「ベトナムオフショア開発会社とM&Aを行うべきか迷っている」
「ベトナムオフショア開発業界のM&Aの現状がとても気になる」
この記事をご覧の方々の中には、上記のような悩みや関心を持つ人が多いのではないでしょうか。
ただし、「ベトナムオフショア開発会社 M&A」等とパソコンやスマートフォンで検索しても、はたして信頼して良いのか不安になる記事や、専門用語を多く用いているわかりにくい専門家の記事が多いのも事実です。
ベトナムオフショア開発業界のM&Aはどうなっているのか、気軽に知りたいものです。
そこで、今回はM&Aの専門企業である「M&A HACK」が、ベトナムオフショア開発業界のM&Aをわかりやすく簡潔に解説します。
ベトナムオフショア開発業界におけるM&Aの売却相場や成功ポイント、そして成功事例についても詳しく解説するので、ベトナムオフショア開発業界のM&Aに興味のある人は、ぜひ参考にしてください。
目次
ベトナムオフショア開発会社とは
ベトナムオフショア開発会社とは何か、オフショア開発で注目されるベトナムの特徴等について解説しましょう。
ベトナムオフショア開発会社とは
オフショア開発とは、企業が自国以外の国でソフトウェア開発・ITサービスを行う方法です。
日本国内ではITエンジニア不足を背景として、コストがあまりかからず、高度な技術を有する国々でIソフトウェア等の開発が実施されています。かつてはインド・中国等が代表的な開発先だったものの、現在はベトナムやインドネシア等の東南アジア諸国が注目を集めています。
特に次の2点に優れたベトナムは、オフショア開発先として人気です。
- 開発リソースの確保がし易い:ベトナムではIoT、クラウド、ブロックチェーン、そしてAI等の先端テクノロジーを活用した開発実績が増えており、技術力の面での不安はない。
- ITエンジニアの人件費が安い:低賃金ながら高度な技術を持つITエンジニアが確保しやすい。ベトナム政府はIT事業に力を入れており、優秀なITエンジニアを数多く育成している。
それ以外にも、日本企業がベトナムをオフショア開発先に選ぶメリットはいろいろとあります。
日本との時差はわずかでやりとりがしやすい
日本とベトナムとの時差がわずかに2時間である点はメリットと言えます。
ベトナムが8時~17時の勤務時間帯であるなら、日本では10時~19時くらいなので日本の営業時間とほぼ同じです。オンラインによる会議やチャットを利用し、リアルタイムでやり取りができます。
また、ベトナムにはサマータイム(夏場の期間に、時計の針を1時間進める制度)がないので、通常の勤務時間帯に話し合いを持ちたいとき、現地の事業所が閉まっているというケースもありません。
その他、ベトナムは日本に比べて祝日が11日と少ないので(日本16日)、開発日数が多く取れる点もメリットです。
ベトナムでは日本語を話せる人材が多い
ベトナムには日本語に堪能な人材が多い点も魅力です。
日本企業からすれば、日本語でコミュニケーションが取れるのなら、日本語で開発依頼や調整をした方が、やりとりをスムーズに行えます。
ベトナムでは大学・日本語学校に通い、日本語を学ぶ学生が多く、仕事の際に役立つ日本語試験「日本語能力試験」の受験者もたくさんいます。
日本語能力試験に受験者は下表の通りです(国際交流基金・日本国際教育支援協会「日本語能力試験 結果の概要 2023年7月」をもとに作成)。
検定受験者数/国 | ベトナム | インドネシア | タイ |
日本語検定1級 | 3,386名 | 293名 | 962名 |
日本語検定2級 | 7,540名 | 911名 | 1,731名 |
その他 | 15,319名 | 12,143名 | 9,775名 |
全体 | 26,245名 | 13,347名 | 12,468名 |
特に日本企業とのビジネスで役立つ日本語検定1級・2級の受験者は、他の東南アジア諸国のインドネシアやタイと比較して非常に多く、ベトナムは日本語の習得に熱心な国と言えます。
ベトナムオフショア開発業界の市場動向と市場規模
ベトナムオフショア開発業界の現状や市場規模はどうなっているのか、ベトナムの政情、そして業界内の課題を解説しましょう。
ベトナムオフショア開発の現状
VnEconomy「Là “tam giác vàng” khởi nghiệp tại ASEAN, vốn đầu tư vào Việt Nam năm 2023 vẫn sụt giảm rõ rệt」より
ここ数年のベトナムにおけるスタートアップ企業への投資額・投資件数は、増加したり減少したりと変動を繰り返しています。常に投資額・投資件数が増加傾向にあるわけではないです。
理由としてはベトナムのITエンジニアの中に、付加価値の高い分野を担当できる人材の増加が考えられます。
IT事業に関する戦略相談・技術向上のサポートを行うコンサルティングや、与件整理・要件定義等のプロジェクトマネージャー、クラウド関連(例:AWS、Azure、GCP等)の専門資格を保有している人材等が増え、給与水準が高くなった可能性があります。
