「M&Aは難しそうだ・考えたことがない」という経営者の皆様、一度、この記事をご覧ください。
道路、橋梁、ダム、港湾施設、上下水道などの社会インフラ整備を行う土木・施工管理会社
公共事業では欠かすことのできない業界であると同時に、下請は中小零細企業が多く、後継者不足も課題として浮上しています。
さらに、
「労働時間短縮は容易ではない」
「規制で工期が間に合わない」
「最も大切な職人がいない」
このような建設業の2024年問題や職人の高齢化など、この業界が直面している課題。
この記事をご覧になっている方は、このような問題にお悩みではないでしょうか。
近年、経済や社会などの周辺環境の変化に伴い、これらの企業も従来型の戦略ではなく、日々、新しい戦略が、他の業界と同様に求められています。
これらの課題に対応するため、生き残りをかけて、土木・施工管理会社の多くの企業がM&Aを積極的に活用し、事業規模の拡大や効率化、事業承継など、従来型の経営からの脱却を図っています。
M&Aや事業承継は、単に企業の規模を拡大するだけでなく、新たな技術や市場へのアクセス、さらには経営資源の最適化を実現する手段です。
また、後継者不足や技術革新のスピードに追いつけない中小企業にとって、事業承継は存続のための重要な選択肢の一つなのです。
しかし、M&Aや事業承継は専門的かつ複雑でリスクも伴うため、成功には慎重な準備と戦略が必要です。
そこで、M&Aの専門企業である「M&A HACK」が、土木・施工管理会社におけるM&Aと事業承継の全体像を三つのパートに分けて、以下の構成で解説していきます。
項 目 | 内 容 |
第一部: 中小企業のM&Aについて |
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第二部: 土木・施工管理会社のM&A戦略 |
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第三部: 中小企業のM&Aについて欠かせないこと・まとめ |
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このような流れで、土木・施工管理会社のM&Aを明らかにし、成功のためのポイントを徹底的に解説します。
また、売却相場の理解から実際の成功事例までを幅広くカバーしているため、今後、直面するであろう課題への理解を深め、実際の取り組みに役立つ情報を提供していきます。
土木・施工管理会社におけるM&Aや事業承継に興味を持つ企業経営者や関係者の皆様が、この記事を通じて、M&Aに対してさらに良い意思決定を行うきっかけとなることを期待しています。(この部分のすぐ下に「目次」がありますので、お好きなところからお読みいただけます。)
目次
第一部:中小企業のM&Aについて
中小企業にとって、M&Aのメリットは何か
まず、下の表のように中小企業のM&Aにおいてのメリットを売り手側・買い手側の両面から、くわしく説明していきます。
売り手側のメリット | 買い手側のメリット |
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売り手・売却側のメリット:廃業よりもM&Aを選ぶべき
M&Aにおける売り手・売却側のメリットについて、それぞれ説明していきます。
後継者不在が解消できる
中小企業にとって後継者不足・不在による休廃業は大きな問題です。しかし、M&Aを実施することで休廃業を回避できる可能性があります。
また、会社を譲渡することで譲受企業から経営陣を迎え、これまで通り会社を存続できる可能性も高くなります。
多くの場合、大手企業の経営者クラスに位置する優秀な人物が売り手側の経営者となるため、譲渡した企業の事業規模はこれまでより拡大される場合もあります。
後継者不足に悩んでいる企業にとって、会社の譲渡・M&Aを行うことは廃業を避けるためにも大きな手段のひとつなのです。
従業員の雇用を継続できる
売り手側の企業が廃業目前であった場合、M&Aを実行することで既存従業員の雇用を継続して守ることができます。
実際にM&Aを行った場合、ほとんどのケースで買い手企業によって従業員の雇用が継続されています。
労働条件においても引き継がれるケースがほとんどなので、既存従業員が被る影響は、廃業と比較してかなり大きく抑えることができます。
給与待遇や労働条件が同じであれば、M&A後の離職率も低い水準のままとなります。
また、M&A後に給与・労働時間・年間休日・福利厚生などの改善が行われるケースも多くみられます。
このように、M&A後にさらなる好条件で雇用されるケースもあるため、既存従業員にとっては大きなメリットとなります。
資金調達・オーナーのEXIT
当然ながらM&Aによって売却された企業は、買収側の企業から金銭的収入を得ることができます。
この点は、売り手・売却側のオーナーにとっては大きなメリットです。
M&Aによって獲得した現金の使い道としては、以下が考えられます。
