「食品卸売業界でM&Aを成功させるには、どんなポイントが重要なのでしょうか?」
「事業承継を考えているけれど、何から手をつけていいか分からない」
この記事をご覧の方は、上記のような疑問をお持ちの人が多いのではないでしょうか。
インターネットで情報を探しても、一般的な内容ばかりで、具体的な相場や成功事例についてはなかなか見つからないのが実情です。
そこで、M&Aの専門企業「M&A HACK」が、食品卸売会社のM&Aと事業承継について、具体的な相場や事例、成功のための重要ポイントをわかりやすく解説します。これからM&Aや事業承継を考える方々は、ぜひ参考にしてください。
目次
食品卸売とは
このセクションでは、食品卸売の具体的な定義から始め、食品卸売会社の役割や特徴について解説していきます。
食品卸売業の定義
食品卸売業とは、食品メーカーから食品を仕入れ、それを小売店やその他の事業者に販売する業態を指します。
食品卸売業者は、食品メーカーと小売店の間に立ち、食品の流通を担う重要な役割を果たしています。食品卸売業者は、自社倉庫で在庫を管理し、小売店からの注文に応じて商品を配送します。
食品卸売業の役割
食品卸売業は、食品の安定供給と効率的な流通に不可欠な存在です。食品メーカーにとっては、全国の小売店に直接販売するのは非効率的であるため、食品卸売業者を介することで効率的に商品を販売することができます。
一方、小売店にとっては、多数の食品メーカーから個別に仕入れるのは手間がかかるため、食品卸売業者から一括して仕入れることで仕入れの効率化が図れます。また、食品卸売業者は、小売店の需要動向を把握し、適切な在庫管理を行うことで、食品の安定供給にも貢献しています。
食品卸売業の特徴
食品卸売業の特徴は、以下の3点があげられます。
- 多品目を扱う:食品卸売業者は、加工食品、調味料、飲料、酒類など、多岐にわたる食品を取り扱います。小売店の様々なニーズに応えるため、幅広い商品を揃えています。
- 物流機能を担う:食品卸売業者は、自社倉庫で在庫を管理し、小売店からの注文に応じて商品を配送します。効率的な物流システムを構築することが重要な課題となります。
- 情報収集力が求められる:食品卸売業者は、小売店の需要動向を的確に把握し、適切な在庫管理を行う必要があります。また、食品メーカーの新商品情報や販促情報を収集し、小売店に提供することも重要な役割です。
以上のように、食品卸売業は、食品メーカーと小売店の間に立ち、食品の安定供給と効率的な流通を担う重要な役割を果たしています。食品流通において欠かせない存在といえます。
食品卸売業界の市場動向と市場規模
経済産業省「飲食関連産業の動向(FBI 2023年上期)」より
M&Aにおいて業界の現状とこれからを理解しておくことは非常に重要です。そこで、ここでは、食品卸売業の動向と今後について解説していきます。ぜひ参考にしてください。
食品卸売業界が持つ課題
食品卸売業界は、以下のような様々な課題に直面しています。
課題 | 内容 |
小売業の売上高の伸び悩み | 食品小売業の売上高の伸び悩みにより、食品卸売業者の売上高も停滞傾向にある |
メーカーの直販化の進展 | 食品メーカーの直販化の進展により、食品卸売業者の売上高が影響を受けている |
小売業の価格競争の激化 | 小売業の価格競争の激化により、食品卸売業者の収益性が悪化している |
少子高齢化による国内市場の縮小 | 少子高齢化による国内市場の縮小が、食品卸売業界の課題となっている |
物流コストの上昇 | 物流コストの上昇が、食品卸売業界の収益性を圧迫している |
食品卸売業界の市場規模推移
経済産業省によると、2022年の食品卸売業(飲食料品卸売業)の市場規模は約94.9兆円と推計されています。食品卸売業界は、国内の食品流通の中核を担う重要な役割を果たしてきましたが、近年は市場環境が大きく変化しており、従来のビジネスモデルでは対応が難しくなっています。卸売業者には、付加価値の高いサービスの提供や、新たな市場の開拓など、新たな成長戦略が求められています。
