます。
経営から撤退する上で注意すべき点は、適切な譲渡先を選ぶことでしょう。従業員の未来を背負っている経営者たるもの、会社の将来や従業員の福利厚生が保護されるように配慮するべきと言えます。
株式の譲渡収入による経営からの撤退は、適切なタイミングと相手を選び実行すれば、経営者にとって有益な決断となります。
買収側のメリット
建設用金属製品のM&Aには、買収側にも多くのメリットが存在します。具体的なメリットは以下の通りです。
- 高度な技術の獲得
- 市場シェアの拡大
- 事業の多角化
- 素材の調達から販売までの流れの強化
- 人件費の削減
それぞれ詳しく解説します。
高度な技術の獲得
まず、技術の獲得が挙げられます。
企業によって独自の技術や特許を持っており、M&Aによってそれらの技術を取得できるのは大きなメリットです。他社と同じような技術を開発するには多大なる労力と時間がかかりますが、買収すれば技術獲得の行程を大幅にショートカットできます。
そして、高度な技術を獲得することは、企業が競争力を高めることに寄与します。自社の製品やサービスの品質が向上し、市場における地位を確立できるためです。
例えば、高い加工技術によって耐久性を向上させられる技術を買収で獲得した場合、企業は市場での優位性を維持し、さらなる成長が見込めるでしょう。
高度な技術の獲得は、製品の質の向上だけでなく生産性の向上にもつながるため、建築用金属製品業界では非常に大きなメリットと言えます。
市場シェアの拡大
次に、市場シェアの拡大が挙げられます。買収することで、これまで対象外だった顧客層や地域にアプローチできるようになり、より多くの取引先との関係を築くことができるでしょう。
新しい顧客層にアプローチできることで、企業の売り上げ、そして利益が向上します。
また、市場シェアの拡大は企業の成長や事業の発展を促すだけでなく、競争力の向上につながるというメリットもあります。その理由は、市場シェアが高いだけでブランド向上につながったり、認知度が拡大するためです。
顧客は競合他社との比較検討をする際、市場シェアが高い企業を選ぶ傾向にあるため、シェアが拡大することでプラスのスパイラルに入ると言えるでしょう。市場シェアが拡大することで顧客により選ばれやすくなり、それによってさらに市場シェアが伸びるという流れです。
このように、買収による市場シェアの拡大は直接的に売り上げ増加に寄与する可能性が高いです。
事業の多角化
企業の買収により、事業の多角化を図れることもメリットの1つです。複数の異なる事業を運営することで、企業のリスク分散や新たな収益源の開拓が可能になります。
単一の事業に依存する場合、その事業の不調が全体の業績に大きな影響を及ぼす可能性がありますが、多角化によってリスクを分散できます。
また、異なる事業を運営することで、事業間でプラスの相乗効果が生まれる場合もあるでしょう。例えば設備や生産ラインを共有することで、コスト削減につながるといった効果が考えられます。
ただし、事業の多角化によって、コストの増大や経営の非効率化などのデメリットが生じる場合もあります。異なる事業を運営することでよりリソースを奪われ、上手く事業を統合できず苦労するといったこともあるでしょう。買収の際には自社の経営資源を十分に分析し、適切な多角化戦略を選択することが重要です。
素材の調達から販売までの流れの強化
買収によって、素材の調達から販売までの流れ、つまり「サプライチェーン」が強化されます。
買収することでサプライチェーンが強化される理由は主に2つあります。
1つ目は、両社のリソースを統合できるためです。生産施設や物流ネットワークなどを、買収することで統合。それにより、サプライチェーン全体の効率が向上し、コスト削減やリスク低減が見込めます。
2つ目は、供給先との交渉力が向上するためです。買収によって企業規模が拡大すると購買力が増すため、大量購入による割引の提案などが通りやすくなります。それによりコストが削減され、サプライチェーン全体の効率が上がります。
これらの改善により、顧客満足度や商品価値の向上が期待でき、企業の業績にも良い影響を与えるでしょう。サプライチェーンの強化は企業の利益率の向上に寄与し、競争力を向上させます。
人件費の削減
企業を買収することで、人件費の削減が期待できます。買収によって人件費を削減できる理由は、業務を統合できるためです。
売却側と買収側が同じ業務を重複して行なっている場合、買収によって1つに統合できます。例えば両社の営業チームを統合することで、営業担当者の数を減らせます。