- 残っている借入金の返済
- オーナー自身の引退後の生活資金
- 新規事業における資金源
もし、M&Aをせずに廃業となれば、有形資産を処分する費用や解雇する従業員への補償など、多くのコストがかかります。
このように、オーナーにとっては廃業を選ぶよりM&Aを選ぶことの方が、はるかにメリットは大きいでしょう。
事業の選択と集中
景気悪化が続いてきた日本では、生き残りのために複数以上の事業を多角展開する企業も珍しくありません。
しかし、事業の多角化は一歩間違えれば、赤字を生み出し、不安定な経営の原因になる可能性があります。
M&Aのスキームの一つである「事業譲渡」では、不要となった事業やその関連資産だけを選別して売却することが可能です。
実際に、事業譲渡で、特定の事業だけを他社に売却する企業は数多くあります。
このように、M&Aの事業譲渡によって事業を売却し、得意分野に資金や人員を集中することで、経営状態の好転にもつながる事例も多くあります。
借入における個人保証の解除
借入での資金調達では、当然ながら返済義務が生じ、返済ができない場合は個人資産を失うことになります。これは、経営者にとって大きな精神的負担となります。
特に中小企業の場合、経営資金の融資調達はオーナー経営者の個人保証や個人資産を担保に入れることがほとんどのはずです。
倒産や廃業に陥った場合、オーナー個人の損害は甚大なものとなります。
M&Aで会社を売却することで、会社は廃業や倒産を免れるだけでなく、債権債務も買い手に引き継がれることが多いため、個人保証や担保差し入れを解消することができます。
このようにM&Aを行うことは、オーナーが持っていた大きな悩みの種をすべて解消することに繋がるのです。
買い手・買収側のメリット:事業拡大はM&Aで
M&Aにおける買い手・買収側のメリットも数多くあります。
事業拡大のチャンス
M&Aにおいて買い手・買収側が得られる最大のメリットは、事業拡大のチャンスを得られることです。
M&Aによって、買収側の企業は規模やシェアの拡大を達成することができます。
これは、M&Aにおいては、売り手企業が持つ設備や不動産のような有形資産に加え、顧客・取引先・各種情報などの無形資産を手に入れることも可能だからです。
特に、中小企業双方のM&Aは、現在の市場シェアを拡大させ、ライバルに圧倒的な差を付けることにも繋がります。
新規事業参入へのハードル削減
買い手・買収側企業にとって、新規事業や新規分野への参入を迅速に行うための有効な手段の一つとしてM&Aがあります。M&Aによって、自社の経営資源だけでは難しい新規分野への進出がスピーディーに実現できるようになります。
このように、内部の資源だけで、ゼロから新規事業を構築するよりも、買収によって事業そのものを買うことのほうが、はるかに早期の進出が可能となります。
さらに、M&Aによって新しい事業を買収し、一つだけの事業展開で生じるリスクを回避することも可能になります。
このように、売却先の企業が持つノウハウや市場シェアをそのまま引き継ぐことができるM&Aは、ここ数年で一気に増加しています。
M&Aを行うことで、新規事業への投資額は減少し、参入コストと時間が削減されることで、結果として、早期の段階で利益を確保できるといえます。
優秀な人材の確保
少子高齢化が問題となっている現代では、優秀な人材の確保がどの業界においても必須の課題です。
M&Aを行うことによって、売り手・売却側企業に所属する従業員をそのまま雇用すれば、優秀な人材をそのまま自社に引き入れることができます。
業界におけるノウハウも既に所有しているため、研修を行う手間も省くことが可能なのです。
このように中小企業のM&Aは、売り手も買い手もそれぞれ大きなメリットを得ることができます。
この記事をご覧の多くの方が中小企業のオーナーです。そこで、ここからは、実際の統計数値を見ながら、中小企業のM&Aの現状を説明していきます。
数字で見る中小企業のM&Aの現状
2024年現在の最新データである「2023年版「中小企業白書」全文 | 中小企業」(以下、白書という)の中で、中小企業の事業承継やM&Aに関する部分について、M&Aの専門企業である「M&A HACK」の視点から独自に説明していきます。
事業継承が進み、後継者不足は減少傾向に
第2-2-3図(白書)のように、後継者不在率は、2017年の66.5%をピークに減少傾向にあり、2022年は57.2%と、2011年以降初めて60%を下回っています。
これは、後継者不在の課題が改善されつつあることを示しています。
なぜ、後継者不在率は減少傾向にあるのか。
その答えは、2021年以降の50歳代と60歳代における後継者不在率の低下にあります。
第2-2-4図(白書)を見ると、50代(緑色)と60代(水色)の後継者不在率が2021年から低下していることがわかります。
これは、「休廃業する50代から60代の経営者が減少している」ことを意味します。
