「農業法人のM&Aにおける動向は?」
「農業法人のM&Aについて知りたい」
この記事をご覧の方は、上記のような疑問をお持ちの人が多いのではないでしょうか。
実際に現状「農業法人 M&A」等と検索しても、信憑性に欠ける記事や専門家が執筆した解読が難解な記事しかなく、素人が目にしても理解できない記事が多いです。
そこで、今回はM&Aの専門企業である「M&A HACK」が、農業法人のM&Aについて分かりやすく簡潔に解説します。
農業法人におけるM&Aの売却相場や成功ポイントについても詳しく解説するので、農業法人のM&Aに興味のある人は、ぜひ参考にしてください。
目次
農業法人とは?
農業法人とは、その名の通り、「法人形態によって農業を営む法人の総称」です。学校法人や医療法人など法的に定められた名称とは異なり、農業を営む法人に対し、任意で使用されます。
農業法人の組織形態については、会社法に基づく株式会社・合同会社(以下、会社法人)。農業協同組合法に基づく農業組合法人(以下、農業組合法人)に大別されており、それぞれの形態によって組織構成や運用法などが異なっており、いずれの形態にせよ開設時には所定の事項を厳守することが必須となります。
また会社法人と組合法人の如何に関わらず、農業法人が農地を所有するためには、農地法に定める一定の要件を満たすことが必要です。また農地法に定める要件を満たした法人のことを「農地所有適格法人」といいます。
農業法人における2つの種類
農業法人には、大きく分けて「組合法人」と「会社法人」の2種類が存在します。会社法人と組合法人では、組織の構成等に違いがあるので、種類による特性を理解しておくことが大切です。
農業組合法人
農業組合法人とは、農業生産の協業を図るための法人組織です。農業生産の協業を図る組織であるため、組合員は原則として農家(自ら農業を営む個人または農業に従事する個人)となります。
農業組合法人は、事業内容もある程度制限されているのが特徴です。農業組合法人が行うことのできる事業は、以下の通りとなります。
- 農業に関わる共同利用施設の設置や農作業の共同化に関する事業
- 農業の経営
- 1と2に付帯する事業
上記の1の事業を行う法人を1号法人、2の事業を行う法人を2号法人と呼びます。また農業組合法人を設立するためには、発起人として3人以上の農家を集めることが必須要件です。
農業組合法人の設立には、会社法人と同じく設立手続きや出資金の支払い、発起人会の開催や行政庁への届け出などが必要になります。また自治体などによっては、補助金の出資や法人事業税の非課税などの優遇が受けられるのが特徴です。
会社法人
「農業=農家が行うもの」という認識がある人も多いですが、会社法人として農業を営むことも可能です。株式会社・合同会社などの会社法人として営利目的で農業を営むことができます。
会社法人で農業を営む場合には、農業以外の事業を展開することが可能です。「農地所有適格法人」の要件を満たしてさえいれば、農業ビジネスを展開しながら、他事業の運営を行うこともできます。農業は参入障壁が他業界に比べ高い一方、会社法人同士の競争率は他業界よりも低い傾向にあるため、近年では他業界の会社法人が農業法人として新規参入する事例が増えてきている状況です。
近年では日本行政による農業発展の取り組みの一環として、会社法人が農業法人として参入を推奨する自治体も存在します。会社法人の農業参入は、日本の農業発展に欠かせない要素であるため、自治体を中心とした行政からのサポートがより一層強化されることも予測されます。
農業法人の運営に必要なもの
農業法人を運営するうえで必要な業許可・手続き・費用について詳しく解説していきます。
必要な業許可
農業法人が自らで農地を所有して農業を行うためには、農地法を定める一定の要件を満たすことが必須です。農地法の一定要件を満たした法人のことを「農地所有適格法人」と呼び、農地所有適格法人ではない農業法人は、農地を所有しての農業を営むことはできません。
農地法が定める農地所有適格法人になるためには、以下の基本的な3つの要件を満たすことが必須です。
