「お弁当・惣菜屋とのM&Aを進めるべきかどうか悩んでいる」
「お弁当・惣菜屋業界のM&Aの現状がとても気になる」
この記事をご覧の方々の中には、上記のような悩みや関心を持つ人が多いのではないでしょうか。
ただし、「お弁当・惣菜屋 M&A」等とパソコンやスマートフォンで検索しても、はたして信頼して良いのか不安になる記事や、専門用語を多用したわかりにくい専門家の記事が多いのも事実です。
お弁当・惣菜屋業界のM&Aはどうなっているのか、気軽に知りたいものです。
そこで、今回はM&Aの専門企業である「M&A HACK」が、お弁当・惣菜屋業界のM&Aを分かりやすく簡潔に解説します。
お弁当・惣菜屋業界におけるM&Aの売却相場や成功ポイント、そして成功事例についても詳しく解説するので、お弁当・惣菜屋業界のM&Aに興味のある人は、ぜひ参考にしてください。
目次
お弁当・惣菜屋とは
お弁当・惣菜屋とはどのようなサービスなのか、多様化する販売形態、居抜き物件を見つける有効性について解説します。
お弁当・惣菜屋について
お弁当・惣菜屋は「中食」とも呼ばれ、家庭外で調理された弁当やおかずを、購入して持ち帰るか配達等を利用して、家庭内で食べる食事の形態を指します。
日本では婚姻率の低下や高齢者の増加等によって単身世帯の割合が増えた、夫婦世帯だが共働きで調理を行わない等の理由で、中食の需要が拡大していきました。
そこで、国内では需要の拡大に応えようと、弁当1人分や惣菜1人分を手軽に買えるようなサービスが増加していきます。
多様化する販売形態
中食の販売形態の基本は「テイクアウト形式」「デリバリー形式」の2種類です。
- テイクアウト形式:お客がお店で販売しているお弁当・惣菜を持ち帰る方法
- デリバリー形式:お客が電話やインターネット等で注文し、宅配してもらう方法
デリバリー形式は例えばピザ屋チェーンのように宅配サービスをメインとしている他に、本来ならテイクアウトのみを扱っている店舗でも、オンラインフード注文・配達プラットフォームを利用できる等、販売形態が多様化しています。
多くの食材宅配サービス業者では、食材だけでなく弁当のような調理された状態の食品もメニューに加えており、中食を配達するサービスと捉えられます。
居抜き物件の活用がポイント
お弁当・惣菜屋が利益をあげるため、好立地の「居抜き物件」を確保できるかどうかが大きなポイントです。
居抜き物件とは、以前に入っていたお店の内装や厨房・空調設備、什器等の設備が残ったままの状態の物件を指します。
新たに自分のお店として利用したい側からすれば、外観・内装の手入れが最低限で済むので、必要な設備を購入するよりも、コストを抑えられます。
また、お弁当・惣菜屋業界では集客のため駅近・中心市街地等、人の集まる立地の確保が必要不可欠です。好立地で必要な設備の全て揃った居抜き物件であれば、初期費用を抑えつつ、安定した事業運営が行えます。
ただし、好立地の居抜き物件を希望しても、短期間に見つかるかどうかはわかりません。迅速に事業を拡大したいなら、お店を増やすために、別の方法を検討する必要があるでしょう。
お弁当・惣菜屋業界の市場動向と市場規模
お弁当・惣菜屋業界の現状や市場規模はどうなっているのか、そして業界内の課題を解説します。
お弁当・惣菜屋業界は需要の拡大傾向
一般社団法人日本惣菜協会「2023年版 惣菜白書 ダイジェスト版」より
日本惣菜協会によると、中食(お弁当・惣菜屋)の需要は順調に拡大していると報告されています。外食産業の市場推移が大きく急落する中、中食産業は116.1%も伸びています(2012年比)。
惣菜市場の規模の推移は下表の通りです。
惣菜市場の規模 | 金額 | 前年比 |
2019年 | 10兆3,200億円 | 100.7% |
2020年 | 9兆8,195億円 | 95.2% |
2021年 | 10兆1,149億円 | 103.0% |
2022年 | 10兆4,652億円 | 103.5% |
今後も、自宅でお弁当や惣菜を気軽に楽しみたいという独身の方々、共働き世帯、高齢者の需要増加により、市場規模は大きくなっていくと解されます。
消費者からの評判は良い
お弁当・惣菜屋を利用する消費者の評判は良く、日本惣菜協会の報告によれば下表のようなアンケート結果となっています(一般社団法人日本惣菜協会「2023年版 惣菜白書 ダイジェスト版」を参考に作成)。
質問/回答 | 大いにそう思う | ややそう思う | どちらともいえない | そう思わない |
鮮度が良いか? | 5.6% | 32.6% | 54.5% | 7.3% |
種類が豊富か? | 14.9% | 48.0% | 32.2% | 4.8% |
おいしいものが多 いか? |
15.4% | 48.2% | 32.5% | 3.8% |
材料は良いものを 使っているか? |
6.8% | 31.5% | 52.2% | 6.4% |