その一因として、白書では、以下のように述べています(太字は「M&A HACK」による)。
今回の調査だけでは一概にいえないものの、50 歳代・60 歳代における後継者不在率が低下した要因の一つとして、同年代において事業承継が進み、後継者不在による休廃業の動きを鈍らせた可能性が考えられる。
このように、年齢的に次の10年を考える50代から60代の経営者層が、実際に事業継承を行っているために後継者不在率は低下傾向にあるわけです。
事業承継の類型と現状
このように、増加傾向にある事業承継ですが、ここでは、その類型と現状を説明します。
まず、以下の表(「中小企業白書 2023 Ⅱ-127 第2-2-10図 事業承継の類型」を一部変更を加えて引用)のように、白書が示している事業承継の類型は3つあります。
類 型 | 概 要 |
親族内承継 |
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従業員承継 |
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社外への引継ぎ(M&A) |
|
この3つの類型の中で実際にどれが多いのかについての調査結果が以下の第2-2-11図(白書)です。
このグラフを見ると、従来型の親族内承継(青色)は減少傾向にあり、2022年は従業員承継(オレンジ色)と同率となっています。また、いわゆるM&A(赤色)は、2020年から増加傾向にあります。
このように、親族内継承は減少し、従業員承継とM&Aが昨今、増加傾向にあるのです。
事業承継後は、売上が増加する
上述したように、事業承継そのものが増加傾向にあり、その中でも従業員承継とM&Aが主役となっています。
そこで、実際に事業承継後の企業成長について分析したものが、第2-2-12図(白書)です。
これは、売上高成長率を同業他社との差で示したものです。
事業承継後、2年間は同業他社と比較してマイナス成長ですが、5年目以降は事業承継実施企業の成長率が、同業他社よりも上回っています。
このように事業承継は企業の新たな成長機会であることが明確に数値として示されているのです。
M&Aは活発化:2022年は過去最多
事業承継の3つの類型の中で、社外への引継ぎ(いわゆるM&A)の件数推移が、第2-2-42図(白書)となります。
2022年は、過去最多の4,304件となっており、非公表のデータも考慮すれば、近年のM&Aは極めて活発化しているといえます。
ここまでのまとめ
ここまで説明してきた中小企業のM&Aの現状をまとめたものが以下となります。
- 50代から60代の経営者は、企業の持続的成長のために積極的に事業承継を実施している。
- その事業承継のパターンとして従業員承継とM&Aが増加している。
- M&A実施企業は、同業者よりも成長率が高い傾向にある。
このように、中小企業にとってM&Aは、企業の持続的な成長にとって欠かせない戦略になっていることが数値としても明確に現れているのです。
参考:買い手側から見た中小企業M&A
以下は、参考資料として「買い手側の中小企業M&Aに対するニーズや目的」を白書から紹介します。
第2-2-44図(白書)から、以下のような買い手側の特徴がみられます。
- 買収先は、買い手側よりも小規模の会社となっている
- 異業種ではなく、同業種の買取りを望んでいる
- 仕入先や協力会社が対象となっている
- 同一の都道府県か近隣の企業が対象となっている
- 水平統合型M&Aを目的としたものが多い
次に、買い手側企業の買収目的の分析結果が、第2-2-45図(白書)です。
この結果から、M&Aを実施する主な目的は、「売上やシェア拡大」、「新規事業・異業種参入」のほか、「優秀な人材の確保」や「専門技術やノウハウの獲得」などとなっています。
ここまで、中小企業のM&Aの現状について「2023年版「中小企業白書」全文 | 中小企業庁」から実際の数字で確認してきました。
次からは、中小企業のM&Aで用いられる主な手法について説明していきます。
中小企業のM&Aで用いられる手法とは
中小企業のM&Aで用いられる主な手法は、以下の通りです。
株式譲渡
概要:
- 株式譲渡とは、売り手・売却側の株主が保有している発行済株式を買い手・買収側に譲渡する手法。
- 売り手側の企業(A社)は買い手側(B社)の子会社となる。(以下の画像は、2020年3月31日付経済産業省プレスリリース「「中小M&Aガイドライン」を策定しました (METI/経済産業省)」に記載の「中小M&Aガイドライン参考資料」から抜粋。現在は、国立国会図書館のアーカイブ資料)
この図では、株式譲渡の流れを以下のように示しています。
- 買い手側(B社)の株主である株主Yは、売り手側(A社)の株主XからA社の全株式を買い取る。
- A社は、譲渡後にはB社の子会社になっており、株主Yだけが全株式を保有していることになる。
メリット:
- 会社の資産・負債・従業員や社外の第三者との契約、許認可等は原則存続する。