食品卸売業界は、市場環境の変化に直面しており、今後の成長に向けた戦略の転換が求められています。卸売業者は、効率化や高付加価値化を進めることで、収益性の向上を図る必要があります。また、海外市場の開拓やEC市場への対応など、新たな市場機会の獲得にも取り組むことが重要です。食品卸売業界の今後の動向が注目されます。
食品卸売業界の競合状況
食品卸売業界は、大手卸売業者を中心に寡占化が進んでおり、上位企業への市場シェアの集中が進んでいます。大手卸売業者は、全国規模の販売ネットワークや、豊富な商品ラインナップを武器に、スケールメリットを活かした事業展開を行っています。
一方で、中小の卸売業者も数多く存在しており、地域密着型の営業を強みとしています。中小卸売業者は、地元の小売店との強固な関係を構築し、きめ細かなサービスを提供することで、大手卸売業者との差別化を図っています。
今後は、大手卸売業者による中小卸売業者の買収や、卸売業者同士の提携など、業界再編の動きが活発化することが予想されます。卸売業者には、自社の強みを活かしつつ、他社との協業も視野に入れた戦略的な経営が求められます。
食品卸売業界の収益性
食品卸売業界の収益性は、近年悪化傾向にあります。小売業の価格競争の激化により、卸売業者の販売価格が下落傾向にあり、粗利益率が低下しています。また、物流コストの上昇や、商品ロスの増加なども、収益性を圧迫する要因となっています。
収益性の改善に向けては、効率的な物流システムの構築や、高付加価値商品の販売強化などが求められます。物流面では、AIやロボティクスを活用した自動化・省力化により、コスト削減を図ることが期待されます。また、商品面では、プライベートブランド商品の開発や、健康志向の高まりを捉えた商品の提案など、差別化を図ることが重要となります。
さらに、卸売業者には、小売店との連携を深め、需要予測の精度を高めることで、在庫の適正化を図ることも求められます。在庫の適正化は、商品ロスの削減や、物流コストの削減にもつながります。卸売業者には、収益性の向上に向けて、様々な取り組みを進めていくことが求められています。
食品卸売業界の今後の見通し
食品卸売業界は、今後も厳しい経営環境が続くと予想されます。国内市場が縮小傾向にある中で、小売業の価格競争も激化しており、卸売業者の売上高の大幅な拡大は見込みにくい状況です。
一方で、高齢化の進展により、中食市場や宅配市場の拡大が見込まれています。高齢者の単身世帯の増加により、便利さや健康志向の高い食品への需要が高まっており、これらの市場への参入が重要な課題となっています。卸売業者には、小売店との連携を深め、消費者ニーズを捉えた商品提案を行うことが求められます。
また、海外市場の開拓も、今後の成長戦略として注目されています。アジアを中心に、日本食への関心が高まっており、卸売業者には、海外の食品流通網への参入や、現地企業との提携などを通じて、海外市場への展開を図ることが期待されます。
さらに、EC市場への対応も重要な課題となっています。新型コロナウイルスの影響により、食品のEC化が加速しており、卸売業者には、ECサイトへの卸販売や、自社ECサイトの運営など、EC市場への対応力を高めることが求められます。
食品卸売業界は、今後も厳しい経営環境が続くと予想されますが、新たな市場の開拓や、付加価値の高いサービスの提供など、様々な取り組みを進めることで、成長を図ることが期待されます。
食品卸売業界におけるDXの進展
食品卸売業界では、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが加速しています。DXは業務効率化と付加価値向上に欠かせない重要な課題です。
卸売業者は、EDIシステムを導入し、小売店とのデータ交換を電子化することで、発注業務の自動化と在庫情報の共有を実現しています。これにより、業務効率化、欠品削減、在庫適正化を図っています。
また、AIを活用した需要予測システムの導入も進んでいます。過去の販売データや外部要因を分析し、高い精度で商品需要を予測することで、在庫適正化と商品ロス削減を目指します。さらに、トレーサビリティシステムの構築により、生産から販売までの全工程を追跡・管理し、食品の安全性と品質管理の向上に取り組んでいます。