- 農地のすべてを効率的に利用するための営農計画を持っていること
- 農地取得後の農地面積の合計が原則50a(北海道は2ha)以上であること
- 周辺の農地利用に支障がないこと
また法人の適格要件としては、主に以下の4つの要件を満たす必要があります。
- 株式会社(公開企業でないもの)、農事組合法人、合名会社、合資会社、合同会社のいずれかであること
- 主たる事業が農業であること
- 総議決権の過半数が農業関係者で構成されること
- 役員の過半数が法人の行う農業に常時従事する構成員であること
上記の要件全てを満たしていなければ、農地所有適格法人としての認可を得ることはできません。農地所有適格法人の取得は、会社法人企業が農業に参入するための高いハードルとなります。
必要な手続き
農地所有適格法人として認可される、または農地を借りて農業法人として企業運営をする場合には、一定の手続きを踏むことが必須です。下記は、農業法人の組織形態として最も多い「株式会社」を設立するためのプロセスとなります。
- 会社基本情報の決定
「会社名」「本店所在地」「事業内容」「資本金額」「持株比率」「役員構成」「資本金の額」など会社基本情報を決定するプロセス。株式会社で農地所有適格法人の認定を目指す場合には、株式の譲渡制限の定めを置く必要がある。 - 定款の作成と認証
Wordなどのソフトを使用して作成する。定款が作成できたら、PDFファイルに変換した電子定款を公証役場に送信し、公証人の認証を受ける。電子署名が必須となるので注意が必要。 - 出資の履行と設立時役員の選任
通常は発起人が設立時発行株式を引き受け、その出資に係る金銭を払い込む。発起人は設立時役員会を開催し、設立時役員を選任する。さらに設立時役員会は代表取締役を選任する。 - 設立登記・諸官庁への届け出
1.~3.のプロセスが完了したら、法務局に設立登記を申請する。同時に諸官庁に対し「青色申告申請書(税務署)」「法人設立届(都道府県税事務所または市町村役場)」など、各種書類を届けることで農業法人が設立される。
上記1.~4,のプロセスを踏むことで、農業法人の設立が可能です。農地所有適格法人を取得する以外は、一般的な会社法人設立と設立までのプロセスは変わりません。
農業法人の設立にかかる費用
株式会社設立による農業法人の設立にかかる費用は、一般的な株式会社設立にかかる費用とほぼ同じです。農業法人だからといって高額な設立費用が発生する訳ではありません。
具体的には、「定款認証手数料3~5万円程」と、登記の際に支払う「登録免許税15万円程」です。ただし定款認証手数料・登録免許税の両方は、資本金の額により変動するので、注意しましょう。
また定款の作成や登記申請を代行してもらうとその分コストがかかります。少しでも会社設立における初期投資を抑えたい場合には、自社で会社設立までの手続きを内製化させるのがポイントです。今後別事業を立ち上げる際にも自社ノウハウとして活かすことが出来るでしょう。
農業法人会社のメリットとデメリット
農業法人のメリットとデメリットを解説します。これから農業法人のM&Aを検討している人は、ぜひメリットとデメリットの両方を理解したうえで、M&Aの検討をしてください。
農業法人会社のメリット
個人農家や農業組合法人ではなく、あえて株式会社などの農業法人会社となるメリットは、以下の通りです。
- 経営の透明化・近代化
日本における農業は長らく個人事業者を中心としたものでしたが、結果として現代における世界的な基準に見合う生産性を担保することはできませんでした。しかし、これまで個人や家業で行われてきた農業を法人化することにより、経営と資本の分離が進み、経営そのものが透明化される可能性が高いです。日本のGDP向上においても大きな貢献をもたらすことでしょう。 - 信用の担保
農業法人会社と個人農家の決定的な違いは、信用性にあります。法人化によりコーポレートガバナンスが担保されているという期待から、取引先や取引金融機関などからの信頼性が増すことでしょう。法人として組織的に農業を運営することで、取引先企業や団体だけでなく、自治体や金融機関からの融資も受けやすくなります。 - 経営の分散化