コストは高くなりつつあるものの、優秀なITエンジニアが揃うベトナムを、オフショア開発先に選定するメリットは依然大きいと言えるでしょう。
カントリーリスクが低く政情は安定している
ベトナムは社会主義国であるものの、カントリーリスクが低い国として日本企業から評価されています。
中国のように外資企業・外国人への締め付け(例:反スパイ法で日本のビジネスマンが逮捕される等)や、過剰ともいえるネットの規制(例:FacebookやTwitter、LINEの使用規制等)は行われていません。
また、日本や日本人に憧れや親しみを感じるベトナム国民が多く、「反日」を掲げ日本人・日系企業等に対し威圧的な態度や、破壊活動を行うなケースはほとんどないと言われています。
国内は、ベトナム共産党による一党独裁体制のため政策が継続し、内戦・クーデタ等の危険性も低く政情は安定している状態です。
ベトナムオフショア開発業界が持つ課題
当初は人件費を抑えるために、ベトナムをオフショア開発先として選んだものの、より付加価値が高い分野も担当できるITエンジニアは増加しています。
そのため、ベトナムでも人件費は徐々に高くなっていくことでしょう。今後は、オフショア開発先としてベトナムの企業・人材を活用しつつ、事業をどのように安定させていくのかが課題と言えます。
お互いがウインウインの関係となるよう、ベトナム企業に対する今後のアプローチ方法を、日本企業は柔軟に検討する必要があるでしょう。
ベトナムオフショア開発業界の動向と今後
日本のITエンジニアの不足により、ベトナムオフショア開発会社の需要が増しています。今後、ベトナムオフショア開発会社はどのように活用していくべきかを解説しましょう。
特にITサービスの分野で今後も収益の拡大が予想される
Statista.com「Software as a Service – Vietnam」より
ベトナムにおけるソフトウェア・サービス市場の収益は、2024年に1億9,880万ドルとなり、2024年以降の年間成長率は平均11.28%に達し、2028年は3億490万ドルに成長すると予想されています。
日本企業がベトナムでソフトウェア開発・ITサービスを進めていくなら、ハイスキルのITエンジニアの有効活用はもちろん、人件費が上昇するリスク等に対応できるよう工夫も必要です。
AIの活用による生産性を高める開発が加速する可能性
今後ベトナムのオフショア開発において、生成AIの活用は無視できない大きな影響を与えていくと予想されます。
生成AIはいまだ不完全・不正確さの残る部分が多いものの、より高い生産性を求める動きが加速していくことでしょう。例えばGitHub Copilot、AmazonCodeWhisperer等のAIによるコーディング・補助で、プログラミングの負担軽減や作業スピードの改善が見込めます。
ベトナムのオフショア開発では、新たな技術の導入を現地のITオフショア開発企業に求め、自社の望む開発体制へスムーズに移行できるかが課題と言えます。
開発体制強化のためM&Aを検討しよう
ベトナムのオフショア開発で日本企業が有利となるためには、現地のITオフショア開発会社とのM&Aを検討しましょう。
現地の企業を自社のグループ傘下に置けば、オフショアによる開発体制を自社へ最適化させられます。また、M&Aにより現地の優秀なITエンジニアを多く獲得できれば、激しいソフトウェア開発・ITサービス競争を勝ち抜けることでしょう。
もちろん、M&A交渉を行う際は、売却側であるベトナムオフショア開発会社からの希望や条件もよく聴いたうえで、協議を進めていく必要があります。
ベトナムオフショア開発業界のM&Aの動向
世界レベルでソフトウェア開発競争が激しくなる中、ベトナムオフショア開発会社の需要は更に高まると予測されます。
自社のソフトウェア開発・ITサービス業の安定・強化を図りたいなら、現地のITオフショア開発会社とのM&Aが有効な方法となるでしょう。
こちらではベトナムオフショア開発業界のM&Aの特徴と、主なM&Aの手法について解説します。
ベトナムオフショア開発業界のM&Aの特徴
ベトナムオフショア開発会社とのM&Aの場合、一般的に日本企業が現地のITオフショア開発会社を買収するケースの他、既に他社の子会社となっている現地の開発会社とM&Aを行うケースもあります。
ベトナムオフショア開発業界のM&Aの主なパターンは次の通りです。
- これまでオフショア開発の取引をしていた現地企業を、自社の事業経営の安定・強化のため買収する
- ベトナムに未進出の日本企業が他企業と交渉し、株式譲渡等により現地の子会社を譲ってもらう 等
M&A交渉の際は、現地で日本企業が培ってきたパイプを活かし、買収相手を選定しても良いでしょう。その他に、M&A専門の仲介会社等のマッチングサイトで交渉相手の検索ができます。
M&Aの目的とは?