今後も食品卸売業界ではDXをさらに推進し、小売店や消費者のニーズに応える高品質なサービスの提供が求められます。DXにはIT投資と社内体制の整備が不可欠ですが、長期的視点に立った取り組みが重要です。DXを活用することで、食品卸売業界は新たな価値を創出し、競争力を高めていくことが期待されています。
食品卸売業の動向と今後
食品卸売業界におけるM&Aの動向について解説します。これから食品卸売企業のM&Aを検討している人は、ぜひ情報の一部として参考にしてください。
食品卸売業界における業界再編の動き
食品卸売業界では、近年、合併や買収による業界再編が活発化しています。大手卸売業者同士の経営統合によるスケールメリットを活かした事業展開や、中小卸売業者の買収による地域密着型の営業網の拡大、専門性の高い商品調達力の獲得などが目的とされています。
また、物流会社や商社などの異業種からの参入も増えており、競争環境はさらに激化すると予想されます。今後も業界再編の動きは継続し、競争環境の変化が見込まれるため、卸売業者には自社の強みを活かしつつ、他社との協業や事業の選択と集中、シナジー効果の発揮による収益性の向上が求められます。
食品卸売業界におけるグローバル化の進展
食品卸売業界では、国内市場の縮小を背景に、アジアを中心とした海外市場の開拓が進められています。海外市場への展開では、現地法人の設立や現地企業との提携により、現地の商取引の慣例に合わせた事業展開や、ニーズに合わせた商品開発、物流網の構築などが行われています。
また、日本食品の輸出拡大を支援する取り組みも進められており、卸売業者には輸出事業の強化が求められます。輸出に当たっては、現地の食品規制への対応や物流面での課題解決、官民一体となった取り組みへの参画、海外の販売先との連携強化などが必要となります。
卸売業者には、海外展開に向けた体制整備やリスク管理、現地ニーズを捉えた商品開発、物流の効率化などが重要な課題となります。
食品卸売業界におけるEC化の進展
食品卸売業界では、小売業のEC化に伴い、卸売業者もECへの対応が求められています。自社ECサイトの開設やECモールへの出店により、自社商品の認知度向上、新規顧客の獲得、ECモールの集客力を活用した販売拡大などが期待できます。
飲食店向けECプラットフォームの活用も進められており、卸売業者にはプラットフォームへの参入や連携強化が求められます。今後もEC化はさらに進展すると予想され、卸売業者にはオンラインとオフラインを融合させた販売体制の構築、商品情報の充実、配送体制の整備、オンラインとオフラインの営業活動の連動による顧客との接点強化などが求められます。
EC化により販売チャネルの多様化と収益基盤の強化が期待されますが、自社の強みを活かした差別化も重要となります。
食品卸売業界における物流の効率化
食品卸売業界では、物流コストの上昇やドライバー不足などの課題を背景に、物流システムの見直しが進められています。共同配送の取り組みや物流拠点の集約化により、物流の効率化が図られています。
また、AI・ロボティクスの活用による自動化・省力化も進んでおり、物流業務の生産性向上が期待されています。今後は、さらなる物流の効率化に向けて、先進技術の導入や物流体制の最適化が求められます。
物流の効率化は、コスト削減だけでなく、環境負荷の低減にもつながるため、持続可能な物流システムの構築が重要な課題となっています。
食品卸売業界のM&Aの動向
食品卸売業界におけるM&Aの動向について解説します。これから食品卸売企業のM&Aを検討している人は、ぜひ情報の一部として参考にしてください。
食品卸売業界におけるM&Aの活発化
食品卸売業界では、業界内の競争激化や後継者不在による事業承継問題などを背景に、大手卸売業者を中心にM&Aが活発化しています。M&Aを通じて、規模の拡大や事業の効率化、新規市場への参入などを図る動きが見られます。
業界再編の動きも加速しており、今後もM&Aを通じた業界の寡占化が進むと予想されます。M&Aは、食品卸売業界の競争環境に大きな影響を与えるため、卸売業者には、M&Aを視野に入れた経営戦略の立案が求められます。
食品卸売業界のM&Aにおける買収目的の変化