特に「種類が豊富か?」の質問には「大いにそう思う」「ややそう思う」合わせて62.9%、「おいしいものが多いか?」の質問には「大いにそう思う」「ややそう思う」合わせて63.6%と、高評価が得られています。
お弁当・惣菜屋を提供するチェーン店や個人店舗が、人気メニューの開発に尽力している成果と言えるでしょう。
お弁当・惣菜屋業界が持つ課題
お弁当・惣菜屋業界は大企業や中小企業、更には個人店舗まで様々な事業所が参入しています。
そのため、消費者からの人気が高いお弁当・惣菜を提供していても、中小企業や個人店舗は後継者不在で倒産・廃業してしまう可能性があります。
実際に、後継者不在が原因で倒産する事業所は、2023年に500件を超える状況となっています(参考:帝国データバンク「全国企業倒産集計2023年11月報 別紙号外リポート:後継者難倒産」)。
今後、更にお弁当・惣菜事業を手がける事業所の廃業・倒産の増加が予測されます。経営者が引退後もお弁当・惣菜事業の継続を希望するならば、柔軟に事業承継方法を検討する必要があるでしょう。
お弁当・惣菜屋業の動向と今後
今後、お弁当・惣菜屋の需要の拡大が見込まれる中、お弁当・惣菜事業がどのように展開されていくのかを解説します。
高齢化の進展に合わせてお弁当・惣菜事業が拡大
高齢者数は増加により、お弁当・惣菜事業の拡大が予測されます。
65歳以上の高齢者数は増加傾向が続いており、高齢化の人口推移・推計は下表の通りです(内閣府「 令和4年版高齢社会白書(全体版)1高齢化の現状と将来像」)。
西暦 | 65歳以上の高齢者 | 総人口 | 高齢者の割合 |
2010年 | 2,924万人 | 1億2,806万人 | 22.8% |
2015年 | 3,379万人 | 1億2,709万人 | 26.6% |
2020年 | 3,602万人 | 1億2,615万人 | 28.6% |
2025年(推計) | 3,677万人 | 1億2,254万人 | 30.0% |
2030年(推計) | 3,716万人 | 1億1,913万人 | 31.2% |
総人口が減少する中で高齢者数は増加し、高齢者の割合は今後も高くなっていくと予測されています。
高齢者の中には健康な方々ばかりでなく、足腰の不自由な高齢者、食事制限が必要な高齢者、自宅療養を余儀なくされる高齢者も増えることでしょう。
高齢者の様々な症状に合わせ、お弁当・惣菜の配達サービスを展開する企業の増加が想定されます。
お弁当・惣菜の市場規模は拡大し競争が激しくなる
お弁当・惣菜屋業界は、例えば増加する高齢者への配達サービスに合わせ、事業を展開する等して更なる市場拡大が予想されます。
しかし、事業拡大が見込める業界なので、大企業や中小企業が続々と参入し、今後の競争の激化していく可能性があるでしょう。
特に中小企業や個人でお弁当・惣菜屋を経営している場合、厳しい競争に勝ち残れるのか不安となり、経営者の跡を継ぎたい親族が現れないかもしれません。
経営者本人が65歳を超えても、後継者がなかなか見つからない場合、健康で判断能力のあるうちに何らかの対策を行っておく必要があります。
お弁当・惣菜屋の存続のためにM&Aを検討
後継者不在に悩みつつも、経営者や従業員が長年守ってきたお弁当・惣菜屋の存続を希望するには、M&Aが最も有効な方法です。
また、後継者の不安がない大企業であっても、迅速な事業の拡大・強化につなげるため、M&Aによる経営統合を検討しましょう。
M&Aは、自社のニーズに合う手法を選び、経営統合の方法や、統合の条件等を決定したうえで、交渉相手を探していきます。
ただし、交渉を進める際、自社の希望ばかりを主張するだけでは話し合いが進まなくなります。交渉相手の希望も聴き入れながら調整を図り、お互いがウィンウィンの関係になるよう努力する姿勢が必要です。
お弁当・惣菜屋業界のM&Aの動向
お弁当・惣菜屋業界では競業他社との厳しい競争が予測され、自社のお弁当・惣菜事業の安定・強化のため、M&Aによる買収のニーズが高まりつつあります。
こちらではお弁当・惣菜屋業界のM&Aの特徴と、主なM&Aの手法について解説します。
お弁当・惣菜屋業界のM&Aの特徴
お弁当・惣菜屋業界の場合、同業者とのM&Aによる経営統合はもちろん、新規参入を目指す異業種とのM&Aも多い点が特徴的です。
主に次のようなパターンでM&Aが行われています。
- お弁当・惣菜事業を展開する同じ企業同士が、事業強化のためM&Aを行う
- お弁当・惣菜事業のノウハウ・実績を持たない異業種が、事業の多角化を目指すため、実績のある企業とM&Aを行う
- お弁当・惣菜事業に実績のある企業が異業種の企業を買収し、自社のお弁当・惣菜事業と買収先の技術・ノウハウを融合させ、シナジー効果を図る 等
なお、交渉相手はM&A専門の仲介会社等のマッチングサイトから検索が可能です。
M&Aの目的とは?