近年では、「農業+飲食店」「農業+宿泊施設」など、農業を主たる事業としつつ、農業とのシナジー効果を得られる事業を並行して展開する法人が増えてきています。経営におけるリスク分散の観点からも事業を多角的に展開することは非常に有効な戦略のひとつです。
上記の通り、農業を法人会社化することによって、個人農家や農業組合法人では得られない恩恵を受けることができます。
農業法人会社のデメリット
農業法人会社には、メリットだけでなくデメリットも存在します。農業法人会社のデメリットは、以下の通りです。
- 経営コストが個人農家よりもかかる
当然ながら個人で農業を営むよりも、農業法人会社を運営する方が経営コストが多くかかります。人件費・法人税・社会保険料など、会社法人の運営と存続には一定の費用が必要です。従業員を雇用することで、個人農家よりも生産性が上がる一方、人経費コストを考慮しなければ、経営に大きな打撃をもたらすでしょう。 - 農地所有適格法人の要件を満たすことが困難
そもそも農業法人会社を興すには、「農地所有適格法人」となることが必要です。しかし農地所有適格法人の条件は厳しく、なかでも「役員のうち過半数は法人の農業に常時従事する構成員であること、かつ、役員または重要な使用人のうち、1名以上が農作業に従事すること」の条件を突破することは簡単ではありません。まさに行政側が企業側の本気度を試している制度とも捉えられます。 - 競争リスクが発生する
「農業は儲かる」と考える経営者は意外にも多いですが、農業の市場競争率は非常に厳しく、農業法人会社を設立すれば、おのずと市場競争に巻き込まれることとなります。農業会社の運営において、業績の肝となるのは成果物ですが、天候や農地による影響を受けやすく、豊富な経験とノウハウがなければ、良質で競争力のある成果物を生みだすことはできません。他農業従事者よりも質が良く、消費者に選ばれる成果物を生産する企業努力が必須です。
コスト・業許可・市場競争など、農業法人会社の運営では様々な課題が付きまといます。政府も農業法人の発足を後押しする一方で、良質な作物を生産する農家を増やすため、市場競争が活発化しやすい状況を敢えて作っているとも考えられるでしょう。
農業の現状と課題
農業における現状と課題について詳しく解説していきます。M&Aにおいて業界の現状と課題を理解しておくことは非常に重要なので、ぜひ参考にしてください。
農業従事者が減少傾向にある
上記は農林水産省が、実施した「農業労働力に関する統計」の調査結果です。表に記載の通り、平成27年度の起案的農業従事者は175.7万人でしたが、令和5年には約59.3万人減の116.4万人となっています。
統計調査を参考にすると、8年間で35%超もの農業従事者が減少したという結果です。日本の農業従事者は年々右肩下がりに減少しており、革命的な改善策が実行されない限り、これから益々減少傾向は悪化することが予測されます。
農業従事者が減少している主な理由は、地方における人口減少と高齢化・労働条件の悪化・不安定な仕事量と収入など様々です。すべての要因を一度に取り除くことは難しく、行政と国民が一体となって原因改善に努めることが求められています。
耕作放棄地が増加
農業における課題は、農業従事者の減少だけではありません。農業従事者の減少と相まって、耕作自体が行われなくなり、放置された農地が残る「耕作放棄地の増加」も課題となっています。
耕作放棄地とは、「以前耕地であったもので、過去1年以上作物を栽培せず、今後数年の間に再び耕作する考えのない土地」と農林業センサスにおいて定義づけられている土地のことです。耕作放棄地は当然管理がなされない状態のまま放置されるため、雑草や害虫が発生し、最悪の場合には洪水などの災害を招く可能性さえあります。
耕作放棄地への対策として政府は「農地バンク」を設置する取り組みを実施。農地バンクは、平成26年に全都道府県に設置され、中立な立場で農地の貸し・借りを円滑に進める役割をしています。個人農家や農業法人は農地バンクに登録された農地を活用することで、よりスムーズに農業に従事することが可能です。