- 手続きが他の手法に比べて容易である。
- 買い手側企業は売り手側企業を子会社として取得するため、事業の拡大や多角化を図ることができる。
注意点:
- 未払残業代や貸借対照表上の数字には表れない簿外債務や損害賠償債務等をそのまま引き継ぐ可能性がある。
事業譲渡
概要:
- 事業譲渡とは、売り手・売却側が持つ事業の全部または一部を買い手・買収側に譲渡する手法である。
- 買い手側は、売り手側の事業を引き継ぎ、運営を継続する。
この図では、売り手側(A社)の「乙事業」を、買い手側(B社)が買い取ることを示しています。
メリット:
- 買い手側企業は、新たな事業領域への進出や、事業拡大が可能となる。
- 買い手側企業は、特定の事業や財産だけを買い取るため、簿外債務・偶発債務のリスクが減る。
- 売り手側企業は、事業の一部を売却することで資金調達や経営資源の集中化を図ることができる。
注意点:
- 事業譲渡の場合、資産・負債・契約及び許認可等を個別に移転させる必要があるため、債権者や従業員などの利害関係者から個別の同意を得る必要がある。
- 許認可は承継されないことが多く、買い手側で許認可を新規に取得する必要がある。
- 事業譲渡は、株式譲渡に比べて手続が煩雑になる。
これらの手法のほかに、「会社分割」・「合併」・「業務提携・資本提携」などがありますが、中小企業のM&Aでは、株式譲渡と事業譲渡の二つが多く採用されています。
ここまで説明してきたように、中小企業のM&Aは、増加傾向にあると共に、株式譲渡や事業譲渡は、中小企業のM&Aにおいて重要な手法の一つです。
しかし、中小企業のM&Aは、専門的な知識が必要な工程があります。
最後に、中小企業のM&Aの工程・流れについて説明していきます。
中小企業のM&Aの各工程・流れ
中小企業のM&Aの全体の工程・流れが下図です。
このフロー図は、中小企業庁が作成した中小M&Aガイドライン(第2版)に掲載され、以下のように説明されています(太字・赤字は「M&A HACK」による)。
一般的に、中小M&Aは、以下のフロー図の「中小企業の動き」に記載の流れに沿って進むことが多い。また、同図の各工程においては、「主な支援機関」に記載の支援機関が中小M&Aの支援を行うことが多い(実際には、個別の事例において、これら以外の支援機関が支援を行うケースもある。)。
ここで指摘されているように、中小企業のM&Aの多くはこの流れで行われると同時に、各工程それぞれにM&A専門業者が助言・支援を行っているのが現状です。
では、それぞれの工程の概要を「中小M&Aガイドライン(第2版)P30-46」に準じて説明します(注:下の表の見出しは、上記のフロー図記載の見出しに準ずる。例.「(1)意思決定」)。
以下の表で、大まかな中小企業のM&Aの各ステップが理解いただけるはずです。
工程・流れ | 内容 |
(1)意思決定 |
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(2)ー1 仲介者・FA(※)を選定する場合 |
※FA(フィナンシャル・アドバイザー)とは、買い手側・売り手側それぞれ一方との契約に基づいてマッチング等を行う支援機関のこと。 |
(3)バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価) |
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(4)譲り受け側の選定(マッチング) |
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(5)交渉 |
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(6)基本合意の締結 |
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(7)デュー・ディリジェンス(DD) |
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(8)最終契約の締結 |
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(9)クロージング |
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(10)クロージング後(ポストM&A) |
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中小企業のM&Aでは、専門業者が必要
ここまで、中小企業の観点からのM&Aについて、売り手・買い手双方のメリット、数値による概況やM&Aの類型、各工程について説明してきました。
また、M&Aを円滑に進めるためには、数多くの事例を取り扱っている我々のようなM&A専門企業の必要性もご理解いただけたと思います。