買収側は、お弁当・惣菜事業の経営の安定化や、事業の拡大、多角化、売却側のノウハウも利用したシナジー効果を得るため、相手方と交渉するケースが多いです。
買収側はお弁当・惣菜事業を展開する企業とのM&Aにより、次のような利益を得られます。
- 買収側がお弁当・惣菜業界へ新規参入した場合、売却側の持つお弁当・惣菜事業で培われたノウハウ、人材、施設・設備等の経営資源をいっきに獲得できる
- 居抜き物件を1つ1つ探す手間を省き、売却側から得た全ての店舗を支配下にできる
一方、売却側も買収側から潤沢な事業資金が得られる、後継者の不在を心配する必要はない、というメリットがあります。
M&Aの手法
お弁当・惣菜業界のM&Aは他の業界の場合と同じく、「株式譲渡」「事業譲渡」の手法がよく用いられています。こちらでは株式譲渡・事業譲渡・その他の手法について説明しましょう。
株式譲渡
株式譲渡とは、売却側の株式を譲渡し、買収側に経営権を移転させるM&Aの手法です。
次のように経営権を移転するケースが多いです。
- 買収側に問題なく経営権を移転させるため、株式保有率の半数を超える(概ね51%以上)ように株式譲渡する
- 売却側が全株式を譲渡(100%)し買収側の完全子会社となる
株式譲渡は買収側に経営権が移転させるだけの手法なので、株式譲渡完了後も売却した企業は存続します。
事業譲渡
事業譲渡とは、売却側が事業の一部または全部を買収側に譲渡するM&A手法です。
売却側が例えばお弁当・惣菜事業と、レストラン事業を営んでいた場合、レストラン事業だけに専念したいので、お弁当・惣菜事業を買収側に譲渡するという方法も可能です。
また、親会社が子会社の扱うお弁当・惣菜事業を譲り受け、事業の統合・スリム化を図るケースもあります。
その他
お弁当・惣菜業界のM&Aでは、次のような手法がとられる場合もあります。
- 会社合併:M&A当事者が1つの会社となる経営統合のやり方。売却側・買収側が消滅し新設会社を設置する「新設合併」、売却側が買収側に吸収される「吸収合併」の2種類がある。
- 会社分割:売却側の事業を分割し買収側へ譲渡する方法。新設会社設立後に全部または一部の事業を買収側へ承継させる「新設分割」、事業の全部または一部を買収側へ吸収させる「吸収分割」の2種類がある。
- 株式公開買付け(TOB):他企業の経営権取得を目指し株式数・買付価格・期間等の公告後、取引所外で多く株主から大量に買付けをする。
- 株式交換:完全子会社となる会社の発行済株式のすべてを、完全親会社となる会社に取得させるやり方。
- 第三者割当増資:特定の第三者に株式を有償で引き受けてもらい、資金の調達を図る方法。
その他、広義のM&A手法が利用されるケースもあります。
交渉相手との提携で事業を強化したいと感じたら、3種類の提携方法があります。
- 資本提携:複数の企業が技術やノウハウ・資金等を出し合う提携。
- 業務提携:複数の企業が経営資源の提供により共同で事業を行う提携。
- 資本業務提携:資本提携・業務提携を組み合わせた提携。
お弁当・惣菜屋業でM&Aを行うメリット
お弁当・惣菜事業のM&Aは買収側の利益だけでなく、売却側にも大きなメリットがあります。
売却側のメリット | 買収側のメリット |
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売却側のメリット
M&Aによりお弁当・惣菜屋の事業経営が安定する、後継者問題を解決し創業者利益が得られる、従業員の雇用維持も可能になる点がメリットです。
お弁当・惣菜屋の事業経営が安定する
M&Aの買収側は概ね資金力があり、規模の大きな企業である場合がほとんどです。M&Aに成功すると、売却側は買収側から得た潤沢な資金を活かし、お弁当・惣菜事業運営の安定化が図れます。
お弁当・惣菜事業の施設・設備の維持・拡充、従業員の雇用に必要な費用は、買収側の資金で賄えます。資金不足に苦しむ事態も軽減され、お弁当・惣菜の開発・製造・販売に専念できることでしょう。
後継者問題を解決できる
買収側が売却側の事業を引き継げば、後継者不在に悩む必要もありません。
売却側が長年守ってきたお弁当・惣菜屋は、今後も買収側に引き継がれ、廃業・倒産する事態を回避できます。
後継者がいないという理由で廃業・倒産すると、施設・設備の後始末や、従業員の解雇等、苦渋の決断をしなければいけません。
しかし、M&Aを行えば、引き続いてお弁当・惣菜事業の運営が可能となるので、経営者も安心して後を託せます。
