「就労継続支援施設業界のM&Aで必要となる予算はどれくらいなのだろう?」
「就労継続支援施設業界のM&Aの現状がとても気になる」
この記事をご覧の方々の中には、上記のような疑問や関心を持つ人が多いのではないでしょうか。
ただし、「就労継続支援施設 M&A」等とパソコンやスマートフォンで検索しても、はたして信頼して良いのか不安になる記事や、専門用語を多用したわかりにくい専門家の記事が多いのも事実です。
就労継続支援施設業界のM&Aはどうなっているのか、気軽に知りたいものです。
そこで、今回はM&Aの専門企業である「M&A HACK」が、就労継続支援施設業界のM&Aを分かりやすく簡潔に解説します。
就労継続支援施設業界におけるM&Aの売却相場や成功ポイント、そして成功事例についても詳しく解説するので、就労継続支援施設業界のM&Aに興味のある人は、ぜひ参考にしてください。
目次
就労継続支援施設とは
就労支援とはどのようなサポートなのか、就労を支援する施設の種類、就労継続支援施設の特徴について解説します。
就労支援について
就労支援とは、障害のある人、何らかの理由で就業が難しい人に対して、就職して働き続けられるように支援する取り組みを指します。
障害のある人への支援は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」に則り、次の3つの支援があります。
- 就労継続支援:一般企業への就職が難しい障害のある人に、就職の機会を提供する支援。
- 就労移行支援:一般企業へ就職したい65歳未満の障害のある人を対象に、就職に必要な知識・能力向上の訓練、就職活動のサポート、職場定着のための相談等を提供する支援。
- 就労定着支援:就労移行支援等を利用し、一般企業へ就職した障害のある人を対象として就労が継続できるように、雇用に伴う様々な問題の相談・助言を行う支援。
障害のある人を支援するために、就職の相談、就労の準備、就職活動、就職後の対応等、各ケースに応じて、それぞれ担当する施設が設置されています。
就労を支援する施設の種類
就労を支援する施設は、障害のある人の就職等の状況により、6種類の施設が用意されています。
- 就労継続支援事業所
- ハローワーク
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター
- 障害者職業能力開発校
- 就労移行支援事業所
それぞれの施設について、わかりやすく説明していきます。
就労継続支援事業所
一般企業への就職が難しい障害のある人に就職の機会を提供する他、生産活動等を通じ、知識・能力の向上を図る目的で設置された施設です。
就労継続支援事業所には次の2種類があります。
- A型事業所:障害のある人が事業所と雇用契約を結ぶタイプ、最低賃金は保障される。
- B型事業所:障害のある人が事業所と雇用契約を結ばないタイプ、日中の活動が中心。
A型事業所は一定の支援により就労を継続する人が対象となり、B型事業所は重度の障害を持つ人が対象となります。
ハローワーク
厚生労働省が設置する公共職業安定所です。障害者雇用枠の求人の他、一般の求人も豊富に取り揃えています。
障害のある人の障害の状況、職業適性、希望する職種等に応じて、求人の紹介や職業相談を行います。また、地域の福祉関連機関等と連携しているので、就労継続支援事業所や地域障害者職業センター等の紹介も可能です。
地域障害者職業センター
独立行政法人「高齢・障害者・求職者雇用支援機構」が運営する、障害のある人を対象とした専門的な職業リハビリテーション施設です。
障害のある人の職業評価や職業指導、職業準備訓練・職場適応援助等を実施しています。早期の就職を目指す支援だけではなく、障害のある人の基礎体力の向上、集団の中で良好な人間関係を築けるように支援等も行われます。
障害者就業・生活支援センター
障害のある人の身近な地域で雇用や保健福祉、教育等の関係機関の連携拠点として、就業支援・生活支援を一体的に行う機関です。
それぞれの支援内容は次の通りです。
- 就業支援:相談、事業所に対するアドバイス、関係機関との連絡調整等
- 生活支援:日常生活の自己管理(生活習慣、健康管理、金銭管理等)の助言、地域生活・生活設計(住居、年金等)に関する助言