今までの説明で、もしご不明な点、さらに深く知りたいとお考えの方は、お気軽にお問い合わせください。
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さて、次からは、土木・施工管理会社へ視点を向け、この業界のM&Aについてくわしく説明していきます。
第二部:土木・施工管理会社のM&A戦略
建設投資における土木工事
建設投資の中で、土木工事の多くは公共工事であり、建築工事の多くは民間工事です。
下の図のように、公共工事の75%以上は土木工事です。逆に、民間工事においては、土木工事は15%程度となっています。
図の右側が示すように、公共工事においては、公共工事の品質確保の促進に関する法律により、適切な予定価格の設定、入札時におけるダンピング対策などが定められています。同時に、設計労務単価といった諸制度が、元請労務単価や賃金の相場形成に寄与しています。
しかし、民間工事では、これらの諸制度がなく、市場原理の中で過剰な競争にさらされているといわれています。
このように、適正な労務単価という視点からは土木工事は制度上、優遇されています。
しかし、土木業界においても、建設業界共通の以下のような課題を抱えています。
建設業界における「2024年問題」と対応策
2024年4月から「働き方改革関連法」の適用が始まり、建設業界では、これまで猶予されていた時間外労働の上限規制が適用されます。いわゆる建設業の2024年問題です。
2024年問題とは
時間外労働の上限規制:
- 2024年4月から、建設業も時間外労働の上限が月45時間、年360時間に制限(上限を超えた場合は罰則の対象)
中小企業の割増賃金率の引き上げ:
- 2023年4月から、中小建設会社でも時間外労働の割増賃金率を引き上げ
建設業界・土木業界が抱える課題
これらの規制に対応するだけでなく、土木業界は、建設業界と同様に、既に以下のような課題を抱えています。
人手不足と高齢化:
建設業界は慢性的な人手不足に悩まされており、高齢化も深刻化しています。
他の業種と比べても若者の数が1割程度で極端に少なく、逆に60歳以上が全体の4分の1を占めており、10年後にはその大半が引退すると推定されています。
業界に対するネガティブイメージや技術の属人化、未経験者への育成体制の不足などもあり、若手人材の確保や担い手不足が課題となっています。
しかし、人手不足でありながら、労働時間を今までより減らす必要に迫られているのが建設業界なのです。
結果として、若手の入職が進まず、長時間労働が常態化しています。
生産性の低さ:
下のグラフのように、建設業の年間総実労働時間は2056時間、調査産業全体が1720時間で、その差は年間300時間もあります。
生産性が低い特性を持ちながらも、労働時間を今までより減らすことを迫られているわけです。
今までよりも労働時間を減らすことで、工期の遅れや従業員の収入減少などが懸念されています。これが建設業界の2024年問題です。
そこで、現在、以下のような対応策が考えられています。
対応策
人手不足への対応:
- 適切な工程管理と労務管理の実施
- 完全週休2日制の導入
- 女性・高齢者、外国人の積極的な活用によって、業界全体の環境を改善し、結果として給与や待遇を改善していく
給与・社会保険の改善:
- 適切な賃金水準の確保と社会保険加入の徹底
- 建設キャリアアップシステムの活用による処遇改善
生産性向上:
- ICT活用や現場管理の効率化による生産性向上
- DXの推進による業務の効率化
- プレハブ工法やロボット技術の活用
- 建設現場の自動化・省力化
このほかにも、新3K(「給与・休暇・希望」の頭文字K)を旗印に、建設業全体の働き方や待遇の改善を目指しています。
対応策の具体例
次の「「建設2024年問題」 3Kから脱却なるか? | NHK | ビジネス特集 | 働き方改革」にわかりやすい事例が紹介されているため、引用します。
現場監督の長時間労働の短縮化:
そんな建設業界の中で、大工などの職人よりも、労働時間の長さが課題となっているのが、現場監督です。
国が2000社あまりの建設会社を対象に行った調査では、おととし1年間で、1か月あたりの時間外労働が45時間を超えていた割合は、職人が5%、現場監督は13%と2倍以上の開きがありました。
現場監督は、現場での管理・監督に加えて、書類作成といった事務作業もあって、仕事量が多くなる傾向があります。
(中略)
その解決につながると今、期待されているのがIT技術を活用した「掛け持ち」の拡大です。
法律では、請負金額が8000万円未満の建築工事については、1人の現場監督が複数の現場を掛け持ちして管理することが認められています。
さらにこの掛け持ちは、スマートフォンやタブレット端末を使って映像を確認しながら、遠隔で監督することも認められています。
(中略)
国も、こうした遠隔による現場監督の掛け持ちを広めたい考えで、ことし3月、関係する法律の改正案を閣議決定しました。