創業者利益が得られる
売却側の経営者が自分の持つ株式を買収側に売却すれば、創業者利益が得られます。
創業者利益として手に入るお金は、概ね1企業の株式資本と同程度の金額となる可能性は高いです。ただし、売却側の企業の規模、経営状態、買収側の調査で問題が判明したか否かで金額は変わってきます。
得られた創業者利益には次のような使い道があります。
- 経営者がM&Aを機にそのまま引退し、得られたお金を老後の生活資金とする
- 経営者が新しい事業に挑戦するための資金として有効活用する
なお、経営者が潤沢な資金を得て引退した場合は、会社経営の不安、競争のプレシャーから解放され、精神的な安定も得られることでしょう。
従業員の雇用が維持される
M&Aを行った場合、売却側の従業員の雇用が維持される点もメリットです。
お弁当・惣菜屋を廃業してしまうと、雇用していた従業員を解雇する必要があります。解雇後は従業員本人・家族が路頭に迷う事態となるかもしれません。
M&A交渉の際、条件として買収側に従業員全員の雇用維持を提示しても構いません。また、買収側にとっては、お弁当・惣菜事業に関して経験豊かな従業員の確保が大きな課題と言えます。
そのため、買収側が売却側のスタッフの離職を避ける目的で、経営統合後、給与・待遇面の維持を約束することでしょう。
買収側のメリット
お弁当・惣菜事業へ実績がなくても参入でき、お弁当・惣菜事業の拡大と強化、運営に精通したスタッフを確保できる点がメリットです。
実績がなくてもお弁当・惣菜事業へ参入できる
M&Aを行えば、お弁当・惣菜事業のノウハウが無くても新規参入は可能です。
買収側がお弁当・惣菜屋業界へ参入するため、初めから事業を立ち上げようとすれば、事業のための店舗や設備、従業員を募集をしなければいけません。また、保健所への営業許可申請等、行政手続きも必要です。
店舗・設備・従業員・手続きのいずれが欠けても、新規事業は頓挫するリスクがあります。
しかし、すでにお弁当・惣菜事業を展開している企業とM&Aが成功するなら、施設や設備、従業員をいっきに獲得できます。事業経営に問題が無ければ、売却側へお弁当・惣菜事業をそのまま任せても構いません。
一方、行政手続きに関しては、譲渡の内容により手続きが簡略化される可能性もあります。
お弁当・惣菜事業の拡大・強化が図れる
買収側が未進出地域のお弁当・惣菜屋を買収すれば、事業の更なる拡大・強化が図れます。
売却側のお弁当・惣菜に関する技術・ノウハウが得られる他、買収側の既に有している技術・ノウハウと組み合わせると、シナジー効果が生まれ、大きな利益を得られる場合があります。
また、お弁当・惣菜屋が複数の店舗を展開していた場合は、買収側は好立地にあるたくさんの店舗をいっきに獲得が可能です。
お弁当・惣菜事業に精通した従業員が確保できる
売却側のお弁当・惣菜事業に深い知識を有する従業員の確保が可能です。
M&Aで多くの売却側の従業員を獲得できれば、即戦力として雇用でき、以前と同じ店舗で業務に従事させても構いません。
買収側は経営統合の際、売却側の従業員の給与や、希望する店舗への配置等の希望をよく考慮すれば、優秀な従業員が離職するリスクを軽減できることでしょう。
お弁当・惣菜屋業でM&Aを行う際の注意点
お弁当・惣菜事業のM&Aを行う際、次の3点に注意が必要です。
- M&Aの交渉で想定されるリスク
- 必要なプロセスと取り決めの書面化を徹底する
- 必ずデューデリジェンスを実施する
それぞれについてわかりやすく解説します。
M&Aの交渉で想定されるリスク
M&Aは様々なプロセスを経たうえで、交渉当事者が納得し、最終的な合意に漕ぎ着ける必要があります。
そもそもM&A契約を進める手順は法定されておらず、交渉当事者が自由に進めても構いません。
しかし、一般的に行った方が良いといわれているプロセスを実行しておかないと、契約が不成立となるばかりか、交渉当事者が予想外の損失を被るおそれもあります。
次のような深刻なトラブルが発生する事態に注意しましょう。
- 交渉の際に開示した機密情報(例:自社の経営状況、ノウハウ等)が、交渉中の相手側から競業他社に漏洩してしまった
- 売却側の「食品衛生管理を徹底し、消費者とのトラブルは起きていない。」という主張に安心していたら、後日、売却側の弁当が原因で集団食中毒が発生した
- 交渉で最終契約にまで達したが、交渉の相手側が取り決めた内容を履行しない