障害者職業能力開発校
障害のある人が働く際に、必要な基礎知識・技術を身につけるための職業訓練機関です。国が設置し、運営は都道府県が行っています。
訓練科目は各学校で異なるものの、「調理・清掃サービス科」や「オフィスワーク科」の他、「ビジネスアプリ開発科」等、最先端の職業訓練を行うところもあります。
就労移行支援事業所
障害のある人が一般企業等に就職したい場合、働くために必要な知識や能力等を支援する施設です。
次のような支援が受けられます。
- 知識習得・能力等の向上を支援
- 就職活動支援(履歴書等の応募書類の添削)
- 就職に関する相談
- 就職後の職場定着支援
ただし、施設利用には条件があり、一般企業等の就職を希望する18歳以上65歳未満の人で、利用期間は原則24か月以内に限定されています。
就労継続支援施設の特徴
就労継続支援施設は、一般企業での就業が難しい障害のある人を対象に、就業準備や訓練の場を提供する施設です。
障害のある人の状態に応じ、就労継続支援A型・B型事業所に分け、手厚い支援を行っている点が大きな特徴です。
比較項目 | 就労継続支援A型事務所 | 就労継続支援B型事務所 |
支援目的 | 継続的な就労・生産活動の機会の提供 | 社会参加・就労に向けた活動の提供 |
支援対象者 | 障害を持ち、一定の支援を受けつつ、就労を継続したい人 | 重度の障害があり、一般の就労が困難な人 |
雇用契約 | あり | なし |
平均工賃(賃金)月額 | 83,551円(令和4年度) | 17,031円(令和4年度) |
利用期間 | 長期間(継続的に利用可) | 長期間(継続的に利用可) |
※厚生労働省「障害者の就労支援対策の状況」を参考に作成
就労継続支援施設業界の市場動向と市場規模
就労継続支援施設業界の現状や市場規模はどうなっているのか、そして業界内の課題を解説します。
就労継続支援施設を扱う企業は増加している
独立行政法人福祉医療機「障害福祉サービス等施設・事業所の経営状況」より
就労継続支援A型・B型事業所ともに、事業所数は増加傾向にあります。
就労継続支援A型事業所は2012年(平成24年)の約1,000事業所と比較すると、2020年(令和2年)は約4,000事業所と4倍に増加しています。
一方、就労継続支援B型事業所は2012年(平成24年)の約7,000事業所と比較すると、2020年(令和2年)には約14,000事業所と7倍の増加率です。
障害のある方々にとって、就労継続支援A型・B型事業所が増えれば、それだけ就労の機会を得られる可能性も高くなります。
ただし、就労継続支援施設事業者間の競争は激しくなり、規模の小さい事業所は淘汰されていく事態が想定されます。就労継続支援を提供する中小事業者は、事業の拡大・安定のため、何らかの対策をとる必要があるでしょう。
就労継続支援施設等の障害福祉サービスの需要は高い
独立行政法人福祉医療機「障害福祉サービス等施設・事業所の経営状況」より
就労継続支援施設等の障害福祉サービスを利用する方々は増加傾向にあり、障害のある児童も含めた利用者数は、2021年10月時点で137万人を超えています。
就労継続支援施設等の需要は高く、今後、障害福祉サービスへの参入を目指す企業も増える可能性があります。
ただし、障害のある利用者をサポートするスタッフや設備、ノウハウ等が揃わないと、障害福祉サービス事業の準備は進められません。
就労継続支援施設業界が持つ課題
就労継続支援施設業界の課題は主に次の2つがあげられます。
サービス管理責任者の採用について
就労継続支援施設には、利用者60名につき1人の「サービス管理責任者」(常勤)の配置が必要です。
サービス管理責任者とは、障害のある人の自己決定権を尊重し、個別支援計画の作成を行い、施設職員と連携しつつ良質な支援につなげる役割を担う職種です。
サービス管理責任者となるには、基本的に実務経験の他、基礎研修・実践研修を経る必要があります。最短でも5年はかかってしまうので、人材の不足が課題となっています。
施設内での利用者とのトラブル
障害のある人が就労継続支援施設を利用するため、利用者同士のトラブル、利用者とスタッフとのトラブルへどのように対応するのかも課題です。
例えば、次のような些細な出来事でトラブルに発展するケースがあります。