人件費の削減はコスト削減に直結するため、利益率が向上するという大きなメリットがあります。また、人口減少や少子高齢化によって将来の人手不足が予想されているため、より少ない人数で運営できるようになることは、持続的な企業体制の構築に寄与するでしょう。
建設用金属製品のM&Aの注意点
M&Aは売却側と買収側、どちらにとっても非常に重要な経営判断です。そのため、M&Aを行うことで大きな価値を得られますが、その一方でリスクもあります。
ここでは、なるべくリスクを低減させる上での注意点について、1つずつ解説します。
取引先離れの防止
まず第一に、売却側の既存の取引先との関係を維持することが重要です。
もしもM&Aをきっかけに契約を解除されてしまうと、売り上げの低下、コストの増大といった点で大きな損失となります。また新たな取引先を探すための手間・労働力が必要となるからです。
取引先離れを起こさないためには、信頼関係の維持が大切です。M&Aによって別の会社の傘下に入る場合でも、信頼関係を断絶しないように配慮する必要があるでしょう。
買収企業による、売却企業のリスクの把握
企業の買収によって得られる価値はいくつもありますが、その一方でリスクもあります。売却企業の買収によるリスクを徹底的に把握しておかないと、M&A後に想定外の問題が多発するでしょう。
売却企業についてさまざまな側面から詳細な調査を行い、リスクや課題を把握することを「デューデリジェンスの実施」と言います。デューデリジェンスの実施には、弁護士や会計士、コンサルタントなどさまざまな専門家の力が必要です。
デューデリジェンスでは、例えば以下の3点をM&Aの締結前に確認しておく必要があります。
- 製品の製造の実態
- 不良債権や債務の有無
- 工場や設備の状態
1つずつ解説します。
製品の製造の実態
製品の製造を下請けの企業に任せているのかどうか、そして下請けとの契約についてあらかじめ確認する必要があります。もしもM&A後に下請けとの契約が解消されてしまった場合、また新たな製造元を探す必要があるからです。
売却側の企業が自社で製造を行なっているのであれば問題ありません。M&A後も変わらず製造を行なってもらえば良いからです。
しかし下請けに製造を任せていることを知らず、さらにM&A後に契約が解消されるようなことがあれば、新たな下請けを探すための手間がかかります。その上、新たな下請けが見つかるまでは製造・販売ができないという事態にもなりかねません。
大きな機会損失につながるため、あらかじめ製品の製造の実態を明らかにしておくことが重要です。
不良債権や債務の有無
M&Aの締結前に売却側の企業の不良債権や負債を確認する必要があります。これは建設用金属製品業界に限った話ではなく、どんな業界でも同様です。
調査が甘かった場合、後に大きな負債が発覚し、買収側の企業がそれを負担しなくてはならないという事態に陥ることもあります。
その場合、M&Aによって業績を伸ばすどころか足を引っ張られてしまう恐れがあるため、M&A前に徹底的に調べることが重要です。
特に貸借対照表に記載されない、簿外債務には注意しましょう。簿外債務には買掛金や退職給付引当金などがあります。帳簿に記載されている負債や債務は簡単に見つかりますが、記載されていない場合は簡単には見つかりません。
簿外債務を見つけられない場合、予期せぬ負債を負うばかりか、実態よりも高値で買収することになるため、二重で損をすることになります。そのような事態を防ぐためには、信頼できる専門家に調査を依頼するのが良いでしょう。
工場や設備の状態
工場や設備の状態もあらかじめ確認しておく必要があります。工場や設備は、建設用金属製品会社の肝となる部分です。
工場や設備を確認しないのは、言うなれば中古車を購入する際に、その車がどれほど消耗しているのかを確認しないようなものです。中古車の消耗具合を確認しないと、適切な価格を判断できません。それと同様に、建設用金属製品会社を買収する上で工場や設備の確認をしないと、実態よりも高い価格で買収することになります。
工場や設備の状態に問題がある場合、M&A後に大きくコストがかかる可能性もあるでしょう。想定外のコストによって、事業の運営に支障をきたす恐れもあります。
そういった事態を防ぐために、あらかじめ売却側の設備とメンテナンス状況などを確認しておくことが重要です。
既存従業員の離職対策
M&Aをする際に、既存従業員に対して何の気遣いもない場合、従業員が離職し、ひいては優秀な人材が流出する恐れもあります。そのため、既存従業員の離職対策も重要です。
離職を防ぐための重要ポイントは、主に2つあります。
1つ目は、従業員の労働環境や雇用関係の変化に対して敏感に配慮することです。