深刻なトラブルを避け、円滑にM&Aを成立させたいなら、必要とされるプロセスを実施し、取り決めた内容の書面化を行いましょう。
必要なプロセスと取り決めの書面化を徹底する
M&Aは主に次のようなプロセスを進め、最終的な契約締結を目指します。
- 交渉準備:M&Aの方針・手法等を経営者・役員が決定、方針・手法に合った交渉相手を探す。
- 交渉開始:交渉相手に交渉申込後、双方で交渉日時を調整し交渉開始。情報開示の際に情報漏洩を防ぐ秘密保持契約の締結、内容を文書化する。買収側は希望する買収内容・条件・金額等が明記された意向表明書を売却側に提示する。
- 基本方針の合意:交渉当事者間でM&Aに関する基本方針を固め、内容を文書化する。
- デューデリジェンス開始:買収側が売却側の価値・リスク等を調査する。
- 最終契約締結:M&A契約の詳細な取り決めまで合意に達したら、最終的な契約を締結・文書化する。
M&Aは交渉開始~最終契約締結まで、基本的に1年以上を要する長期的な作業となります。
M&A交渉の過程で重要な取り決めを行ったら、必ず文書化しましょう。文書化しないと、交渉当事者が内容を忘れたり、交渉相手側が契約違反を行ったりするおそれもあります。
M&A交渉当事者が作成する書類は、主に次の4種類です。
- 秘密保持契約書:秘密保持契約を締結し際に作成。秘密保持の範囲・秘密保持義務、秘密を漏洩した場合の損害賠償、差し止め等を記載する。
- 意向表明書:交渉当事者の面談が終了後、買収側が売却側に提示する書類。買収内容・条件・金額等を明記する。
- 基本合意書:交渉当事者間でM&Aに関する基本方針が固まったら作成。M&Aの対象・取引金額、デューデリジェンスを行う旨、秘密保持義務等を記載する。
- 最終契約書:最終契約に至ったら作成する拘束力のある契約書。M&Aの対象の特定・取引金額の他、補償条項、解除条件、損害賠償義務、秘密保持義務、費用負担、裁判管轄等を記載する。
なお、M&A交渉の際、交渉当事者がM&A専門の仲介会社等にアドバイス・サポートを依頼した場合、仲介会社等と「業務依頼契約書」を取り交わす必要もあります。
必ずデューデリジェンスを実施する
買収側は売却側を正確かつ慎重に評価するため、デューデリジェンスの実施が必要です。
「デューデリジェンス」とは、M&A契約の成立前に、売却側がどれくらいの価値を持つのかや問題点等について調査する作業です。調査対象となるのはお弁当・惣菜事業の場合、主に次の項目です。
- 財務:事業経営は良好なのかや負債の確認等を行い、売却側の財務状況を調査する。
- 法務:売却側はしっかりと法令を順守しているのかや、消費者や従業員との法的トラブルの有無等、法的リスクの調査を行う。
- 事業:売却側の経営管理・事業モデル、将来のキャッシュ・フロー等を調査。
- 人事:売却側のスタッフ数、報酬水準、企業風土等、人事面を調査する。
- 技術:売却側の食品調理・保存・管理等の技術を調査。
なお、買収側が特に必要と感じた場合、ITに関する調査も行った方が良いでしょう。
ただし、買収側にデューデリジェンスの知識や経験を持つスタッフがいないと、調査はスムーズに進みません。
自社だけでは調査が難しいと感じたら、M&A専門の仲介会社等にサポート・アドバイスを依頼した方が良いでしょう。
お弁当・惣菜屋業のM&Aを成功させるためのポイント
お弁当・惣菜事業のM&Aを成功させるには、次のポイントを押さえておく必要があります。
- M&A戦略の立案
- 相場価格をよく理解しておく
- PMI(統合後プロセス)の確立
それぞれのポイントについてわかりやすく解説します。
M&A戦略の立案
売却側・買収側双方が十分なM&A戦略を立て、万全の態勢で臨む必要があります。
M&A戦略の立案に必要なプロセスとして、主に次の5項目を検討しましょう。
項目 | 内容 |
現状分析 | 自社の経営資源や、財務、事業の将来性・不足部分等を把握、M&Aで克服する課題を抽出する。分析方法はSWOT分析(スウォット分析)、PPM分析、アンゾフの成長マトリクス等を利用する。 |
市場調査 | お弁当・惣菜市場規模、交渉を予定する企業の将来性や収益性を調査。 |
M&A目的の明確化 | 自社がどのような目的でM&Aを行い、成果として何を得たいのかについて明確化。 |
交渉相手の選定 | M&Aの目的を明確化した後、目的に合った交渉相手候補を選び出す。 |
資金に関する検討 | 買収側が売却側への提示価格(買収価格)、買収するための予算確保について検討。 |