買収側は、自社のソフトウェア開発・ITサービス業の他、日本国内で不足しているITエンジニアを獲得するため、M&A交渉を開始するケースが多いです。
ベトナムオフショア開発会社とのM&Aで、買収側は次のような利益を得られます。
- 現地の開発会社を傘下に収めれば、自社のニーズに合わせた開発体制づくりができる
- 現地のハイスキルのITエンジニア達をいっきに獲得可能
買収側はM&Aに成功しても、現地のITエンジニアの離職を避けるため、能力に見合った報酬・待遇へ配慮する必要があるでしょう。
M&Aの手法
ベトナムオフショア開発業界のM&Aは、「株式譲渡」「事業譲渡」の手法がよく用いられています。こちらでは株式譲渡・事業譲渡・その他のM&A手法について説明しましょう。
株式譲渡
株式譲渡とは、売却側の株主が所有している株式、売却側の経営者が有する自社株または親会社の持つ子会社の株式を、買収側に譲渡する手法です。売却側の有していた経営権は買収側に移します。
ベトナムオフショア開発会社を買収する場合は、主に次の方法がとられます。
- 買収側の株式保有率が半数を超えるよう、株式譲渡契約を締結する
- 売却側が全株式を譲渡し、買収側の完全子会社になる
株式譲渡では、経営権が買収側に移るだけなので、売却側の企業が無くなるわけではありません。ベトナムオフショア開発会社の施設・設備・人材等が、買収後もそのまま維持される可能性は高いです。
事業譲渡
事業譲渡とは、売却側が営んできた事業の一部または全部を買収側に譲渡するM&A手法です。
事業譲渡の場合、買収側は売却側の企業(法人)にお金を支払う形となります。売却側は得られた資金で、自社の事業経営の安定化を図ったり、主力事業に資金を回したりできます。
また、外国にある日本の支店を子会社化し、その子会社に親会社が行ってきた事業を譲渡するといケースもあります。
その他
株式譲渡・事業譲渡以外で、ベトナムオフショア開発会社とのM&Aで想定される手法は下表の通りです。
M&A手法 | 内容 |
会社合併 | 複数の会社を1つの法人格としてまとめる手法、2種類の合併方法がある。
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会社分割 | 会社の一部または全ての事業を切り離し、別会社に移転する手法、2種類の合併方法がある。
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株式公開買付け | 買付期間内に一定の価格で、市場外で株主から売り付けの申込を集める手法、「TOB」とも呼ばれる。 |
株式交換 | 完全子会社になる会社の発行済株式全部を、完全親会社となる会社に取得させる手法。 |
第三者割当増資 | 売却側の会社が新たに株式を発行し、買収側の会社に引き受けてもらう手法。 |
その他、事業の譲渡やどちらかが親会社や子会社となるわけではないものの、相互の提携で関係を強化する広義のM&A手法もあります。
広義のM&A手法としては、一般的に企業2社が技術やノウハウ・資金等を出し合う「資本提携」、一般的に企業2社が互いの経営資源の提供で共同事業を行う「業務提携」、2つの提携を組み合わせた「資本業務提携」があげられます。
ベトナムオフショア開発会社がM&Aを行うメリット
ベトナムオフショア開発会社のM&Aは買収側の利益だけでなく、売却側にも大きなメリットがあります。
売却側のメリット | 買収側のメリット |
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売却側のメリット
ベトナムオフショア開発会社は、日本企業の傘下に入り事業経営が安定する、売却益を獲得できる、従業員の好待遇も期待できる点がメリットです。
日本企業の傘下に入り事業経営が安定する
株式譲渡等で、ベトナムオフショア開発会社が買収側である日本企業の傘下に入れば、買収側の豊富な資金力で、事業運営を安定化できます。
オフショア開発会社側は、得られた収益で優秀な人材の募集や、施設の設備をいっそう充実させられることでしょう。
また、M&Aの交渉次第ではオフショア開発会社側が抱えていた負債を、日本企業側に引き継いでもらう取り決めも可能です。日本企業が負債の移転に納得すれば、開発会社は負債から解放されます。
売却益を取得できる
M&Aが成立すれば、売却側は次のような大きな利益を得られます。