- 精神疾患を持つ利用者がトイレに行っている間、スタッフが利用者本人のマグカップにコーヒーを注いだら、「コーヒーの色が濃い。毒を盛られた。」と騒ぎ出した
- 知的障害のある利用者が自分の所有物を盗んだと騒ぎ、隣の利用者とケンカになったが、失くした物は自分のポケットに入っていた 等
施設内で起きる様々なトラブルに、施設管理者やスタッフが冷静に対応していくためのノウハウの蓄積、情報共有も大切です。
就労継続支援施設業の動向と今後
利用者の増加も踏まえ、就労継続支援施設業界は今後どうなっていくのかについて解説します。
就労継続支援施設利用者の増加が著しい
独立行政法人福祉医療機「障害福祉サービス等施設・事業所の経営状況」より
就労継続支援A型・B型事業所ともに、利用者数は増加傾向にあります。
就労継続支援A型事業所の利用者は2012年(平成24年)に約24,000人でしたが、2020年(令和2年)は約74,000人と3倍以上に増加しています。
一方、就労継続支援B型事業所の利用者は2012年(平成24年)に約16万人でしたが、2020年(令和2年)には約28万人と1.7倍以上の増加率です。
今後も利用者の増加が見込まれ、障害福祉サービス事業の更なる拡大が予測されています。
人材不足で就労継続支援事業に支障が出る可能性もある
利用者が増加し、就労継続支援施設事業の需要は高まっていますが、人材の確保は今後いっそう困難となるおそれがあります。
就労継続支援施設のスタッフの中には、低い賃金や夜勤、障害のある方々への対応により、精神的・肉体的な負担が増し、離職を決意する人も少なくありません。
厚生労働省によれば、2022年の医療・福祉分野に関する入職者は約114万人でしたが、離職者は約121万人と、離職者の方が7万人も多い状況になっていると指摘しています(参考:厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」)。
離職者が多い状況の中、就労継続支援施設スタッフを新規に募集する際、給与・待遇面が良くないと、応募者は集まらない可能性が高いです。
後継者問題が深刻になる
就労継続支援施設の事業経営が軌道に乗っていても、中小事業者の場合は後継者がなかなか決まらない可能性があります。
就労継続支援施設は今後も需要の高い業界ですが、新規に参入する企業との競争と、過酷な労働環境のため、経営者の家族が事業承継をしないケースも想定されます。
また、全国の経営者の平均年齢は2022年に過去最高の63.02歳に達し、高齢化が進みました(参考:東京商工リサーチ「社長の平均年齢 過去最高の63.02歳 ~ 2022年「全国社長の年齢」調査 ~」)。
その上、経営者の高齢化と後継者不在が原因で倒産する企業は、2023年に500件を超える事態となりました(参考:帝国データバンク「全国企業倒産集計2023年11月報 別紙号外リポート:後継者難倒産」)。
今後、更なる廃業・倒産の増加が予測されます。就労継続支援施設の運営を継続したいならば、家族に頼らない事業承継方法を検討する必要があります。
就労継続支援施設業界のM&Aの動向
就労継続支援施設の重要が高まる中で、人材の確保は非常に難しく、M&Aによる買収のニーズが高まりつつあります。
こちらでは就労継続支援施設業界のM&Aの特徴と、主なM&Aの手法について解説します。
就労継続支援施設業界のM&Aの特徴
就労継続支援施設業界では同業者のM&Aの他、異業種とのM&Aも盛んに行われている点が特徴です。
主に次のようなパターンでM&Aが行われています。
- 就労継続支援施設を運営する株式会社同士、社会福祉法人同士が、事業の安定のため経営統合を目指す
- 訪問看護・介護サービスを行う企業が、就労継続支援事業者を買収し、お互いの人的資源やノウハウ等を組み合わせ、シナジー効果を図る
- 障害福祉サービスに初めて参入する企業が就労継続支援事業者を買収し、事業の多角化を目指す
特に障害福祉サービスに初めて参入する企業が、一から就労継続支援事業を立ち上げる場合、事業所の設置やスタッフ募集、行政への手続き等、非常に手間と時間がかかります。
就労継続支援事業者を買収した方が、スムーズに事業の多角化が図れることでしょう。
M&Aの目的とは?