TPPによる価格競争が激化
TPP(Trans-Pacific Partnership)とは、太平洋を取り巻く国々からなる「環太平洋パートナーシップ」の略称です。TPPは日本を含む11か国による経済連携協定を意味するもので、関税や各種規制を削減・撤廃し、モノだけでなく投資や情報、サービスにおいてもほぼ完全な自由化をめざしています。
しかし日本の国内農業市場では、TPP協定が業界の生産性に大きな打撃を与えているのが現状です。TPP協定では、日本の農林水産分野の全2,594品目のうち、およそ8割に当たる2,135品目の関税が撤廃され自由化がなされます。
つまり外国産の安価な農産物が市場に出回るようになり、国内だけでなく海外との価格競争も激化すると予想されるのです。ただでさえ、収入が安定せず差別化も容易ではない国内農業市場において、海外の安価な成果物との競争は大きな障壁となっています。
農業法人におけるM&Aの動向
農業法人におけるM&Aの動向について解説していきます。現在の農業法人におけるM&Aの動向の特徴は、以下の通りです。
- 隠れニーズとして注目されている
- 一般企業の農業参入が加速
- 参入障壁は依然として高い
それぞれ詳しく解説していきます。
隠れニーズとして注目されている
農業業界では古い産業構造の残存と参入障壁の高さから企業間でのM&Aが活発な業界とは言えません。しかし近年では農業業界におけるM&Aは隠れニーズとして注目され始めているのも事実です。
そもそも日本における農業は、個人農家を中心に産業が回っていたため、M&Aという概念はなくとも、一族間による農地や事業の承継は古くから盛んでした。しかし近年では個人農業従事者の高齢化と後継者不足の問題により、個人から対企業への事業譲渡、つまりM&Aが少しずつ増加しています。
ただし当然ながら買収する企業側も農業に関するノウハウを有しており、かつ採算が取れる事業であると見込めない限りはM&Aの実施に至りません。そのため隠れニーズとして注目されてはいるものの、農業業界におけるM&A事例は他業界に比べればまだまだ少ないのが現状です。
他業種からの農業参入が加速
既存農業従事者もしくは農業法人をM&Aの事業譲渡スキームを用いて、他業種の企業が買収または合併する動きが加速しています。他業種からの新規参入が加速しているのは、M&Aによって参入障壁を下げられることが大きな要因のひとつです。
農林水産省の調査によれば、新規就農者(新しく農業を始める人)は減少傾向にあるものの、令和4年時点でも1年で約46万人が農業に参入しています。このなかには、他業種に従事していた人や企業も含まれるでしょう。
M&Aは事業の多角化を図るうえで非常に有効な戦略であるため、他業種の事業者がM&Aを用いて農業分野に参入してきている可能性が高いです。「自社人材に農業に関するノウハウがある」「オーナーの実家が専業農家だった」など、農業に元から関連のある企業であれば、M&Aを活用することで、農業参入のハードルを下げることができます。
参入障壁は依然として高い
近年では他業種から農業への新規参入が加速し、以前よりも農業法人のM&Aは活発化しています。しかし依然として農業への参入障壁が高いことも事実です。企業の農業への参入障壁が高い理由には、以下のような要因が考えられます。
- 農地所有適格法人取得の難易度が高い
- 農業に関するノウハウを取得するのが困難
- 農業に従事した経験のある人材を見つける・雇用するのが困難
- 採算計画を立案しにくい(収益の見通しが立てにくい)
- 物価高による収益性の低下
現在の日本では、農業に対し良い風向きを与える要素が非常に少ないのも事実です。M&Aは農業業界を活性化させる手法になることは間違いないものの、依然として様々な要因から参入障壁は高い状況と言えます。
農業法人にてM&Aを行うことのメリット
農業法人がM&Aをするメリットを売却・買収側の双方から解説します。農業法人のM&Aにおける売却・買収のメリットは、以下の通りです。