ただし、自社にM&Aの経験がないと、戦略を立てるのが難しい場合もあります。たとえ戦略を立てても、交渉相手がM&Aの経験豊富な企業ならば、自社は交渉で不利になる展開が想定されます。
自社だけでM&Aの戦略を立案するのが難しいときは、M&A専門の仲介会社にサポートやアドバイスを依頼しましょう。
当社のM&A仲介サービス「M&A HACK」では上記の立案策定や交渉相手の紹介を、完全成功報酬、リスクなしの報酬形態で対応しています。初回の相談は無料ですのでお気軽に下記よりご相談ください。
無料相談のご予約:https://sfs-inc.jp/ma/contact
相場価格をよく理解しておく
M&Aの交渉前に、お弁当・惣菜屋業界の相場価格を把握しておくのがポイントです。
買収(売却)価格は、交渉当事者が自由に金額を設定・提示しても構いません。しかし、あまりに売却側・買収側の希望する価格の差が大きいと、交渉不成立となるおそれがあります。
一方、相場価格を参考に算定した買収(売却)価格であれば、交渉相手が納得し、合意に達する可能性が高くなります。
ただし、M&A手法によって買収(売却)価格の計算方法は異なり、例えば株式譲渡・事業譲渡を行う場合、次の計算式となります。
- 株式譲渡:時価純資産額+営業利益×2年~5年分
- 事業譲渡:時価事業純資産額+事業利益×2年~5年分
なお、計算式で算定された価格が、そのまま買収(売却)価格になるわけではありません。
売却側の経営が順調であったり、逆にデューデリジェンスで問題が発覚したりした場合、価格調整が必要になる場合もあります。
PMI(統合後プロセス)の確立
M&A契約が成立後も油断せず、売却側と共に経営統合を進めていきましょう。
「PMI」とは、M&A成立後に買収側・売却側が協力し合い、双方の経営・業務等の統合施策を進めていく作業です。
経営統合プロセスは主に3段階となっています。
- 経営統合:買収側・売却側の経営理念、経営戦略の統合
- 業務統合:人事・会計・法務等の管理部門、食品開発・営業・物流等の事業部門、情報システム等の統合
- 意識統合:双方の異なる企業風土、企業文化の統合
なお、PMIの立案はM&A戦略を立案とほぼ同時に進めておきましょう。
なぜなら、M&Aは交渉開始~最終契約締結まで基本的に1年以上を要するので、最終契約後にPMIの立案をはじめると統合が長引く場合もあるからです。
お弁当・惣菜屋業のM&Aにおける成功事例
お弁当・惣菜屋業のM&Aにおける成功事例を紹介しましょう。これからお弁当・惣菜屋業のM&Aを検討している人は、ぜひ参考にしてください。
日清製粉によるトオカツフーズとのM&A
売却側である「トオカツフーズ」は神奈川県横浜市を拠点に、フレッシュ惣菜事業(弁当、おにぎり、サンドイッチ、惣菜、麺類、サラダ等の調理済み食品の製造販売)、冷凍惣菜事業を手がける日清製粉製粉の関連会社です。
一方、買収側は「日清製粉」で東京都千代田区に本社があり、小麦粉、その他の加工品および関連商材の製造・販売等を幅広く扱う企業です。
日清製粉は、次のような目的でトオカツフーズを子会社する検討が開始されます。
- 日清製粉では、中食・惣菜事業をグループの主力事業に育てる目的があり、トオカツフーズとのM&Aはその目的を達成する有力な手段となる
- トオカツフーズは、国内屈指の総合中食サプライヤーとして評価が高く、日清製粉の基礎研究技術や商品開発力等との融合で、シナジー効果が期待できる
そこで、日清製粉は中食・惣菜事業の強化のため、株式譲受のための準備を進めました。
2019年3月26日には株式譲渡契約を締結し、トオカツフーズは日清製粉の連結子会社となりました。
参考:トオカツフーズ株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ
ハークスレイによるメイテンスとのM&A
売却側である「メイテンス」は東京都武蔵野市を拠点に不動産の管理、売買、仲介及び賃貸業務を手がける企業です。また、「米八」は、有名百貨店食品売り場を中心に「おこわ米八」を展開し、創作おこわを販売する子会社です。
買収側は「ハークスレイ」で大阪府大阪市に本社を構え、ほっかほっか亭総本部、店舗流通ネットグループ、アサヒL&C等を傘下に持つ持株会社です。
ハークスレイは、メイテンスの次の点に注目します。
- メイテンスも含め子会社である米八を傘下にできれば、惣菜事業の一層の強化と発展が図れる