現在「8000万円未満」となっている請負金額の条件を「2億円未満」まで拡大する方針です。
ただし、掛け持ちを実施する場合は、スマートフォンなど遠隔で指示を出せる通信環境の整備や、1年以上の実務経験がある連絡要員の配置などが必要になります。
取材した会社は、この請負金額の引き上げが実現すれば、掛け持ちする工事を1割ほど増やせる見込みで、それによって生じた人員の余裕を使って、現場監督の休日の確保につなげたいとしています。
出典(文章・写真):「「建設2024年問題」 3Kから脱却なるか? | NHK | ビジネス特集 | 働き方改革」(太字は「M&A HACK」)
ITを活用し、労働時間を短縮化させる仕組みがありますが、この事例は「現場監督」という元請の立場であり、下請はまだまだ労働時間の短縮は難しいのが現状です。
直面する課題への対応は、自社単独では難しい
ここまで説明してきたように、建設業の2024年問題への対応は、今まで抱えてきた課題が一気に露呈する形となります。
しかし、これをチャンスとして捉え、業界全体で、時間外労働の適正化、人材確保、生産性向上、労働環境の改善など、総合的な取り組みを行うことで、建設業界の持続的な発展につなげていく必要があります。
ただ、上述したように、下請企業の多くは、まだまだ人材確保や生産性向上の実現は難しいのが現状です。
また、これらの課題への取り組みには大きな投資や時間が必要であり、すべての企業が自社だけで実現することは難しいのが現状です。
これらの観点からも、時間を買うことで早期に課題を解消する中小企業のM&A戦略は、急速な変化に対応する有効な戦略となるのです。
中小企業も参考になる:土木・施工管理会社大手のM&A戦略
ここまで紹介してきたように、土木・施工管理会社におけるM&Aは、成長戦略や市場競争力の強化を目的とした有効な選択肢です。
まず、M&Aの主なパターンを4つ紹介し、その後、土木・施工管理会社大手の具体的なM&Aを参考事例として紹介します。
M&Aの4つの主要なパターン
- 水平統合:
競合する同業他社を買収し、事業規模の拡大や市場シェアの高める戦略。 - 垂直統合:
製造・販売・流通など、異なるバリューチェーン上の企業を買収し、事業の効率化を図る戦略。 - 異業種買収:
自社の事業以外の事業を展開する企業を買収し、新規事業への参入や顧客層の拡大を図る戦略。 - 部分買収:
特定の事業部門やブランドのみを買収し、必要な機能や資源だけを取り込む戦略。
ここから、プレスリリースを参考に、M&A事例とその戦略を紹介します。
自社開発でなく他社の技術で:大成建設のピーエス三菱にTOB、子会社化
大手ゼネコンの大成建設。下の図のように、中期経営計画の中で、M&A投資を積極的に活用する方針を示しています。
- 中期経営計画(2021-2023年度)において、「事業領域拡大を目的とするM&A投資等は別枠で実施」と明記
- M&A投資は通常の設備投資や技術開発投資とは別に、独立した投資枠が設けられている
しかし、この中期経営計画中のM&Aは、以下に説明する事例が大成建設にとって、はじめてとなります。
概要:
2023年11月に大成建設は、高速道路のリニューアルやPC・プレキャスト(PCa)コンクリート分野に強みを持つピーエス三菱に対して公開買付けを行うことで、両社の連携強化や事業基盤の拡大を図り、両社の企業価値向上や競争優位性の確立を目指すと発表。なお、連結子会社化後もピーエス三菱の上場を維持する方針。
TOB・子会社化の背景:
この点については、「大成建設 公開買付けによりピーエス三菱を連結子会社化へ|道路構造物ジャーナルNET」が詳しいため、以下に引用します。
大成建設は、高速道路の橋梁を中心とした大規模更新工事では、比較的後発であり人員的にも厳しい一方で、ピーエス三菱は半断面床版架設工法など市場ニーズに応じた技術開発をいち早く進めたことによって、同分野で堅調に売り上げを増やし実績を上げている。
一方で、大規模更新は、橋梁だけでなく法面やトンネルなど、長距離・広範囲に複合的な形で業務が発注されることが増えていることから、今後もPCファブが単独受注する案件は減少傾向にある。その状況に対し、両社がJVなどを組むことにより大きなシナジーが期待される、と考えたのであろう。
具体的には、長大化・広範囲化した発注案件に柔軟に対応可能となる。
各地域に拠点を有するピーエス三菱のPC工場がより効果的に使えるようになる、資機材の共同調達によりコスト縮減が可能となる、両社の情報を集約化する形で架設・継手技術や材料の共同開発を行うことにより、技術開発が効率化でき、コストも縮減できるーーことなどが期待される。
このように、今後、単独受注が減少傾向にあるPCファブに対して、大成建設がJVを組むことによって、受注の範囲の拡大が期待されるために、子会社化したといえます。
さらに、両社で架設・継手技術や材料の共同開発を行うことや、スケールメリットのある資材の共同調達や製造拠点の活用によって、効率的な生産体制の構築や収益性の向上が期待できます。