既存の従業員からすれば、M&Aによってどのように職場や雇用関係が変わってしまうのかを不安に思って当然でしょう。そのため、M&A後も安心して働けるよう、相手企業と給与や企業方針のすり合わせを行う必要があります。
2つ目は、M&Aを行う理由や目的をきちんと伝えることです。
経営者が十分な説明なしにM&Aの話を進めてしまうと、従業員は不安や不信感を抱いてしまいます。そのため、M&Aを検討している時期など、できるだけ早い段階でM&Aの理由・目的をきちんと伝えておくことが重要です。あらかじめ伝えておくことで、納得感を持ってもらい、不安な気持ちを解消できます。
M&Aの専門家への助言依頼
そして最後は、独自にM&Aを行わず、M&Aの専門家にアドバイスを求めることです。
そもそも専門家に頼らずに、M&Aの取引先を探すのはかなり難しいことです。一方で、M&Aの専門家に頼れば、幅広い企業をマッチング相手として選択肢に入れられます。
売却側だとしても買収側だとしても、M&Aは企業の将来を左右する重要な選択になります。重要な選択だからこそ、専門家に頼ってマッチング相手の選択肢を増やすことが重要です。
また、M&Aでのリスクを回避するためにも、専門家のアドバイスは必須と言えるでしょう。専門家がついていれば、M&Aで陥りやすい問題を避け、納得のいく買収、もしくは売却を行える可能性が非常に高まります。
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建設用金属製品におけるM&Aを成功させるためのポイント
建設用金属製品のM&Aを成功させるためには、以下のポイントが重要です。
- M&A戦略の立案
- 相場価格をよく理解しておく
- PMI(統合後プロセス)の確立
1つずつ解説します。
M&A戦略の立案
M&Aを通じてどのような効果を得て、そのためにどういったM&Aを行うかの準備や計画をあらかじめ行う必要があります。
その理由は、第一に、戦略のない実践では大きな成果を期待できないためです。ビジネス上のどんな戦略も、目的が不明瞭であれば大きな成果をあげることはできないでしょう。M&Aも同様で、初期段階で目的や基本方針を定めることが重要です。
第二に、あらかじめM&A戦略を決めておくことで、より自社にあった企業とのマッチングが可能になるためです。どんな目的で、M&Aによってどんな効果を得たいのかを把握していないと、どんな企業が自社に適しているのかがわかりません。
主にこの2つの理由から、M&A戦略をきちんと立てておくことが重要です。
相場価格をよく理解しておく
相場価格を理解することは、M&Aでの成功に大きく寄与します。
それは、相場価格を理解することで適正価格での交渉ができるからです。相場価格を理解していないと、相手が提示している金額が適正なのか判断ができません。相場価格を理解することで、買収側は過剰な価格を支払わず、売却側は適正な価格で売却できます。
実際の相場計算は、M&A委託企業に依頼することで行えます。
PMI(統合後プロセス)の確立
M&Aでは、成約することがゴールではありません。M&Aによって企業を成長させていくことが目的であるため、成約後の動きが非常に重要です。
PMI(Post Merger Integration)とは「統合後プロセス」を指す単語で、M&A後によるリスクの最小化と成果の最大化が目的です。
PMIで行われるプロセスは多岐に渡り、例えば以下のようなものが挙げられます。
- 役職の再編成など、組織体制の整備
- 両社の企業文化の理解、その上での文化統合
- 製造や物流などのプロセスの統合
M&Aの成果をあげるには、両者間で綿密なコミュニケーションをとり、スムーズな経営統合を図ることが重要です。
建設用金属製品業のM&Aにおける成功事例
ここでは、建設用金属製品業におけるM&Aの成功事例を紹介します。
建設用金属製品業界でのM&Aを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
文化シヤッターによる西山鉄網製作所とのM&A
2015年に文化シヤッターが西山鉄網製作所の全株式を取得し、完全子会社化した事例です。
文化シヤッターは、シャッターや住宅建材、ビル用の建材の製造・販売を行っている企業です。シャッター製品では、以下のような多岐にわたる製品を製造・販売しています。
- 重量シャッター
- 軽量シャッター
- パネルシャッター
- 窓シャッター
- ガレージシャッター
- 高速シートシャッター
西山鉄網製作所は住宅資材メーカーで、現在の社名は「BX西山鉄網」です。建築に使う金網の一種である”ラス”の製造で事業を開始し、現在では東日本唯一のラスの総合メーカーとなっています。また、製造、商社、小売店、物流までの工程を自社で対応しており、何でもできる鉄鋼会社といった立ち位置の企業です。