- M&Aが成功すれば、高齢者の食市場における更なる開拓が期待できる
そこで、ハークスレイは企業価値の一層の向上を目指すため、メイテンスと交渉を開始しました。
2018年12月11日にはハークスレイの取締役会で決議され、メイテンスを連結子会社化する旨の基本合意書が締結されました。
参考:株式会社メイテンス株式の一部取得(子会社化)に関する基本合意書締結のお知らせ
トーカンによる三給とのM&A
売却側である「三給」は愛知県岡崎市を拠点に、給食向け食品卸売業を営む企業です。
一方、買収側は「トーカン」で愛知県名古屋市に本社を構え、食品卸売業等を手がける企業で、セントラルフォレストグループの子会社となっています。
セントラルフォレストグループは三給の次の点に注目します。
- セントラルフォレストグループでは、給食市場及び中食・惣菜市場を重要な戦略領域として捉えており、三給の買収はこの目的を達成するために必要不可欠
- 三給とのM&Aに成功すれば給食市場への参入の他、中食・惣菜向けの売上拡大につながる
そこでセントラルフォレストグループ側は事業拡大のため、三給と交渉を開始します。
2021年4月1日には株式譲渡契約を締結し、三給はトーカンの子会社となりました。
参考:三給株式会社の株式取得に関する株式譲渡契約書締結についてのお知らせ
オーシャンシステムによるヨシケイ両毛とのM&A
売却側である「ヨシケイ両毛」は群馬県桐生市を拠点とし、「ヨシケイ」ブランドによる夕食材料セット等の宅配を手がける企業です。
一方、買収側は「オーシャンシステム」で新潟県三条市に本社があり、家庭向け食材宅配事業「ヨシケイ」をはじめ、食品スーパー「チャレンジャー」「業務スーパー」、事業所向け弁当給食事業「フレッシュランチ39」等を幅広く展開する企業です。
オーシャンシステムはヨシケイ両毛の次の点に注目します。
- ヨシケイ両毛を買収すれば、食材宅配事業の群馬県南東部・栃木県南西部(両毛地区)の営業エリア拡大、キャッシュ・フローの創出に寄与する
- ヨシケイ両毛には経験豊富な人材が多数在籍しており、グループ間の人材交流を通じ、消費者へ一層良質なサービスを提供できる
そこでオーシャンシステムはお弁当・惣菜事業の強化を目指し、ヨシケイ両毛と交渉を開始します。
2023年4月28日には株式譲渡契約が行われ、ヨシケイ両毛はオーシャンシステムの連結子会社となりました。
参考:株式取得(子会社化)に関する株式譲渡契約締結のお知らせ
ミツハシによる草加デリカとのM&A
売却側である「草加デリカ」は埼玉県草加市を拠点とし、惣菜類の製造・販売を手がける企業です。
一方、買収側は「ミツハシ」で神奈川県横浜市に本社があり、米穀、炊飯、冷凍米飯、加工商品、輸入米の販売等を幅広く展開する企業です。
ミツハシは草加デリカの次の点に注目します。
- 草加デリカを買収すれば、惣菜類の製造・販売事業を獲得し、自社の事業領域の拡大ができる
- 草加デリカの惣菜類の製造・販売のノウハウや施設、設備、優秀な人材をいっきに得られる
そこでミツハシは事業の拡大・強化を目指し、草加デリカと交渉を開始します。
2024年1月26日、ミツハシの取締役会において、草加デリカの全株式を取得し子会社化する決議がなされました。
参考:株式会社草加デリカの株式取得(子会社化)に関するお知らせ
フジッコによるフーズパレットとのM&A
売却側である「フーズパレット」は兵庫県神戸市を拠点とし、中華総菜の製造及び販売、バイキングスタイルのテイクアウトショップ等を手がける企業です。
一方、買収側は「フジッコ」で兵庫県神戸市に本社があり、刻み昆布の「ふじっ子」を始め、加工煮豆の「おまめさん」、とろろ昆布の「純とろ」等を提供する食品メーカーです。
フジッコはフーズパレットの次の点に注目します。
- フーズパレットは百貨店を中心に中華総菜を販売し、「四陸(フォールー)」「チャイナチューボー」のブランドを展開、長年にわたり消費者から評価されている
- フジッコの保有するマーケティング力・販売力・研究開発力と、フーズパレットが保有するブランド力・商品力を融合すれば、シナジー効果が期待できる
そこでフジッコは事業の拡大・強化を目指し、フーズパレットと交渉を開始します。
2019年6月27日には株式譲渡契約が行われ、フーズパレットはフジッコの子会社となりました。
参考:株式会社フーズパレットの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ
トータルライフケアによるかもし堂とのM&A
売却側である「かもし堂」は東京都世田谷区を拠点とし、発酵食品・発酵調味料を使用した弁当・惣菜の販売等を手がける企業です。
一方、買収側は「トータルライフケア」で東京都世田谷区に本社があり、訪問看護ステーション、メディカルフットケア、福祉用具貸与・販売等を幅広く展開する企業です。
トータルライフケアはかもし堂の次の点に注目します。
- かもし堂を買収できれば、トータルライフケアがなかなか参入できなかった食品事業を行える
- かもし堂とのM&Aにより、弁当・惣菜の販売等の施設、設備、ノウハウ、人員が獲得でき、自社が目指していた要介護者等のための「食からのアプローチ」を達成できる
そこでトータルライフケアはお弁当・惣菜事業への新規参入を目指し、かもし堂と交渉を開始します。
2020年7月1日には株式譲渡契約が行われ、かもし堂はトータルライフケアの完全子会社となりました。
藤本食品に明治ライスデリカとのM&A
売却側である「明治ライスデリカ」は埼玉県狭山市を拠点に、日配業務用炊飯米の製造及び販売や、
米飯二次加工の製造及び販売等を行う、明治の連結子会社です。
買収側は「藤本食品」で和歌山県岩出市に本社を構え、弁当・おにぎり等の米飯類・寿司類・惣菜類、調理パン、業務用半製品、麺類等の製造販売等を手がける企業です。
明治ライスデリカの近畿・中四国・中部エリアを中心にさらなる事業の拡大を望む明治と、高い品質・衛生管理に定評のある明治ライスデリカを得たい藤本食品の利害が一致し、M&A交渉が開始されました。
2020年3月31日には株式譲渡が行われ、明治ライスデリカは藤本食品の子会社となりました。明治ライスデリカは「藤本ライスデリカ」と商号が変更されています。
中部フーズによる東海レベラー鋼業とのM&A
売却側である「東海レベラー鋼業」は 愛知県東海市を拠点に、日本製鉄・名古屋製鉄所のパートナー企業として鋼板・コイル製品の梱包一貫業務等を行う企業です。なお、多角的な事業を展開し、「にぎりたて事業(おにぎり専門店)」も運営していました。
一方、買収側は「中部フーズ」で岐阜県多治見市に本社を構え、デリカ商品・ベーカリー商品の企画・製造・販売を手がける企業です。
主力である鋼板・コイル製品に関する業務へ専念したい東海レベラー鋼業と、お弁当・惣菜事業の更なる強化を図りたい中部フーズの利害が一致し、M&A交渉を開始します。
2020年9月1日には、東海レベラー鋼業から「にぎりたて 」11 店舗の事業譲受をした旨が公表されました。
小僧寿しによるけあらぶとのM&A
売却側である「けあらぶ」は東京都千代田区を拠点に、高齢者向けのコミュニティサイト「MRTCHATER(マッチスター)」の運営、介護業界向けの求人サイト「SCOUT ME KAIGO(スカウトミー・介護)」の運営等を手がける企業です。
一方、買収側は「小僧寿し」で東京都中央区に本社があり、寿司・弁当の製造販売、およびフランチャイズ事業等を幅広く行う企業です。
小僧寿しは、けあらぶの次のような強みに注目します。
- けあらぶを買収すれば、小僧寿しの目指す「宅配事業」「高齢者・介護関連事業」への本格参入が期待できる
- けあらぶの介護に関するノウハウを活かし、「刻み食」「極刻み食」「ミキサー食」「ソフト食」等の介護食の開発が行える
そこで、小僧寿しは「食」による介護事業への参入、事業拡大を図るため、けあらぶと交渉を開始します。
2017年6月30日には、けあらぶが第三者割当により発行する株式を小僧寿しが引き受けました。現在、けあらぶは小僧寿しの連結子会社となっています。
参考:株式会社けあらぶの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ
まとめ
今回は、お弁当・惣菜屋業界のM&A・事業承継の全知識という形で、お弁当・惣菜屋業のM&Aにおける売却相場・事例・成功ポイントを解説しました。
単身者や高齢者の増加により、お弁当・惣菜市場規模は今後も拡大が予想されます。お弁当・惣菜屋業界の需要はどんどん高まっていくことでしょう。
一方で、競業他社との激しい競争や、中小企業・個人経営の場合はお弁当・惣菜屋を継ぐ後継者の不在が原因で、廃業・倒産を余儀なくされる事態も考慮されます。
お弁当・惣菜事業を存続させたい場合は、M&Aを活用し事業の安定強化、後継者問題の解決を図った方が良いでしょう。
ぜひ今回の記事を参考に、お弁当・惣菜屋業のM&Aを検討してみてください。