買収側は、事業経営の安定化や事業規模の多角化を目指し、就労継続支援施設を運営する事業者と交渉するケースが多いです。
買収側は就労継続支援事業の買収により、次のような利益を得られます。
- 買収側が就労継続支援施設に新規参入した企業ならば、就労継続支援に関するノウハウ、人材、施設・設備等の経営資源をいっきに獲得できる
- 買収側が未進出だったエリアに進出し、新たな利用客を獲得できる
たとえ買収した側に就労継続支援に関するノウハウが無くても、就労継続支援施設とのM&Aが成功すれば、より効率的に事業規模の拡大を進められます。
M&Aの手法
就労継続支援施設業界のM&Aは他の業界の場合と同じく、相手の事情もよく考慮して、お互いが納得できる手法で、話し合いを進める必要があります。
こちらでは、就労継続支援施設業界のM&Aで良く利用されている「株式譲渡」「事業譲渡」、その他の手法について説明します。
株式譲渡
株式譲渡とは、売却側が買収側に株式を譲渡し、経営権を移転させるM&Aの手法です。
株式保有率が半数を超えるように譲渡すれば、買収側に経営権を移転できます。株式譲渡が行われる際は、次のように経営権を移転させるケースも多いです。
- 売却側が全ての株式を譲渡、買収側の完全子会社となる
- 親会社が子会社の株式を買収側に譲渡、子会社の経営権を移転させる
ただし、株式譲渡では経営権が移転するだけなので、統合後も就労継続支援施設自体は存続します。また、施設のスタッフも以前と同じ施設で働かせることが可能です。
事業譲渡
事業譲渡とは、売却側が買収側に事業の一部または全部を譲渡するM&A手法です。
例えば就労継続支援事業と訪問看護サービス事業を運営していた場合、訪問看護サービス事業だけに専念したいので、就労継続支援事業を買い手に譲渡するという方法があげられます。
また、他の企業へ事業譲渡する他、親会社が子会社の扱う事業を譲り受け、事業の統合やスリム化を図るケースもあります。
その他
株式譲渡や事業譲渡の他、次のような方法がとられる場合もあります。
- 会社合併:M&A当事者が1つの会社となる方法で、両方が消滅し新設会社を設置する「新設合併」、売却側が買収側に吸収される「吸収合併」の2種類がある。
- 会社分割:売却側の事業を分割し買収側へ譲渡する方法で、新設会社設立した後に全部または一部の事業を承継させるのが「新設分割」、事業の全部または一部を買収側へ吸収させる「吸収分割」の2種類がある。
- 株式公開買付け(TOB):他企業の経営権取得を目的に、株式の株式数・買付価格・期間等を公告後、取引所外で多数の株主から大量に買付けをするM&A手法。
- 株式交換:子会社から取得する株式の対価に関し、自社の株式を割り当てるM&A手法。
- 第三者割当増資:特定の第三者に新株を割り当てて発行し、資金の調達を図る方法。
- 資本提携・業務提携:広義のM&A手法。互いに出資するのが資本提携、互いの経営資源で共同事業を営むのが業務提携。2つを合わせ資本業務提携が行われるケースもある。
就労継続支援施設事業でM&Aを行うメリット
就労継続支援施設事業のM&Aは買収側の利益だけでなく、売却側にも大きなメリットがあります。
売却側のメリット | 買収側のメリット |
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売却側のメリット
M&Aにより後継者問題が解決でき、安定的な事業経営、従業員の雇用継続等も可能になる点がメリットです。
廃業・倒産のリスクの回避
就労継続支援施設を継ぐ人がいない、という理由で廃業・倒産してしまう事態を回避できます。
特に中小事業者の場合、家族や従業員の中で優秀な人材を探し、後継者として育成するのが難しい場合もあります。
しかし、M&Aに成功すれば買収側が就労継続支援施設を引き継ぎます。後継者が誰もいないと悩んでいる経営者は、M&Aによる解決を図りましょう。
安定的な事業経営の実現
買収側は規模の大きな社会福祉法人や企業が多く、売却側は安定した事業経営を実現できます。
M&Aを株式譲渡で行う場合、経営権が買収側に移るだけなので、売却側の経営者が以後も就労継続支援事業の責任者となり、事業の継続を行う取り決めも可能です。
また、買収側の潤沢な資金を活かし、新たな人材の確保や設備の充実を図れます。
売却による利益獲得
M&Aを行えば売却益(創業者利益)を得られる点がメリットです。
M&Aを事業譲渡で行う場合、譲渡とした事業の対価を現金で受け取れます。事業譲渡した後も自分の会社は存続するので、次の資金として活用できます。
- 自社の経営資金や、新規事業に向けた資金として活用できる
- 借り入れがあった場合は、返済に充てられる
ただし、必ずしも売却側の望んだ金額が受け取れるわけではありません。M&A交渉の過程で、売却金額の調整を余儀なくされるケースも想定されます。