- 株式譲渡→ベトナムオフショア開発会社の経営者が自社株の売却で創業者利益を得る
- 事業譲渡→事業の売却でベトナムオフショア開発会社が売却益を獲得できる
株式譲渡を行う場合、売却側の経営者は得られた創業者利益で、老後の生活資金や、新たな事業を立ち上げるための資金に活用が可能です。
一方、事業譲渡をすれば、売却側の現地企業がオフショア開発以外の主力事業に資金を回せます。
従業員の好待遇が期待できる
M&Aが成功すれば、ベトナムオフショア開発会社から雇用されているITエンジニアにも有利となる可能性が高いです。
ベトナムのITエンジニアの報酬は、日本のITエンジニアよりもまだまだ低い状態ですが、優秀な人材は多いです。日本企業はベトナムオフショア開発で、コストの低減と人材の確保に力を入れています。
日本企業とのM&A契約が成立すれば、雇用されているITエンジニアは報酬UPや、厚待遇が受けられることでしょう。
買収側のメリット
買収側は自社のニーズに合う開発体制が整う、優秀なITエンジニアの獲得や、売却側の資源を一括で確保できる点がメリットです。
自社のニーズに合う開発体制が整う
ベトナムオフショア開発会社の買収に成功すれば、自社のソフトウェア開発・ITサービス事業の強化が図れます。
ベトナムオフショア開発会社が傘下に入れば、自社のニーズに合った開発体制で業務を行わせられるので、より効率的なソフトウェア開発等が可能となります。
優秀なITエンジニアを獲得できる
ベトナムの優秀なITエンジニアをいっきに獲得できます。
日本ではITエンジニアが慢性的に不足しており、ベトナムオフショア開発会社の買収により、多数のベトナムのITエンジニアが得られるのは大きな魅力です。
ただし、現地のITエンジニアも報酬や待遇に不満があれば、大量に離職してしまう可能性があります。そのため、日本企業は買収前の報酬・待遇よりも有利な条件で、統合を図った方が良いでしょう。
売却側の資源を一括で確保
M&A成立により、ベトナムオフショア開発会社の施設・設備・ITエンジニアをまとめて確保できます。
日本企業がベトナムで支店を新たに立ち上げる場合、施設の設置場所の選定、施設の建設またはオフィスの賃貸契約、設備の購入、ITエンジニア等の人材の募集、更に様々な行政手続き等も行わなければいけません。
しかし、現在オフショア開発を行っている企業の買収に成功すれば、売却側の資源を活かして、迅速に事業を開始できます。
ベトナムオフショア開発会社とのM&Aを行う際の注意点
ベトナムオフショア開発会社とのM&Aを行う際、次の4点に注意が必要です。
- M&Aで発生が予想されるトラブルと必要なプロセス
- 契約の書面化が重要
- デューデリジェンスの必要性
- M&A交渉を円滑に進めたいなら専門家へ相談する
それぞれについてわかりやすく解説しましょう。
M&Aで発生が予想されるトラブルと必要なプロセス
M&Aは売却側・買収側ともに慎重なプロセスを経たうえで、契約を締結する必要があります。
双方が合意に達すれば、すぐにM&A契約の成立は可能です。しかし、一般的に必要とされているプロセスを経なければ、次のように深刻なトラブルが発生するおそれもあります。
- 売却側のベトナムオフショア開発会社の事業経営が順調と安心し、M&A契約を締結したものの、その後に多額の負債を抱えていた事実が発覚した
- ベトナムオフショア開発会社に多数の優秀なITエンジニアがいると聞き、M&A契約を締結したが、実は現地の経営者とのトラブルで、ITエンジニアが大量に離職していた 等
ベトナムオフショア開発会社が抱えている深刻なトラブルに気付かないまま、M&A契約を締結すると、買収側の日本企業にも大きな損失が生じてしまうかもしれません。
そのため、次のようにプロセスを進め、慎重に交渉手続きを行いましょう。
- 交渉準備:交渉前に自社のM&A方針・手法等を決定する
- 交渉開始:相手に交渉を申込、交渉の日時を決める。ベトナムオフショア開発会社に直接交渉するため現地を訪問しても良いが、オンラインでの交渉も可能。交渉前、情報漏洩の防止に努めるため秘密保持契約を締結する。交渉時には買収側である日本企業は意向表明書を提示する。
- 基本合意契約締結:交渉当事者が基本方針を固めた後、基本合意契約締結。基本合意書を作成。
- デューデリジェンス開始:日本企業がベトナムオフショア開発会社の経営状態等を調査開始、正確な評価やリスク等を把握。