食品卸売業界のM&Aでは、買収目的が多様化しています。主な買収目的とその特徴は以下の通りです。
買収目的 | 特徴 |
規模拡大・市場シェア拡大 | 従来からの主要な買収目的、スケールメリットによるコスト削減や交渉力の向上を図る |
事業の多角化 | 新規事業分野への進出を目的とした買収が増加、食品卸売業者が外食産業や中食産業への参入を狙うケースが見られる |
海外展開 | 海外市場への進出を目的としたクロスボーダーM&Aが増加傾向、 アジアを中心に、日本食品の需要が高まっていることが背景にある |
事業承継問題の解決 | 後継者不在による事業承継問題を抱える企業をM&Aの対象とするケースが増加、事業継続と雇用の維持を図ることができる |
技術力・ノウハウの獲得 | 先進的な技術力やノウハウを持つ企業をM&Aの対象とするケースが見られる、自社の競争力強化や新たな価値創造につなげる |
M&Aの目的が多様化することで、食品卸売業者の事業ポートフォリオの拡大と収益基盤の強化が期待できます。一方で、新規分野への参入にはリスクも伴うため、買収先の選定や統合プロセスの管理には、慎重な検討と適切な対応が求められます。
食品卸売業界のM&Aにおける地域的拡張の影響
食品卸売業界では、M&Aを通じた地域的な事業拡張が活発化しています。新規地域への参入により、卸売業者は新たな顧客基盤を獲得し、売上拡大とリスク分散を図ることができます。
また、複数の地域に拠点を持つことで、物流効率の改善や在庫管理の最適化が可能になります。加えて、広域にわたる営業基盤は、メーカーとの価格交渉力や小売業者との取引条件の改善にもつながります。
一方で、異なる地域の事業を統合する際には、営業体制や物流体制の再編、地域ごとの商慣行や食文化への対応などの課題があります。卸売業者は、これらの課題を克服しながら、地域特性を踏まえた統合後の事業体制の最適化が求められています。今後、食品卸売業界では、全国的な事業基盤の構築を目指したM&Aがさらに活発化すると予想されます。
食品卸売のM&Aをするメリット
食品卸売のM&Aにおいてのメリットを売却側・買収側の両方から解説します。メリットを元にして食品卸売のM&Aを検討してください。
売却側のメリット | 買収側のメリット |
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売却側のメリット
食品卸売業界における売却側のメリットは、以下の通りです。
- 事業の存続と発展
- 財務状況の改善
- 経営資源の有効活用
- 経営者の引退・世代交代
- 経営リスクの低減
それぞれ詳しく解説していきます。
事業の存続と発展
食品卸売業者が後継者不在などの理由でM&Aを選択する場合、事業を存続させ、発展させることができます。買収先企業の経営資源を活用することで、事業基盤の強化や新市場の開拓が可能となります。
財務状況の改善
財務状況が悪化している食品卸売業者にとって、M&Aは財務状況を改善する有効な手段となります。買収先企業の資金力を活用することで、借入金の返済や設備投資などが可能となり、財務体質の強化が図れます。
経営資源の有効活用
食品卸売業者が保有する経営資源(人材、設備、ノウハウなど)を、買収先企業の事業に活用することで、経営資源の有効活用が可能となります。これにより、事業の効率化や収益性の向上が期待できます。
経営者の引退・世代交代
経営者が高齢になり、後継者が不在な場合、M&Aによって経営者の引退や世代交代を円滑に進めることができます。事業を承継する適切な後継者を見つけることで、事業の継続性を確保することができます。
経営リスクの低減
食品卸売業界は競争が激しく、経営環境の変化に対応することが求められます。M&Aを通じて、事業ポートフォリオの多角化や事業基盤の強化を図ることで、経営リスクの低減が可能となります。
買収側のメリット
食品卸売業界における買収側のメリットは、以下の通りです。
- 事業拡大とシナジー効果
- 商品ラインナップの拡充
- 販路の拡大
- 物流ネットワークの強化
- 競合他社への対抗
それぞれ詳しく解説していきます。
事業拡大とシナジー効果