売却側のメリット | 買収側のメリット |
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農業法人でM&Aの売却を行うことのメリット
農業法人でM&Aの売却を行うことのメリットは、以下の通りです。
資金調達・オーナーのEXIT
M&Aによって売却された企業は、買収側の企業より金銭的収入を得ることができます。これは売却側のオーナーにとって大きなメリットとなる要素です。
M&Aによって獲得した現金の使い道としては、代表的なものとして以下のものが挙げられます。
- 残っている借入金の返済に充てる
- オーナー自身の引退後の生活資金とする
- 新規事業における資金源とする
一方で、M&Aをせずに廃業となれば、有形資産を処分する費用や解雇する従業員への補償など、多くのコストがかかります。オーナーにとっては廃業を選ぶよりM&Aを選ぶことの方が、遥かにメリットは大きいでしょう。
借入における個人保証の解除
借入による資金調達を行った場合には、当然ながら返済義務が生じ、これが出来ない場合には個人資産を失うことになります。農業法人に関わらず、これは全ての経営者にとって大きな精神的負担となる事柄です。
特に中小規模の農業法人の場合、経営資金の融資調達はオーナー経営者が個人保証したり、個人資産を担保に入れることがほとんどのはず。貸倒によるオーナー個人の損害は計り知れないものです。
M&Aで会社を売却することで、会社は廃業や倒産を免れるだけでなく、基本的に債権も買い手に引き継がれるため、個人保証や担保差し入れを解消することができます。オーナーにとっては肩の重い荷を下ろすことにも繋がるのです。
事業の選択と集中
景気悪化を辿る日本では、会社存続のために複数の事業を多角展開する企業も珍しくありません。しかし事業の多角化は一歩間違えれば、赤字を生み出し、廃業の原因とさえなり得ます。
M&Aのスキームの一つである「事業譲渡」を用いることで、不要となった事業やその関連資産だけを選別して売却することが可能です。実際に事業譲渡により、特定の事業のみを他者委に売却する企業は多くあります。
M&Aの事業譲渡によって事業を売却することで、事業の選択と集中が出来れば、経営状態を好転させられるかもしれません。得意分野に資金や人員を集中できるため、成功率も高まるはずです。
後継者不足の解消
農業従事者が掲げる大きな問題として、後継者不足による廃業が挙げられます。後継者不足に悩む農業従事者が、M&Aの売却を進めることで後継者不足の解消に繋げることができます。
実際に後継者不足解消に悩む中小規模もしくは個人の農業従事者が、別会社に買収されることで、後継者問題の解消に繋がるケースは多いです。M&Aでは、会社を譲渡することで譲受企業から経営陣を迎え、これまで通り会社を存続させる事ができます。
また大手企業の経営者クラスに位置する優秀な人物が経営者となるため、売却側の事業規模がこれまでより拡大される場合が多いです。後継者不足に悩んでいる企業にとって、M&Aを行うことは廃業を避けるための大きな手段のひとつです。
農地承継問題の解消
後継者不足に悩み農業従事者が同時に抱えている問題として、農地承継問題があります。農地は農地法によって売却に一定の条件が発生するため、農業を廃業する場合にも簡単に手放せるわけではありません。
実際に廃業後の農地承継が上手く進まず、耕作放棄地として存在している農地は多いです。しかしM&Aにより、事業と併せて農地も譲渡できれば、耕作放棄地となることを避けられるばかりか、M&Aの譲渡金額を高める要素にさえなります。
M&Aは農地承継に悩む農業事業者にとって、受け継がれてきた農地を耕作放棄地とせず、これからも農地として活用するために有効な戦略です。日本の農業における大きな課題のひとつを解消することにも繋がるでしょう。
農業法人でM&Aの買収を行うことのメリット
農業法人のM&Aにおける買収側のメリットは、以下の通りです。
- 事業拡大のチャンス