このような背景の中で、このM&A事例では、「ピーエス三菱が持つ高速道路のリニューアル分野やコンクリート橋梁新設工事などの強みを取り込むことで、大成建設の既存事業とは異なる分野に進出することが可能となる。その結果として事業ポートフォリオが多角化されることを狙った」ものといえます。
この事例は、自社のノウハウに欠けている部分を他社を買収することで補い、時間というコストを買うという観点から、中小企業のM&A戦略の一つとして検討する価値があるといえます。
参考:
社会的課題への解決:竹中土木による人機一体への出資(第三者割当増資)
以下で紹介する事例は、現場の高齢化・人手不足、重労働等の建設業界における社会的課題を解決するためのものです。
概要:
2022年12月に、力学を自在に操ることができる人機(人型重機)の研究・開発と将来的な社会実装を目指す、立命館大学発のベンチャー企業「人機一体」へ土木専業の事業を展開する竹中土木が出資。
この出資について、竹中土木はプレスリリースで以下のように説明しています。
このような背景の中で、このM&A事例では、「竹中土木は、自社で土木関連ロボット技術を開発するのではなく、人機一体と資本業務提携をすることが、最適解であると考えた」のです。
これは、自社のノウハウに欠けている部分を新しく自社開発するのではなく、他社との資本提携で補い、時間やコストを抑えていくという観点から、中小企業のM&A戦略の一つとして検討する価値があるといえます。
参考:
- 独自の技術を活かした先端ロボット開発を展開する企業「株式会社人機一体」に出資
- 【資本提携】株式会社人機一体は、株式会社竹中土木と資本提携を行ないました | 株式会社人機一体 | Man-Machine Synergy Effectors, Inc.
ここで紹介した土木・施工管理会社大手の二つの事例は、それぞれの企業の経営計画・方針に基づいた最適解の一角であり、最終的には事業基盤の強化や多様化、収益拡大と持続的な成長を目指すものです。その最短距離の戦略として使われたものがM&Aなのです。
第三部:中小企業のM&Aについて欠かせないこと
ここまで、土木・施工管理会社の概況とM&Aの必要性について説明してきました。
また、冒頭で説明したように中小企業にとってのM&Aの重要性・必要性については、ご理解いただけていると考えています。
そこで、中小企業がM&Aを行う際に留意すべき点として、競業避止義務について説明していきます。
競業避止義務:中小企業のM&Aの注意点
土木・施工管理会社のM&Aにおいて最も留意すべきポイントとなるのが、「競業避止義務」です。
競業避止義務とは、一般的に「一定の者が自己(自社)または第三者の利益を損なうような取引をしてはならないこと」と定義されます。
以下が留意すべき点です。
- 情報の非公開化:
M&Aに関わる企業は、取引の過程で得た相手方の機密情報や営業上の秘密を外部に漏らさない義務があります。これには、製品開発や戦略・顧客リストなどが含まれます。 - 事業活動の制限:
M&A後、特に買収された側の企業の経営者や重要な従業員は、一定期間、同業他社で働くことや新たに競合する事業を立ち上げることが制限される場合があります。買収した企業の投資価値保護のためです。 - 顧客やサプライヤーとの関係:
M&Aを通じて得た顧客やサプライヤーとの関係を利用して、不当な競争優位を得る行為を避ける義務があります。これには、不公正な価格設定や市場独占の形成を防ぐことが含まれます。 - 市場への影響:
M&Aによって既存市場の様相が大きく変化し市場の競争が不当に制限される可能性があります。これは消費者の利益を毀損することにつながるため、適切な市場分析と関係者間や監督官庁と調整を行う必要があります。 - 従業員の扱い:
M&Aで発生する可能性がある従業員の解雇や職務の変更に際して、公平な手続きを行う義務があります。これには、適切な通知期間の提供や、必要に応じた再教育・再配置の支援が含まれます。
M&Aを行う際は、これらの競業避止義務に留意し、適切な契約内容を定めることが重要です。
中小企業のM&Aを成功させる3つのポイント
今までの「M&A HACK」の経験から、中小企業のM&Aを成功させるためには、大きく3つのポイントがあると考えています。
- M&A戦略の綿密な立案
- 相場価格をよく理解しておく
- 統合後のプロセス(PMI)の重要性
これらをそれぞれ詳しく解説していきます。
M&A戦略の立案のポイント
M&A戦略とは、M&Aによってどのような効果を得るのかを検討するための準備や計画を指すものです。M&A戦略の如何によって、M&A後の事業計画もより具体化されます。
M&A戦略では、自社の分析(SWOT分析)や市場調査・業界トレンドなど様々な要素を調査することが必須です。明確な戦略を立てたうえで、買収(売却)先選定や交渉を行なっていくことになります。