買収側企業は、M&Aを通じて事業規模を拡大し、シナジー効果を得ることができます。販路の拡大や商品ラインナップの拡充、物流ネットワークの強化などにより、売上高の増加や収益性の向上が期待できます。
商品ラインナップの拡充
買収先企業の商品を自社の商品ラインナップに加えることで、商品の充実度を高めることができます。これにより、顧客ニーズへの対応力が向上し、売上高の増加が期待できます。
販路の拡大
買収先企業の販路を活用することで、自社の商品を新たな市場に展開することができます。これにより、顧客基盤の拡大や売上高の増加が期待できます。
物流ネットワークの強化
買収先企業の物流拠点や配送ネットワークを活用することで、物流効率の向上や配送コストの削減が可能となります。これにより、収益性の向上や顧客満足度の向上が期待できます。
競合他社への対抗
買収先企業の経営資源を活用することで、競合他社に対する競争力を高めることができます。これにより、市場シェアの拡大や収益性の向上が期待できます。
食品卸売のM&Aの注意点
食品卸売のM&Aを行う際の注意点を解説します。食品卸売のM&Aを行う際の注意点は、以下の通りです。
事業デューデリジェンスの重要性
事業デューデリジェンスは、M&Aにおいて極めて重要な役割を果たします。買収先企業の事業内容や財務状況、法的リスクなどを詳細かつ網羅的に調査・分析するプロセスであり、買収の意思決定に大きな影響を与えます。
食品卸売業界でM&Aを行う際には、事業デューデリジェンスを入念に実施し、買収先企業の実態を正確に把握することが何よりも重要です。
特に、食品の安全性や品質管理、在庫管理などの観点から、買収先企業の事業運営体制を徹底的に確認する必要があります。事業デューデリジェンスを疎かにすると、買収後に予期せぬ問題が発生し、M&Aの成果に重大な影響を及ぼす可能性があります。
適切な企業価値評価の必要性
M&Aを行う際には、買収先企業の企業価値を適切に評価することが極めて重要です。企業価値の評価は、買収価格の設定に直結するため、慎重に行う必要があります。食品卸売業界では、企業価値の評価に際して、在庫の価値や販路の強さ、ブランド力などの要素を総合的に考慮する必要があります。
また、将来の市場環境や競合状況なども踏まえ、長期的な視点から企業価値を評価することが求められます。企業価値の評価を誤ると、買収価格の設定を誤り、M&Aの成否に大きな影響を与える可能性があります。適切な企業価値評価のためには、業界に精通した専門家の知見を活用することも有効です。
PMIの難しさ
PMIとは、M&A後の統合プロセスを指します。買収先企業を自社の経営体制に統合し、シナジー効果を最大限に引き出すためのプロセスであり、M&Aの成否を左右する重要な要素です。食品卸売業界でM&Aを行う際には、PMIが大きな課題となります。
買収先企業との業務プロセスの統合や、社員の融和、企業文化の融合などを円滑に進めることが求められます。特に、物流拠点の統廃合や、商品ラインナップの見直し、営業体制の再編などは、PMIにおける重要な課題です。
これらの課題に適切に対応できなければ、M&Aの効果を十分に発揮することができません。PMIを成功させるためには、綿密な計画と着実な実行が不可欠です。
食品卸売におけるM&Aを成功させるためのポイント
食品卸売におけるM&Aを成功させるためのポイントを解説します。食品卸売におけるM&Aを成功させるためのポイントは、以下の通りです。
- M&A戦略の立案
- 相場価格の把握
- PMI(統合後プロセス)の確立
それぞれ詳しく解説していきます。
M&A戦略の立案
M&Aを行う際には、自社の経営戦略に基づいたM&A戦略を綿密に立案することが重要です。M&Aの目的や狙いを明確化し、買収先企業の選定基準を具体的に設定することが求められます。また、買収後のシナジー効果を可能な限り具体的に想定し、PMIの方針を事前に綿密に策定しておくことが重要です。
M&A戦略の立案に際しては、自社の強みや弱みを冷静に分析し、業界の動向や競合他社の動きも考慮に入れる必要があります。M&A戦略が明確でないと、M&Aの効果を十分に発揮することができません。
相場価格をよく理解しておく