なるべく売却側の希望に沿った売却金額を得るため、交渉前にM&A専門の仲介会社等へ相談し、アドバイスやサポートを受けておいた方が良いでしょう。
従業員の雇用継続
M&Aを行った場合、売却側の従業員の雇用継続が図れるメリットもあります。
現在、就労継続支援事業に専門的な知識を有するスタッフが不足している状況です。買収側にとっても人材の確保は大きな課題となっています。
そのため、売却側のスタッフがM&A以後、今まで通り就労継続支援施設の業務に従事する可能性は高いです。
また、買収側はスタッフが離職する事態を避けるため、給与・待遇面が更に優遇されるケースもあります。
買収側のメリット
迅速な事業拡大ができ、経営資源を一挙に獲得、たくさんの利用者も得られるというメリットがあります。
迅速な事業拡大が可能
買収側は、就労継続支援施設の買収で迅速に事業拡大を図れる点がメリットです。
例えば新たな進出地域に就労継続支援施設を設立する場合、土地の確保や施設の建築、スタッフ募集や設備投資も必要です。
しかし、M&Aが成立すれば買収した就労継続支援施設をそのまま利用できます。売却側の事業経営に問題がなければ、以前と同じように就労継続支援事業を行わせても構いません。
新たに就労継続支援施設を設立する際の手間、時間を大幅に短縮でき、スムーズに事業を拡大できます。
経営資源が一挙に獲得できる
買収側は、就労継続支援事業に精通したスタッフ、施設・設備、事業のノウハウを獲得できます。
例えば、就労継続支援に関するノウハウのない異業種が参入する際、初めから就労継続支援事業を立ち上げようとすれば、様々なトラブルが発生し、なかなか準備が進められないかもしれません。
しかし、就労継続支援施設の買収に成功すれば、短期間で事業を開始できます。手探りで就労継続支援施設業界に進出するよりも、獲得した資源を利用し、効率的に事業の多角化が図れます。
たくさんの利用者を得られる
買収に成功した就労継続支援施設の利用者を獲得できる点がメリットです。
M&Aを行った事実について、スタッフはもちろん施設利用者・家族に伝えなければいけません。しかし、以前から業務に従事していたスタッフや、支援内容に大きな変更がなければ、混乱は起きないでしょう。
M&Aによりたくさんの利用者を確保できるので、就労継続支援事業の安定と更なる向上につながります。
就労継続支援施設事業でM&Aを行う際の注意点
就労継続支援施設事業のM&Aを行う際、次の3点に注意が必要です。
- M&Aの交渉は必要なプロセスを経て慎重に進める
- デューデリジェンスを徹底する
- 取り決めた内容は必ず書面化する
それぞれについてわかりやすく解説します。
M&Aの交渉は必要なプロセスを経て慎重に進める
交渉を行う際は、一般的に周知されているプロセスを経て進めていきましょう。
M&Aにより売却側の施設や設備、人員等が買収側に移転する他、買収のため数千万円~数億円に上るお金が動くケースもあります。
交渉は必要なプロセスを経て慎重に進めていかないと、経営統合の際に深刻なトラブルが起きた場合、売却側・買収側双方に大きな損失が出てしまうことでしょう。
トラブルや損失を避けるために、次のような流れで交渉を行います。
- 交渉準備:就労継続支援施設のM&Aの方針や手法等を経営者が決め、条件に合った交渉相手を探す。
- 交渉開始:交渉相手を見つけたら速やかにアプローチ、交渉日時を調整する。交渉では基本的に経営者同士で話し合う。なお、情報漏洩を防ぐため「秘密保持契約書」を作成・取り交わす。買収側は買収内容・条件・価額等を明記した「意向表明書」を、売却側へ提示する。
- 基本的な合意:交渉当事者間で、就労継続支援施設のM&Aに関する基本的な方針へ合意したら、「基本合意書」を作成・取り交わす。
- デューデリジェンス開始:買収側は売却側の就労継続支援施設の価値・リスク等を調査する。
- 最終的な契約締結:本契約の締結に双方が合意したら「最終契約書」を作成・取り交わす。
- 経営統合を開始する
M&Aは交渉開始~最終的な契約に至るまで、基本的に1年以上かかります。
デューデリジェンスを徹底する
買収側は「デューデリジェンス」を実施し、売却側の就労継続支援施設の正確な評価に努めましょう。デューデリジェンスとはM&A交渉を進める過程で、売却側の価値・リスク等を調査する作業です。
デューデリジェンスを行う際は売却側も積極的に協力し、主に財務・法務・人事・ 事業等の幅広い分野について、不安要素が無いか等を調べます。
デューデリジェンスを行った結果、次のような事実が判明する場合もあります。
- 売却側が施設運営は順調と主張していたものの、深刻な赤字経営となっている事実が判明した
- 売却側の就労継続支援施設で利用者側と深刻なトラブルが発生し、訴訟に発展していた
- 施設経営者のパワハラを受け、離職したスタッフが数名いる 等