- 最終契約締結:交渉当事者がM&A契約の最終的な合意に達したら最終契約締結。最終契約書を作成。
交渉開始から最終契約締結まで、一般的に1年以上かかります。
契約の書面化が重要
ベトナムオフショア開発会社と契約条件の合意や、最終的な契約を取り交わす際は、必ず契約書を作成しましょう。
M&A契約では、契約の書面化が義務付けられているわけではありません。しかし、口頭での契約締結の場合、内容を忘れてしまう可能性がある他、次のような深刻な事態が発生するおそれもあります。
- 契約を締結した相手方が、突如、経営統合の白紙を申し出てきた
- M&A契約は成立したものの、約束した期日になっても相手方が義務を履行せず、統合が進まない
深刻なリスクを未然に避けるため、M&A交渉の中で取り決めた内容は次のように書面化しておきましょう。
- 秘密保持契約書:M&A交渉開始前に締結した秘密保持契約の内容を記載した文書。秘密保持契約の目的・範囲・義務、違反した場合のペナルティ等を記載する。
- 意向表明書:買収側が作成し売却側に対しM&A交渉時、希望する契約条件や買収価格、スケジュール等を記載した書面。
- 基本合意書:M&A交渉で基本方針の合意に達したとき作成する書類。買収(売却)価格や売却側役員・従業員の待遇、デューデリジェンスの内容やスケジュール等を記載する。
- 最終契約書:交渉当事者の最終的な合意契約内容を記載した書類。買収(売却)価格、売却側役員・従業員の待遇や表明保証・補償条項等を記載する。
特に最終契約を締結し、最終契約書を取り交わすと交渉当事者は法的に拘束されます。契約に違反したら大きなペナルティが課せられたり、積み上げてきた信頼が失われたりするおそれもあるので注意しましょう。
なお、作成する書類は日本語・ベトナム語で作成しなければいけません。正確に翻訳をしないと後々トラブルに発展するおそれがあります。
契約書類の翻訳は翻訳会社に依頼する等、細心の注意を払って作成しましょう。
デューデリジェンスの必要性
買収側の日本企業がベトナムオフショア開発会社を評価するには、相手方の主張・ホームページ等で把握できる内容だけを参考にしてはいけません。
日本企業の方でもしっかりと調査しなければ、ベトナムオフショア開発側の抱えている深刻な問題がわからない可能性もあります。
経営統合した後、様々なトラブルの発生を避けるため、デューデリジェンスの実施が必要不可欠です。
デューデリジェンスとは何か、進め方について
デューデリジェンスとは、買収するベトナムオフショア開発会社の財政状況、将来の収益性、リスクの調査・分析等を行う作業です。調査で得られた結果を基に、買収価格の調整や成立後のPMIを実施します。
ただし、ベトナムオフショア開発会社に対しデューデリジェンスをいきなり行うのではなく、基本合意書に調査内容・期間等を定め、相手方の了承の下で進めていきましょう。
デューデリジェンスは一般的に次の手順となります。
- 日本企業側で担当スタッフを決定、デューデリジェンス・チームを組成。
- デューデリジェンスの対象項目・予算・調査完了までのスケジュール等を決定(※ベトナムでの現地調査も必要なので、国内でデューデリジェンスを行う場合より、余裕を持って予算やスケジュールの策定が必要)
- ベトナムオフショア開発会社の資料を入手し調査開始、現地調査も行う。
- 調査報告を経営陣に提出、経営陣は調査内容を交渉の参考にする。
調査の際には、翻訳作業や通訳も必要となる場合があります。翻訳・通訳会社にサポートを依頼しておいた方が良いでしょう。
デューデリジェンスの調査項目
ベトナムオフショア開発会社を調査する項目は主に6項目です。なお、調査の際は現地の協力のもとで進めていきます。
調査項目 | 内容 |
財務 | 決算書や総勘定元帳、予算・事業計画書、監査法人による報告書等を調査。多額の負債を抱えていないかについてもチェックする。 |
法務 | 会社組織・株式と株主に関する資料、役員等に関する資料等を調査。現地で法的な紛争の有無もチェックする。 |
事業 | 各種決算の資料、事業計画書等を調査。 |
人事 | 雇用関係や人事規定、労使関係の資料、年金関連の契約書類等を調査。 |
技術 | 保有する技術、施設、設備等を調査。 |
IT | 顧客情報管理、セキュリティシステムを調査。ITエンジニア等にヒアリングも行う。 |
デューデリジェンスの過程で、ベトナムオフショア開発会社に関する問題が発覚するケースもあります。しかし、日本企業側からみて許容範囲であればM&A交渉を継続した方が良いでしょう。