M&Aを行う際には、業界の相場価格を十分に理解しておくことが重要です。食品卸売業界のM&Aにおける相場価格の計算方法は、以下の通りです。
指標 | 計算方法 | 食品卸売業界の相場 | 例 |
EBITDA倍率 | EBITDAに一定の倍率を掛けて算出 | 3〜7倍程度 | EBITDA 1億円の企業の場合、3億円〜7億円程度が相場価格の目安 |
PER(株価収益率) | 当期純利益に対するPERを用いて算出 | 8〜15倍程度 | 当期純利益5,000万円の企業の場合、4億円〜7億5,000万円程度が相場価格の目安 |
時価純資産倍率 | 純資産に一定の倍率を掛けて算出 | 0.7〜1.5倍程度 | 純資産3億円の企業の場合、2億1,000万円〜4億5,000万円程度が相場価格の目安 |
以上の方法を用いて、食品卸売業界のM&Aにおける相場価格を計算することができますが、最終的な価格は売り手と買い手の交渉によって決定されるため、これらの計算方法はあくまで参考値として利用されます。
PMI(統合後プロセス)の確立
PMIを円滑に進めるためには、統合後のプロセスを事前に綿密に確立しておくことが重要ですが、これはM&Aを単独で行う場合、非常に難しい作業となります。買収先企業の業務プロセスや組織体制、人事制度などを詳細に把握し、自社との適合性を検討するには、多大な時間と労力が必要です。また、PMIの実行計画の策定や進捗状況のモニタリングも、専門的な知識と経験が求められます。
M&Aを単独で行ってしまうと、これらの作業に社内リソースを割かれてしまい、本業に支障をきたす恐れがあります。また、PMIの確立が不十分だと、せっかくのM&Aの効果を十分に発揮できません。
そこで、M&A仲介を利用することをおすすめします。M&A仲介業者は、豊富な経験と専門知識を持っており、PMIの確立をサポートしてくれます。業務プロセスの統合方法や組織体制の再編方針、人事制度の統一などについて、的確なアドバイスをしてくれるでしょう。また、PMIの実行計画の策定や進捗状況のモニタリングも、仲介業者に任せることができます。
M&A仲介を利用することで、自社のリソースを本業に集中させつつ、円滑なPMIを実現することができます。M&Aを成功に導くために、ぜひM&A仲介の利用を検討してみてください。
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食品卸売業のM&Aにおける成功事例
食品卸売業界におけるM&Aの成功事例を紹介します。これから食品卸売業界におけるM&Aを検討している人は、ぜひ参考にしてください。
オイシックス・ラ・大地株式会社による株式会社アグリゲートのM&A
2024年3月に、オイシックス・ラ・大地株式会社が株式会社アグリゲートを連結子会社化した事例です。
オイシックス・ラ・大地株式会社は東京都品川区に本社を置く企業で、安心・安全な農産物やミールキットを提供する定期宅配サービス「Oisix」などを運営しています。サステナブルリテールを目指し、食のサブスクリプションサービスを通じて、家庭での食品廃棄を削減し、フードロスゼロを目指す活動を展開しています。
株式会社アグリゲートも東京都品川区に本社を置いており、旬八青果店を運営しています。この店舗では、契約生産者や全国の市場と協力し、ストーリーのある農産品を開発・販売しています。アグリゲートは、食農業界に新しいインフラを構築することをミッションに掲げています。
このM&Aの主な目的は、オイシックス・ラ・大地とアグリゲートが協力して、食品流通の効率化とフードロス削減を推進することです。また、両社の製品とサービスを通じて、食料供給の問題解決に貢献することを目指すとしています。
参考:オイシックス・ラ・大地 旬八青果店を運営するアグリゲート社を連結子会社化
株式会社ヤマタネによる株式会社ショクカイのM&A
2023年8月に、株式会社ヤマタネが株式会社ショクカイの全株式を取得し、子会社化した事例です。
株式会社ヤマタネは東京都江東区に本社を置く企業で、物流と食の流通を通じて豊かな社会作りに貢献することを目標としています。また、食の安定供給ソリューションや循環資源ソリューションの提供を目指しています。