- 新規事業への進出
- 優秀で経験豊富な人材の確保
それぞれ詳しく解説していきます。
事業拡大のチャンス
M&Aにおいて買収側が得られる最大のメリットは、事業拡大のチャンスを得られることでしょう。M&Aによって買収側の企業は規模やシェアの拡大を狙うことができます。
特に農業のように参入障壁の高い業界は、参入のハードルが高い一方で、ITや不動産など競合ひしめく業界に比べて競争率は低い傾向にあります。ニッチ市場ではありますが、事業に成功できれば自社の経営基盤強化につながることでしょう。
実際に農業のM&Aに取り組む企業の多くが、自社事業拡大を目指して農業法人のM&Aに着手しています。自社が元から持つノウハウと農業分野着手によるシナジー効果を発揮できれば、大きく事業規模に繋がる可能性も高いです。
新規事業への進出
M&Aにて農業法人を買収し、自社農地にて農業を営む場合には、「農地所有適格法人」の業許可を取得することが必須です。無許可での農業の運営は法律で禁止されています。
もし株式譲渡で農業法人をM&Aにて買収すれば、「農地所有適格法人」を引き継ぐことが可能です。一から許可取得までのプロセスを踏む必要がないため、非常に効率的と言えます。
また農業のような特殊な業界は、他業界よりも圧倒的に参入障壁が高いことが特徴。誰でも参入できる分野ではなく、業許可・人材・ノウハウ・土地など、あらゆる要素がそろっていなければ農業ビジネスを成功させることはできません。
一から起業して農業ビジネスに着手するよりも、M&Aにて農業法人を買収し、業許可・人材・ノウハウが揃った状態からビジネスをスタートする方が、遥かに効率的と言えるでしょう。
優秀で経験豊富な人材の確保
少子高齢化が問題となっている現代では、優秀な人材の確保はどの業界においても必須の課題です。優秀な人材を確保することは、そのまま企業の行く末に作用します。
M&Aを行うことによって、売却側企業に所属する従業員をそのまま雇用すれば、優秀な人材をそのまま自社に引き入れることができます。もちろん業界におけるノウハウも既に所有しているため、研修を行う手間も省くことが可能です。
ただし売却側企業に所属する従業員全員が優秀であることの保証はないことに加え、M&A後の企業文化の変化に付いてこられず、離職する従業員が発生する可能性もあります。M&Aによって従業員を引き継ぐ場合には、非常に繊細な注意が必要です。
農業法人のM&Aにおける成功事例
農業法人のM&Aにおける成功事例を紹介していきます。農業法人のM&Aを検討している人は、ぜひ参考にしてください。
丸三と農の郷によるM&A
2021年10月に丸三が農の郷の全株式を取得し、同社を完全子会社(丸三の取締役が農の郷の社長を兼務)したM&Aの事例です。譲渡金額は公開されていません。
譲り受け企業である「丸三」は、島根県出雲市に本社を置き、パチンコ・スロット事業やホテル・温泉宿事業などを手掛けるレジャー・アミューズメント関連企業です。一方の「農の郷」は、「しまね大学発・産学連携ファンド」の出資により設立されたトマト生産事業を手掛けるベンチャー企業になります。
丸三は以前にトマト栽培事業を手掛けており、本件M&Aによりトマト栽培事業に再参入することが狙いです。島根大学との共同研究・開発・加工ということで、以前よりも品質・収穫量の増加により売上規模拡大を狙っています。
島根大発ベンチャー企業 農の郷、LPCグループに トマト栽培の拡充図る
プロジェクトウサミと七つ森ふもと舞茸によるM&A
2021年6月にプロジェクトウサミが七つ森ふもと舞茸の事業を承継したM&Aの事例です。M&Aの手法と譲渡金額は、一般公開されていません。
譲り受け企業である「プロジェクトウサミ」は、太陽光発電システムやオール電化システム機器の販売・施工、エコ住宅リフォームなどを手掛ける発電機器関連企業です。一方の七つ森ふもと舞茸(旧農事組合法人麓上舞茸生産組合)は、宮城県黒川郡で舞茸を初めとする農産物の生産・販売事業を展開している企業になります。