M&A交渉を円滑に進めたいなら専門家へ相談する
ベトナムオフショア開発会社とのM&A交渉は、日本そしてベトナムをまたいで実施され、日本国内での交渉よりも手間と時間がかかるかもしれません。
ベトナムオフショア開発会社とのM&A交渉に不安を感じたら、M&A専門の仲介会社等へ交渉前に相談し、サポートを依頼しましょう。
M&A未経験の日本企業が単独で交渉をしようとすると、円滑に進まない可能性はあります。
M&A専門の仲介会社に依頼すれば、次のような対応が期待できます。
- ベトナム・東南アジア等の企業とのM&Aを得意とする仲介会社もあり、現地のとの太いパイプを利用し、依頼した企業のニーズに合ったオフショア開発会社を紹介してくれる場合がある
- 仲介会社が現地の弁護士に話をつける等、依頼した企業の代わりに現地で調整し、デューデリジェンスをサポートする
また、交渉を進める際のアドバイスはもちろん、交渉時に仲介会社の担当者が同行し、契約条件の調整等のサポートも可能です。
なお、M&A専門の仲介会社に依頼する場合、「アドバイザリー契約」を締結する必要があり、報酬も発生します。報酬の支払方法は主に次の2種類です。
- 着手金・成功報酬制:依頼した際に必ず着手金を支払い、M&A交渉が成立したときのみ成功報酬を支払う。
- 完全成功報酬制:着手金は不要でM&Aに成功したときのみ成功報酬を支払う。
当社のM&A仲介サービス「M&A HACK」では、交渉の際のサポートや交渉相手の紹介を、完全成功報酬、リスクなしの報酬形態で対応しています。初回の相談は無料ですのでお気軽に下記よりご相談ください。
無料相談のご予約:https://sfs-inc.jp/ma/contact
ベトナムオフショア開発会社のM&Aを成功させるためのポイント
ベトナムオフショア開発会社とのM&Aを成功させるには、次のポイントを押さえておく必要があります。
- M&A戦略の立案
- 相場価格をよく理解しておく
- PMI(統合後プロセス)の確立
それぞれのポイントについてわかりやすく解説します。
M&A戦略の立案
買収側である日本企業は、交渉前にM&Aの戦略を十分決めておく必要があります。
M&A戦略の立案に必要なプロセスは下表の通りです。
必要なプロセス | 内容 |
M&A目的設定 | ベトナムオフショア開発の市場調査、ベトナムオフショア開発のトレンドや競合状況を分析、そのうえで事業強化・人材確保等の目的を設定。 |
M&A手法・プラン設定 | M&A目的・資源全般の状況に適したM&A手法(例:株式譲渡・事業譲渡等)の選定、プロセス、最適な統合方法の設定を行う。 |
予算・コスト算出 | 買収(売却)価格設定や統合の際のコスト(例:コンサルティング費用等)の算出を行う。 |
ただし、戦略の立案を行ってもベトナムオフショア開発会社の都合や、デューデリジェンスが難航した等、想定した通りに手続きが進むとは限りません。交渉の際は交渉当事者が納得できるように、契約内容の修正・調整を粘り強く行っていく必要があります。
なるべく円滑に交渉手続きを進めていきたいなら、M&A専門の仲介会社にサポートやアドバイスを依頼しましょう。
相場価格をよく理解しておく
M&Aの交渉前に、ベトナムオフショア開発業界の相場価格を把握する必要があります。
日本企業とベトナムオフショア開発会社の希望価格の差が大きいと、M&Aの合意は困難です。しかし、交渉当事者がそれぞれ相場価格を参考に、提示する買収(売却)価格を決めれば合意が得られる可能性は高くなります。
M&A手法によって計算方法は異なります。
- 株式譲渡:時価純資産額+営業利益×2年~5年分
- 事業譲渡:時価事業純資産額+事業利益×2年~5年分
また、ケースによっては価格調整を行い、互いに歩み寄る姿勢が必要です。
- 増額調整を図る場合:ベトナムオフショア開発会社に経営が好調、日本企業のニーズに合うITエンジニアが数多く在籍している等
- 減額調整を図る場合:ベトナムオフショア開発会社の事業経営が苦しい、デューデリジェンスで問題が発覚した等
交渉当事者双方がM&A契約の成立を目指し、慎重に価格調整を行い、話し合いを進めていきます。
PMI(統合後プロセス)の確立
経営統合を進めるには、買収側である日本企業からの一方的な指示ではなく、ベトナムオフショア開発会社の希望も反映しつつ進めていくのがポイントです。