M&A戦略において重要視すべきポイントは、以下の通りです。
- M&Aにより何を達成したいか(売却・売却後まで視野に入れたもの)
- 自身の企業は売れるのか。売れるとすればどの部分か(事業の一部または全部)
- いつ・誰に・何を・いくらで・どのように売却(買収)するか
- 買収(売却)において障壁となる要素はあるか
- M&Aに必要な予算はどのくらいか(買収側)
上記のポイントを押さえておくだけで、M&Aにおける戦略はより具体的なものになります。反対にM&A戦略が場当たり的だと、交渉において不利な条件を飲まされるなどの弊害が発生します。
M&Aについて自社に詳しい人物がいない場合、M&A委託業者に戦略の立案・実行を依頼することを強く推奨します。費用こそ掛かりますが、よりスムーズにM&Aを成功まで導いてくれるでしょう。
当社のM&A仲介サービス「M&A HACK」では上記の戦略実行・買い手紹介を完全成功報酬、リスクなしの報酬形態にて一気通貫で対応しています。初回の相談は無料ですのでお気軽に下記よりご相談ください。
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相場価格をよく理解しておく
M&Aを実行する際には、売り手側・買い手側ともに相場価格をよく理解しておくことが必要です。M&Aの企業売買における相場価格は、相手先の会社の価値によって算出され、事業売却・企業買収の金額目安とされます。
中小企業のM&Aでは、上述したように株式譲渡か事業譲渡が活用されます。株式譲渡と事業譲渡の大まかな相場は以下のように計算されます。
- 株式譲渡:時価純資産額+営業利益×2年~5年分
- 事業譲渡:時価事業純資産額+事業利益×2年~5年分
当然ながら事業利益が多いほど、相場価格も高騰します。実際のM&A売却における相場計算はM&A専門業者などに依頼することになりますが、可能であれば依頼前に自社の相場を計算してみましょう。
また、売り手側であれば算出価格よりも安く予算を立て、買い手側であれば相場よりも高く予算を立てるのがポイントです。予算の算出においては、相場よりも多少のズレが発生することは、あらかじめ考慮しておく必要があります。
PMI(統合後プロセス)の確立
M&Aにおいては成約がゴールではなく、売り手側と買い手側の両者が思い描いた成長を実現させることが本当のゴールです。そこでM&AにおいてはPMI(Post Merger Integration)の考え方が重要になります。
PMIとは何か:
PMIは、M&A成立後に行うもので、売り手側と買い手側企業の統合に向けた作業であり、本来のM&Aの目的を実現させ、統合の効果を最大化するために必要なものです。
この図のように、M&Aの成功にはPMIは欠かせないプロセスといえます。また図のように、PMIは、以下の3つを軸に計画を策定します。
- 経営統合
- 信頼関係構築
- 業務統合
PMIを綿密に行うことで、売り手・買い手の両者に発生するリスクを最小限に抑え、成果を最大化させます。
また、PMIは成約後に立案するものではなく、M&A戦略の立案時から実行すべきです。M&Aの成約には1年以上の期間を要することがほとんどなので、PMIも長期的に行うことになります。
PMIの詳細については、中小企業庁が令和4年に策定した「中小PMIガイドライン」を参照いただくか、M&A専門企業の「M&A HACK」までご相談ください。
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終わりに
今まで紹介してきたように、M&Aは、自社だけでなく業界全体の成長をも促す重要な手段です。
土木・施工管理会社にとって、拠点の拡大や関連事業の参入、事業承継などを目的として、M&A戦略を行うことは、今後は必須であるといっても過言ではありません。
まとめとして、ここでお伝えしたいことは、M&A成功のポイントは、明確な成長戦略を持つことがまず必要であるということです。
また、M&Aを単なる拡大戦略と捉えるのではなく、企業の長期的な目標達成にどのように貢献するかを考え、戦略を立案しなければなりません。
さらに、M&A後の統合プロセスにおいて、企業文化の融合や従業員のモチベーション維持に注意を払うことも、成功への鍵となります。さらに、事前のデューデリジェンス(買収前調査)を徹底することで、リスクを最小限に抑えることも求められます。
このように、M&Aは、大手企業だけでなく、中小企業にとっても大きなチャンスであると同時に、専門性のある慎重な準備と戦略的なアプローチが必要な取り組みです。
そのためにも、専門的な知見と経験を持つM&Aアドバイザリー企業である「M&A HACK」などの専門家と協力し、適切なサポートを受けながらM&A戦略を立案することが重要であることを最後にお伝えいたします。
最後になりましたが、土木・施工管理会社経営者・オーナーの皆様のM&Aのご検討に、この記事が少しでもお役に立てればと考えております。