調査の過程で売却側の問題が発覚しても、交渉を継続するか打ち切るかの判断は買収側次第です。
ただし、買収側は経営統合後に深刻なトラブルが発生しないかどうか、慎重に判断する必要があるでしょう。
なお、買収側の方でデューデリジェンスに精通したスタッフがいないと、迅速に調査が進みません。
自社だけでデューデリジェンスを行うのが不安ならば、M&A専門の仲介会社等にサポートを依頼し、調査を任せた方が無難です。
取り決めた内容は必ず書面化する
M&Aの交渉を行う際、交渉当事者で取り決めた条件等は必ず文書に記録しましょう。
書面化をしておかないと、後々次のようなトラブルが発生するおそれもあります。
- 話し合いで決めた契約内容がわからなくなった
- 交渉の際に開示した秘密情報が漏洩している
- 交渉相手の契約不履行でトラブルが起きた 等
M&A交渉の各プロセスで取り決めた内容は、次のような書類を作成し記録します。
- 秘密保持契約書(NDA):交渉の際に開示した秘密情報の扱い方、秘密が漏洩した場合のペナルティ等を記載した文書。
- 意向表明書:買収側が売却側に対し、希望する買収内容・条件・価額等を提示する書類。拘束力は無く、交渉の過程で条件等は調整・変更できる。
- 基本合意書:交渉当事者が基本的な条件に合意したとき作成する文書。
- 最終契約書:交渉当事者が最終的に取り決めた条件へ合意、成約のため締結する拘束力のある契約書。
なお、M&A専門の仲介会社等にM&A交渉のサポート・アドバイスを依頼する場合、業務依頼契約書(アドバイザリー契約書)の作成も必要です。
就労継続支援施設事業のM&Aを成功させるためのポイント
就労継続支援施設事業のM&Aを成功させるには、次のポイントを押さえておく必要があります。
- M&A戦略の立案
- 相場価格をよく理解しておく
- PMI(統合後プロセス)の確立
それぞれのポイントについてわかりやすく解説します。
M&A戦略の立案
相手との交渉前にM&Aの目標を検討し、方針を決めたうえで、交渉に向けた準備や計画を進める必要があります。
売却側と買収側がお互いに就労継続支援施設業界の現状・市場を調査すれば、交渉成立のための明確な戦略が立てられます。
売却側と買収側共通のM&A戦略のポイントは次の通りです。
- M&Aで達成したい目標:株式譲渡(譲受)で経営権の移転を目指すのか、事業譲渡(譲受)で事業のみを対象に交渉するのか等
- M&A交渉の時期
- 交渉相手の選定:自社が進めたいM&A手法に合意してくれる相手かどうか
- 買収(売却)方法の選定:株式譲渡、事業譲渡、合併等、自社に有利なM&A手法を選ぶ
- 買収(売却)価額または株式数
それに加え、売却側は譲渡する株式数や、売却したい就労継続支援施設等を慎重に検討します。一方、買収側はM&Aで用意できる予算、就労継続支援施設を買収し十分採算がとれるのかを考慮します。
ただし、社内でM&Aに精通したスタッフがいないと、効果的なM&A戦略の立案が難しい場合もあります。
M&Aの戦略がうまく立てられないときは、M&A専門の仲介会社にサポートやアドバイスを依頼しましょう。
当社のM&A仲介サービス「M&A HACK」では上記の立案策定や交渉相手の紹介を、完全成功報酬でリスクなしの報酬形態で対応しています。初回の相談は無料ですのでお気軽に下記よりご相談ください。
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相場価格をよく理解しておく
M&Aの交渉前に、就労継続支援施設業界の相場価格を把握しておく必要があります。
交渉の相手方が提示した買収(売却)金額と、自社の希望する金額の差が大きいと、交渉は難航してしまいます。
交渉当事者が相場価格に沿って金額を提示すれば、交渉がスムーズに進む可能性は高いです。M&Aで良く利用される株式譲渡・事業譲渡の計算方法はそれぞれ次の通りです。
- 株式譲渡:時価純資産額+営業利益×2年~5年分
- 事業譲渡:時価事業純資産額+事業利益×2年~5年分
ただし、売却側の就労継続支援事業が好調か否か、デューデリジェンスで問題が発覚した等の影響で気、買収(売却)価額の大幅な調整が必要となる場合もあります。
必ずしも相場価格通りに、買収(売却)金額が決まるわけではない点に注意しましょう。
PMI(統合後プロセス)の確立
M&A契約成立後の経営統合の進め方について、慎重に協議する必要があります。
「PMI(Post Merger Integration)」とは、買収後の経営や業務、従業員の意識等の統合施策を実施する作業です。PMIは売却側・買収側双方が協力して進める必要があります。
支障なく経営統合を進めるには、PMIで次のようなポイントを十分に検討しておかなければいけません。
- 就労継続支援施設事業の新たな経営体制の構築
- 経営統合で目指す目標・方針を実現するための計画策定