このM&Aの主な目的は、建材分野における事業領域の拡大、それによる顧客基盤強化や収益モデルの多様化です。両社は同じ建材分野でありつつも、扱う商品がシャッターとラスであり、全く異なります。そのため、文化シヤッターが西山鉄網製作所を子会社化することでシナジーが生まれました。
参考:沿革 – シャッター等を扱う総合建材メーカー | 文化シヤッター株式会社
三協立山によるアメリカAleris社とのM&A
2015年に、三協立山がアメリカAleris社のアルミニウム押出事業を譲受けた事例です。
三協立山は、建材、マテリアル、商業施設などの事業を行っている企業です。国内の建設用金属製品業界でトップクラスのシェアを占めており、門や車庫、庭まわりなどのエクステリア建材を豊富に扱っています。
Aleris社はアルミニウムの加工製品やアルミニウムのリサイクルなどを行っており、北米や欧州、アジアに40ヵ所の生産拠点を有している世界的な企業です。高度な合金・押出・加工技術を持っており、航空機や鉄道、自動車など幅広い分野で事業を展開しています。
このM&Aの主な目的は、三協立山の既存のマテリアル事業をさらに拡大することです。高度な技術を獲得することで、新たな顧客層を得ることを目指して事業を譲受けました。
参考:Aleris International, Inc.のアルミニウム押出事業の譲受に関するお知らせ
YKK APアメリカ社によるカナダErie AP社とのM&A
2019年に、YKK AP株式会社の現地法人であるYKK AP社がカナダErie AP社の全株式を取得した事例です。
YKK AP社は窓、カーテンウォール、玄関ドア、エクステリア商品など幅広い製品を扱っている企業です。断熱性能が高く、省エネルギーに貢献する製品を扱っています。
カナダErie AP社は高性能のカーテンウォールメーカーです。主にアメリカでビジネスを展開しており、特に建築外装用のユニットカーテンウォールで高い技術力を有しています。
このM&Aの主な目的は、アメリカでの事業の拡大です。近年アメリカの建築市場では工期短縮が求められており、さらに熟練労働者の不足という問題があります。そこで、カナダErie AP社のユニットカーテンウォールの技術を獲得することで、生産性の向上を画策。現在はアメリカの中南部で断熱商品の拡販を進めています。
参考:YKK APアメリカ社、カナダのカーテンウォールメーカーの全株式を取得
三和HD子会社によるアメリカDoor Control社とのM&A
2023年、三和ホールディングスの子会社であるオーバーヘッドドアコーポレーションがアメリカDoor Control社の全株式と、Door Concepts社の資産を取得した事例です。
三和ホールディングスの子会社であるオーバーヘッドドアコーポレーションは、アメリカのドア建材メーカーで、創業から100年以上の歴史がある企業です。ガレージドアと電動開閉機を初めて開発・製造した実績もあります。
また、親会社である三和ホールディングスはシャッターやビル・マンション用のドア、アルミフロントなどを扱っている建材メーカーです。製品数が多いため、さまざまなニーズに対応できる点を強みとしています。
アメリカDoor Control社は自動ドアサービスおよび施工会社です。自動ドアの販売、施工、修理サービスを専門としており、Door Control社とDoor Concepts社は一体経営されています。
このM&Aの主な目的は、北米での自動ドアサービス、施工ビジネスでの市場シェアの増加です。アメリカでは大型オフィスビルや物流倉庫の再開発案件が増えているため、自動ドアサービス、施工ビジネスの継続的な成長が見込まれています。
まとめ
今回は、建設用金属製品業界におけるM&Aについて、業界の概観から市場動向、M&Aをするメリット、M&Aでの成功事例などを踏まえて解説しました。
国内での建設用金属製品業界は成熟しており、今後大きな成長は見込めませんが、まだまだ海外に目を向ければ拡大の余地が残されています。実際、海外の企業を取り込み、高度な技術を獲得して事業領域の拡大を図る企業も数多く存在します。
M&Aによって企業をさらに成長させていく可能性が大いにある一方で、適切に準備をしないと企業の成長どころか足を引っ張る結果になる可能性もあるため注意が必要です。ぜひ今回の記事を参考に人材紹介におけるM&Aを検討してみてください。
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