株式会社ショクカイは東京都台東区に本社を置く企業で、冷凍食品を中心とした弁当給食向け業務用食品の卸売事業で業界トップシェアを誇ります。強固な仕入基盤と商品開発力に加え、効率的な物流で全国の取引先に安定供給を行っており、食品ロス削減にも積極的に取り組んでいます。
このM&Aの主な目的は、ヤマタネが食品セグメントで掲げている「産地の続くを支える」戦略を強化し、ショクカイの全国の販売網を活用することです。また、両社の経営資源を活かし、サプライチェーンの強化と事業領域の拡大を図ることにより、地域社会や地球環境に対して長期的な価値を創出することを目指すとしています。
参考:株式会社ショクカイの株式取得(子会社化)に関するお知らせ
ジーエフシー株式会社による株式会社インタークレストのM&A
2019年2月に、ジーエフシー株式会社が株式会社インタークレストの全株式を取得し、子会社化した事例です。
ジーエフシー株式会社は、多様な水産加工品の販売を行い、商品ラインナップの拡充と事業拡大につながるシナジーを追求しています。この企業は、新たな商品開発と事業連携を通じて企業価値の向上を図ることを目的としています。
株式会社インタークレストは、ロブスター、エビ、カニなど高品質の海産物を世界各国から輸入し販売しており、東京都港区に本社を置いています。食料品の輸出入及び販売に強みを持つ企業です。
このM&Aの主な目的は、ジーエフシー株式会社が水産加工品の商品ラインナップを豊富にすることと、株式会社インタークレストとの事業や商品開発の連携を強化することにあります。この連携により、ジーエフシー株式会社の事業拡大と市場での競争力の向上を目指すとしています。
参考:子会社の異動を伴う株式取得(子会社化)に関するお知らせ
三菱食品株式会社による株式会社ケー・シー・エスのM&A
2022年2月に、三菱食品株式会社が株式会社明治が保有する株式会社ケー・シー・エスの全株式を取得し、子会社化した事例です。
三菱食品株式会社は、食品の製造販売を行っている大手企業で、特に物流と供給チェーンの管理に強みを持っています。この企業は、物流効率の向上とサービス品質の改善を図ることを戦略の一環としています。
株式会社ケー・シー・エスは、兵庫県西宮市に本社を置き、1986年に設立されました。主に関西地区でコンビニエンスストア向けの食品物流センターを運営し、食品卸売および物流業を行っています。この企業は、地域に密着した物流サービスを提供していることが特徴です。
このM&Aの主な目的は、三菱食品株式会社がケー・シー・エスの物流知見とネットワークを活用し、顧客に対するさらなる物流サービス品質の向上と、両社のシナジー効果を発揮することにあります。これにより、効率的な物流サービスの提供を通じて、両社の市場での競争力を強化し、企業価値の向上を図ることを目指すとしています。
亀田製菓株式会社による株式会社マイセンのM&A
2019年2月に、亀田製菓株式会社が株式会社マイセンの株式を90%取得し、子会社化した事例です。
亀田製菓株式会社は、多岐にわたる食品業界で知られ、特に健康志向の食品の提供に力を入れています。同社は「中期経営計画 Changing gears 2023」において、美味しくて体に良い食品を提供することで、健康的なライフスタイルへの貢献を目指しています。
株式会社マイセンは福井県鯖江市に本社を置き、1992年に設立されました。主に農産物の生産及び加工販売を行っており、特にアレルギー特定原材料を使用しないグルテンフリー食品の製造に特化しています。これにより、健康と美味しさを両立した食品の提供が可能です。
このM&Aの主な目的は、亀田製菓株式会社がマイセンおよびその子会社である株式会社マイセンファインフードの製造ノウハウと販売ルートを活用することです。これにより、新しい健康志向の商品を開発し、お客様に高い価値を提供することで、亀田製菓株式会社の企業価値の向上を図ることを目指すとしています。
参考:株式会社マイセンの株式取得(子会社化)に関するお知らせ
株式会社やまやによるチムニー株式会社のM&A
2013年11月に、株式会社やまやがチムニー株式会社の株式に対する公開買付けを開始し、その子会社化を目的とした事例です。