- 売却側・買収側の協業を目的に、新たな事業システムの構築、業務運営
3つの要素を踏まえPMIについて立案すれば、統合後に起こり得るトラブルを最小限に軽減できます。
ただし、M&Aは交渉開始~最終的な合意契約まで、基本的に1年以上かかります。契約が成立してからPMIの立案を開始すると、統合まで相当時間がかかる可能性もあります。
そのため、M&A戦略を立案する段階で、PMIの立案も進めておく必要があるでしょう。
就労継続支援施設事業のM&Aにおける成功事例
就労継続支援施設事業のM&Aにおける成功事例を紹介しましょう。これから就労継続支援施設事業のM&Aを検討している人は、ぜひ参考にしてください。
KADOKAWAによるWin GraffitiとのM&A
売却側である「Win Graffiti」は栃木県宇都宮市を拠点に、就労継続支援事業等の福祉事業、鶏卵事業等を手掛ける企業です。
一方、買収側は「KADOKAWA」で東京都千代田区に本社があり、出版や映像、ゲーム、Webサービス、教育等の幅広い事業を展開する総合エンターテインメント企業です。
KADOKAWAは、Win Graffitiの次のような強みに注目します。
- Win Graffitiは就労継続支援A型事業、障害者相談支援事業、障害児相談支援事業等に実績がある
- 就労継続支援に関するノウハウやスタッフ、施設・設備が整っている
- Win Graffitiの就労継続支援施設を買収すれば、多くの利用者を獲得でき、福祉事業に安心して新規参入できる
そこで、KADOKAWAは障害のある方々の雇用拡充を目指し、Win Graffitiと交渉を開始します。
2024年4月26日には双方が株式譲渡契約を締結し、Win GraffitiはKADOKAWAの子会社となりました。
参考:就労継続支援事業などを手掛けるWin Graffiti株式会社を子会社化
朝日インテックによるフィカスとのM&A
売却側である「フィカス」は愛知県名古屋市を拠点に、愛知県知事から就労継続支援A型事業所の認定を受け、障害のある方々の支援事業を展開する企業です。
買収側は「朝日インテック」で愛知県瀬戸市に本社があり、医療機器の開発・製造・販売等を手がける企業です。
朝日インテックでは、グループ全社で障害のある方々の安定雇用に取り組むため、就労継続支援に実績のある企業を探していました。
朝日インテックはフィカスの次の点に注目します。
- フィカスは愛知県内にて、障害のある方々の能力・適性に応じた雇用の場を提供している
- フィカスを買収すれば就労継続支援に関するノウハウ、設備、優秀なスタッフを獲得できる
そこで、朝日インテックは新たに福祉事業に参入するべく、フィカスとの交渉を開始します。
2018年7月12日には取締役会でフィカスの全株式の取得を決議し、同日に株式譲渡が実行され、フィカスは朝日インテックの会社化となりました。
参考:フィカス株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ
ジャパンクリエイトグループによる誠栄とのM&A
売却側である「誠栄」は大阪府守口市を拠点に、就労継続支援A型事業所「守口誠翔園」を運営している企業です。
一方、買収側は「ジャパンクリエイトグループ」で大阪府大阪市に本社があり、人材ビジネス、食品流通ビジネス、店舗運営ビジネス等、幅広いサービスを提供する企業です。
福祉事業に新規参入を目指すジャパンクリエイトグループは、大阪府内で就労継続支援事業に実績のある企業を探していました。
ジャパンクリエイトグループは、誠栄の次の点に注目します。
- 誠栄は身体障害や視覚障害、聴覚障害、知的障害、精神障害のある利用者等を支援してきた豊富な経験がある
- 誠栄は地域密着型の企業なので、買収後も経営資源を活用し事業拡大ができる
そこで、ジャパンクリエイトグループは誠栄とM&A交渉を開始します。
2017年10月18日にジャパンクリエイトグループは誠栄の株式を取得し、誠栄の子会社化に成功しました。
AHCグループによるCONFEL、RAISEとのM&A
売却側である「CONFEL」は愛知県豊橋市を拠点に、児童発達支援事業等を手がけています。もう一方の売却側は「RAISE」で、愛知県名古屋市を拠点に医療機器、医療用品等の企画、販売等を行う企業です。
買収側である「AHCグループ」は東京都千代田区に本社があり、就労継続支援B型事業所、児童発達支援、放課後等デイサービス、生活介護等を幅広く手がける企業です。AHCグループは更なる福祉事業の拡大、医療部門への参入を検討していました。
M&Aによる事業強化を模索する過程で、CONFEL・RAISEの次の点に注目します。
- CONFELは愛知県内で放課後等デイサービス・児童発達支援事業を運営しており、買収で更なる福祉事業の拡大が見込める
- RAISEは医療機器、医療用品等の企画、販売等を行っていて、事業の多角化が図れる