M&A契約が成立すれば、契約当事者間で経営統合を進めていきます。
経営統合の過程でベトナムオフショア開発会社側と大きなトラブルが発生すれば、統合が失敗してしまうかもしれません。そのため、PMIの準備を整え統合に向けた作業が必要です。
「PMI」とは、M&A成立後の契約当事者の経営や事業、業務等の統合施策を実施するプロセスです。ベトナムオフショア開発会社との統合の場合は、経営方針・戦略の統合や、業務システムを運営・推進する手順の統合等を進めます。
日本企業のニーズに合わせた開発体制整備へ移行しつつ、ベトナムオフショア開発会社側に意見があれば可能な限り聴き入れて、柔軟に調整していきましょう。
また、PMIの立案はM&A戦略の立案とほぼ同時に行った方が良いです。
なぜなら、M&Aは交渉開始~最終契約締結まで1年以上かかる可能性があるので、M&A成立後にPMIの立案をはじめると、統合が予想外に長期化するケースも想定されるからです。
ベトナムオフショア開発会社のM&Aにおける成功事例
ベトナムオフショア開発会社のM&Aにおける成功事例を紹介しましょう。これからベトナムオフショア開発会社のM&Aを検討している人は、ぜひ参考にしてください。
エクストリームによるエクスラボとのM&A
売却側である「エクスラボ」は東京都豊島区を拠点に、ベトナムのオフショア開発拠点を活用したITサービス企業です。買収側であるエクストリームとオルトプラスがと合弁契約を締結し設立しました。
一方、買収側は「エクストリーム」で東京都豊島区に本社を構え、デジタル人材事業・受託開発事業を手がける企業です。
エクストリームは次の理由でエクスラボの完全子会社化を目指します。
- ベトナム・オフショア事業の更なる強化を図り、国内顧客を中心とする開発受託、自社が行うエンジニア常駐型の人材ビジネスの拡充を、積極的かつ速やかに推進したい
- 現地には若く優秀なソフトウェア開発技術者が豊富で、かつ平均的な人件費は低水準なので、買収により更なる事業の強化、競争力の向上が図れる
そこでエクストリームは、海外におけるソフトウェア開発の中核として業容拡大を目指すべく、エクスラボとのM&Aを開始します。
2020年4月23日にエクストリームはエクスラボの全株式の取得し、完全子会社化に成功しました。
アイキューブドシステムズによる10KN JOINT STOCK COMPANYとのM&A
売却側である「10KN JOINT STOCK COMPANY」はベトナム・ハノイ市を拠点とし、日本企業向けのシステム、WEB、アプリケーション等の受託開発案件を手掛け企業です。
一方、買収側は「アイキューブドシステムズ」で福岡県福岡市・東京都港区に本社を構え、モバイルデバイス事業等を展開する企業です。
アイキューブドシステムズは10KN JOINT STOCK COMPANYの次の点に注目します。
- 10KN JOINT STOCK COMPANYは、豊富な経験、高い開発スキルを有する若きエンジニアも数多く揃えている優良企業
- M&Aが成功すれば、システムエンジニアの供給不足を補い、十分な開発要員の確保が可能となる
そこでアイキューブドシステムズは、10KN JOINT STOCK COMPANYとM&A交渉を開始します。
2023年10月には株式譲渡契約を締結し、10KN JOINT STOCK COMPANYとのM&Aに成功しました。
参考:10KN JOINT STOCK COMPANY の株式取得(子会社化)に関するお知らせ
アライドアーキテクツによるデリバリーベトナムとのM&A
売却側である「デリバリーベトナム」はベトナム・ホーチミン市を拠点に、デリバリーコンサルティング(日本企業)の子会社としてシステム開発事業を手がける企業です。
一方、買収側は「アライドアーキテクツ」で東京都渋谷区に本社を構え、マーケティングDX支援事業等を展開する企業です。
アライドアーキテクツはデリバリーベトナムの次の点に注目します。
- デリバリーベトナムは、長年開発案件の受託開発を行ってきた豊富な実績、そして知見を有する企業
- M&Aに成功すれば、すでに自社の開発拠点となっているハノイの他、ホーチミン市においても海外の開発拠点を持てるので、グループ全体でエンジニア人材の採用力向上が見込める
そこでアライドアーキテクツは、デリバリーコンサルティング側とのM&A交渉を開始します。
2018年7月26日には株式譲渡契約を締結し、デリバリーベトナムの子会社化に成功しました。