株式会社やまやは、仙台市宮城野区に本社を置き、流通と販売の合理化を通じて消費生活を豊かにすることを経営理念としています。やまやは酒類を中心とした嗜好品の小売販売を行っており、独自の「ワールドリカーシステム」を構築し、効率的な商品開発や直輸入、自社通関、物流の合理化を追求しています。
チムニー株式会社は、東京都墨田区に本社を置き、居酒屋を中心とした飲食業を展開しています。チムニーは、個性的な飲食店舗の運営とフランチャイズ展開を行い、特に「心」と「食」と「飲」を通じてお客様に喜ばれるサービスを提供することを企業理念としています。
このM&Aの主な目的は、チムニー株式会社を株式会社やまやの連結子会社とすることにより、両社のシナジー効果を発揮し、コスト削減や商品の充実、拡大を図ることです。また、チムニーの独自の経営を尊重しつつ、やまやとの酒類の共同調達や新たな販売チャネルの開発を通じて、さらなる企業価値の向上を目指すとしています。
参考:チムニー株式会社株式(証券コード3178)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ
大都魚類株式会社によるマルハニチロ株式会社のM&A
2020年3月に、マルハニチロ株式会社が大都魚類株式会社の全株式を取得し、子会社化した事例です。
マルハニチロ株式会社は、水産・食品事業を中心に展開しており、世界各国から多様な水産物を調達し、加工・販売する大手企業です。企業理念として、「本物・安心・健康な『食』の提供を通じて、人々の豊かなくらしとしあわせに貢献します」と掲げています。また、持続可能な「食」の資源調達力と技術開発力を高め、グローバルに成長を続ける企業を目指しています。
大都魚類株式会社は、1947年に東京都で設立され、水産物の卸売業、水産物の加工及び販売を主な事業としています。公開買付者の子会社として、対象者グループとしての活動も行っています。
このM&Aの主な目的は、マルハニチロ株式会社が大都魚類株式会社のリソースとネットワークを活用し、両社のバリューチェーンを最大化することです。これにより、企業価値の向上と持続的成長を実現し、より競争力のある企業へと変革を進めることを目指すとしています。
参考:大都魚類株式会社株式(証券コード 8044)に対する 公開買付けの開始に関するお知らせ
株式会社トーホーによる株式会社エフ・エム・アイのM&A
2020年5月に、株式会社トーホーが株式会社エフ・エム・アイ(FMI)の株式を追加取得し、完全子会社化した事例です。
株式会社トーホーは、外食産業向けに業務用食品卸売事業及び同現金卸売事業を営んでいます。この企業は、業務用食品の販売に加え、業務支援システム、品質管理、店舗内装設計・施工などの機能も提供しており、「外食ビジネスをトータルにサポートする」というコンセプトのもと、事業を展開しています。
株式会社エフ・エム・アイは、東京都港区に本社を置く企業で、業務用調理機器・コーヒーマシン・製菓機器等の輸入・製造・販売を行っています。特に食品関連の機器を取り扱っている点が特徴です。
このM&Aの主な目的は、株式会社トーホーが株式会社エフ・エム・アイのリソースを完全に統合し、グループ経営体制を一層強化することにあります。これにより、両社の機能を組み合わせることで、外食産業向けのサービス提供能力を高め、事業の拡大を目指すとしています。
参考:連結子会社株式の追加取得による完全子会社化に関するお知らせ
まとめ
食品卸売業界では、M&Aを通じた事業拡大や企業価値の向上が活発化しています。M&Aを成功させるためには、事業デューデリジェンスの実施や適切な企業価値評価、PMIの確立などが重要なポイントとなります。
また、M&A戦略の立案や相場価格の理解も欠かせません。M&Aを戦略的に活用することで、食品卸売業者は事業の発展や企業価値の向上を実現することができます。一方で、M&Aにはリスクも伴うため、注意点にも十分に留意する必要があります。
M&Aは企業の成長戦略として非常に有効な手段である一方、万全を期して臨む必要のある戦略です。ぜひ今回の記事を参考に食品卸売におけるM&Aを検討してみてください。