そこでAHCグループは、CONFEL・RAISEと交渉を開始します。
2022年8月18日には取締役会でCONFEL・RAISEの発行済全株式の取得を決議し、両社の完全子会社化に成功しました。
参考:株式会社CONFEL、株式会社RAISEの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ
エムケイ興産によるきのこ村とのM&A
売却側である「きのこ村」は広島県東広島市を拠点に、広島県知事から就労継続支援A型事業所の認定を受け障害のある方々の支援事業や、ビルメンテナンス事業等を展開する企業です。
一方、買収側は「エムケイ興産」で、広島県呉市に本社があり、建築物の衛生的環境確保に係る運営維持業務・建物清掃、設備管理、環境衛生管理業務、警備業務等を幅広く手がける企業です。
エムケイ興産では新たに障害のある方々への支援事業を行うため、就労継続支援に実績のあるきのこ村とM&A交渉を開始します。
2012年9月19日にエムケイ興産はきのこ村の全株式を取得し、きのこ村の子会社化に成功しました。
manabyによるエーシーイーとのM&A
売却側である「エーシーイー」は宮城県刈田郡蔵王町を拠点に、就労継続支援事業及び障害児通所支援事業、就労移行支援事業を手がける企業です。
一方、買収側は「manaby」で宮城県仙台市に本社があり、障害者就労支援事業所、一般向けeラーニング・カウンセリング事業、システムエンジニアリングサービス等を提供する企業です。
manabyは、東北エリアでの福祉分野に関するサービス提供の拡大を図るため、障害のある方々の就労支援に実績のある企業とのM&Aを模索します。
そこでmanabyは、エーシーイーの次の点に注目します。
- 事業譲渡により、就労移行支援・就労継続支援のノウハウを持つ人材が獲得できる
- 障害児通所支援事業は、就労移行支援事業・就労継続支援事業と親和性が高いので、今後、両事業を繋ぐ相互活性化が期待できる
manabyは優秀な人材の獲得と事業拡大を目指し、エーシーイーと交渉を開始しました。
2023年11月30日にはエーシーイーとの事業譲渡契約が締結され、就労継続支援事業等の譲受に成功しました。
クリエーティブカミヤによるONE HEARTとのM&A
売却側である「ONE HEART」は愛知県名古屋市を拠点に、就労継続支援B型事業所、農産物の販売事業等を手がけてきた企業です。
一方、買収側は「クリエーティブカミヤ」で東京都町田市に本社があり、介護用品の製造・販売、高齢者用住宅改修、福祉用具貸与、訪問介護等を扱う企業です。
就労継続支援事業等を譲渡し企業主導型保育園事業等の運営に専念したいONE HEARTと、就労継続支援事業を強化したいクリエーティブカミヤとの利害が一致し、双方はM&Aの交渉を開始します。
2023年5月20日には事業譲渡契約の締結を公表しました。以後、就労継続支援B型事業所等の運営はクリエーティブカミヤに承継されます。
閑谷福祉会による浜っ子とのM&A
売却側である「浜っ子」は岡山県備前市を拠点とし、就労継続支援B型事業所「閑谷ワークセンター・ひなせ」、居宅介護等「ヘルパーステーションそら」を運営する社会福祉法人です。
一方、買収側は「閑谷福祉会」で岡山県和気郡和気町に法人本部があり、生活介護、就労移行支援等を担う社会福祉法人です。
就労継続支援B型事業等を通し、障害のある方々の支援を強化したい閑谷福祉会は、浜っ子とM&A交渉を開始します。
2021年12月1日には事業譲渡が完了し、就労継続支援B型事業所等は閑谷福祉会に引き継がれました。
参考:事業譲受のお知らせ
くすのきによるつくしの会とのM&A
社会福祉法人である「くすのき」と「つくしの会」は同じ高知県土佐市を拠点に、就労継続支援事業等を行っていました。
しかし、両社会福祉法人は就労継続支援の充実、事業運営のスリム化を図るため、合併の検討を開始しました。
両社会福祉法人は交渉を合併開始し、くすのきがつくしの会を吸収合併する取り決めを行います。
2020年9月14日には合併が公告され、社会福祉法人つくしの会は解散しました。
まとめ
今回は、就労継続支援施設業界のM&A・事業承継の全知識という形で、就労継続支援施設のM&Aにおける売却相場・事例・成功ポイントを解説しました。
就労継続支援施設業界は、施設利用者の増加により、ますます需要の拡大が予想される分野と言えます。しかし、人材不足が問題となっており、新たにスタッフを募集してもなかなか応募者は集まらない可能性があります。
今後、いっそう就労継続支援施設に関連する株式譲渡や事業譲渡が盛んになるでしょう。
M&Aは企業の成長戦略として非常に有効な手法ですが、交渉の際は相手方の事情も良く考えて、慎重に話し合いを進める必要があります。
ぜひ今回の記事を参考に就労継続支援施設のM&Aを検討してみてください。