参考:ベトナムの開発会社の出資持分取得(子会社化)に関するお知らせ
Evolable Asia Co., Ltd.によるKAYAC HANOI CO., LTDとのM&A
売却側である「KAYAC HANOI CO., LTD」はベトナム・ハノイを拠点に、カヤック(日本企業)の子会社としてオフショア事業・自社ゲーム事業を手がける企業です。
一方、買収側は「Evolable Asia Co., Ltd.」でベトナム・ホーチミン市に本社を構え、エボラブルアジア(日本企業)の連結子会社として、ITオフショア開発事業等を行う企業です。
エボラブルアジア側はKAYAC HANOI CO., LTDの次の点に注目します。
- 自社もハノイに拠点としてオフシェア事業を活用しているので親和性が高い
- M&Aに成功すればITオフショア開発事業の強化、ゲーム開発人員のパイプラインの強化が図れる
そこでエボラブルアジア側は、更なるソフトウェア開発の強化を図るため、KAYAC HANOI CO., LTDと交渉を開始します。
2018年9月1日には、KAYAC HANOI CO., LTDの全株式がEvolable Asia Co., Ltd.に譲渡された旨を公表し、完全子会社化に成功しました。
参考:エボラブルアジアにカヤック ハノイの持分譲渡のお知らせ
Evolable Asia Co., Ltd.によるPunchとのM&A
売却側である「Punch」はベトナム・ハノイを拠点に、DeNAの子会社としてモバイル向けゲームの運用を手がける企業です。
一方、買収側は「Evolable Asia Co., Ltd.」でベトナム・ホーチミン市に本社を構え、エボラブルアジア(日本企業)の連結子会社として、ITオフショア開発事業等を行う企業です。
エボラブルアジア側はPunchの次の点に注目します。
- Punch社はゲーム開発・運用実績・ノウハウが豊富な現地の優良企業
- M&Aに成功すれば、ITオフショア開発事業におけるゲーム開発基盤の強化が図れる
そこでエボラブルアジア側は、DeNA側とM&A交渉を開始します。
2017年6月21日には、PunchがEvolable Asia Co., Ltd.の子会社となった旨を公表し、M&Aの成功が報告されました。
Sharing InnovationsによるMulodo Vietnam Co., Ltd.とのM&A
売却側である「Mulodo Vietnam Co., Ltd.」はベトナム・ホーチミン市を拠点に、ソフトウェア開発業を手がける企業です。
一方、買収側は「Sharing Innovations」で東京都渋谷区に本社を構え、Orchetsra Holdingsの子会社として、クラウドインテグレーション・システムソリューションを提供する企業です。
Orchetsra HoldingsグループはMulodo Vietnam Co., Ltd.の次の点に注目します。
- Mulodo Vietnam Co., Ltd.は、日本国内企業のWEB、システム、アプリケーション等の豊富な開発実績を有する企業である
- M&Aに成功すれば、日本のみであった自社の開発拠点に、新たにベトナムの開発拠点を加えられ、事業上のリスクの低減が見込める
そこでOrchetsra Holdingsグループは、ベトナムでの事業エリアの拡大を図るため、Mulodo Vietnam Co., Ltd.と交渉を開始します。
2020年5月26日には、Mulodo Vietnam Co., Ltd.がSharing Innovationsの子会社となった旨を公表し、M&Aの成功が報告されました。
参考:Mulodo Vietnam Co., Ltd.の持分取得(子会社化)に関するお知らせ
まとめ
今回は、ベトナムオフショア開発業界のM&A・事業承継の全知識という形で、ベトナムオフショア開発会社のM&Aにおける売却相場・事例・成功ポイントを解説しました。
ベトナムオフショア開発会社の需要は今後も拡大していくと予測されています。
一方で、ベトナムのITエンジニアの報酬額が上昇したり、より日本企業のニーズに合わせた開発体制の整備が必要となったりするかもしれません。
ベトナムオフショア開発会社を今後とも活用していきたいならば、M&Aで自社の開発体制の強化を図った方が良いでしょう。
ぜひ今回の記事を参考に、ベトナムオフショア開発会社のM&Aを検討してみてください。