発電機器関連企業が農業法人をM&Aにより買収した事例となっており、譲受企業であるプロジェクトウサミは、農業業界への新規参入を果たすことによる事業多角化が狙いです。一方の譲渡法人側は、後継者不足の解消と事業発展を成し得ています。
大和フード&アグリとスマートアグリカルチャー磐田のM&A
2021年10月、大和フード&アグリがスマートアグリカルチャー磐田に資本参加し、同社の経営に参画したM&Aの事例です。資本参加のスキームによるM&Aで、取引金額は一般公開されていません。
譲り受け企業である「大和フード&アグリ」は、大和証券グループにより食・農業の新規ビジネス展開のために設立された子会社で、トマトの生産・販売事業を展開している企業です。一方の「スマートアグリカルチャー磐田」は、静岡県磐田市にて、最先端の大規模園芸設備を用いたパプリカなどの大量生産・販売事業を展開している企業になります。
本件は、農業関連法人同士のM&Aとなっており、双方が持つノウハウと設備を共有することによって、シナジー効果をもたらすのが狙いです。譲り受け企業である大和フード&アグリは、既存のトマト生産・販売関連事業に加え、パプリカなどの生産・販売事業を多角展開することになります。
グッドソイルグループとアグリ・アライアンスによるM&A
2021年9月にグッドソイルグループがアグリ・アライアンスの株式49%を取得し同社を子会社化したM&Aの事例です。譲渡金額は公開されていません。
譲り受け企業である「グッドソイルグループ」は、東京・広島・スイス・フィリピンに拠点を置き、栽培用土壌開発、青果物栽培、生産物を用いた加工品開発・販売などを展開する企業です。一方の「アグリ・アライアンス」は、東広島市で環境整備(環境整備(暗渠排水)と野菜栽培事業を展開している企業になります。
本件M&Aは農業を手掛ける法人企業同士のM&A事例です。どちらの企業も栽培用土壌と青果物栽培を展開しており、それぞれのノウハウを共有することで、シナジー効果をもたらすことが狙いです。
メタウォータとプラントフォームによるM&A
2020年3月にメタウォーターがプラントフォームによる第三者割当増資を引き受け、同社株式を取得したM&Aの事例です。第三者割当増資のスキームを用いた事例で、譲渡金額は1.9億円となっています。
譲り受け企業である「メタウォーター」は、浄水・下水・汚泥処理設備を初めとする機械・電気設備の設計・製造・施工などを手掛けるインフラ関連企業です。一方のプラントフォームは、魚と植物を同時に育てる循環型農業手法の「アクアポニックス」の企画・設計・運営委託、アクアポニックスを用いた野菜栽培・販売などを運営する企業になります。
メタウォーターは、プラントフォームの株式を取得することにより、プラントフォームが所有している「アクアポニックス」を活用することが可能となりました。アクアポニックスを活用し、今後は新事業・雇用創出のソリューション事業を展開していくことが狙いです。
メタウォーター㈱を引受先とした1.9億円の第三者割当増資の実施
いわぎん農業法人とキートスファームによるM&A
2021年3月にいわぎん農業法人投資事業有限責任組合がキーストファームが発行する無議決権優先配当株式を引き受け、同社に出資したM&Aの事例です。出資額は、2,000万円となっています。
譲り受け企業である「いわぎん農業法人投資事業有限責任組合」は、岩手銀行・いわぎん事業創造キャピタル、日本政策金融公庫が共同で組織したファンドです。同社は岩手銀行営業エリア内の認定農業者を対象とした投資事業を展開しています。
一方のキースファームは、岩手県盛岡市で岩手県特別栽培農産物認証・有機JASを取得した有機野菜などの栽培事業を展開する企業です。本件M&Aにより、農地集積などの取り組みを通して持続可能な農業生産方法を確立することを目的としています。
農業法人のM&Aにおける注意点
農業法人のM&Aにおける注意点を解説します。農業法人のM&Aを行う際の注意点は、以下の通りです。
- M&Aの専門知識を持たない状態での引継ぎ
- 農地法や他農家への配慮と対応
- 既存従業員への離職対策
それぞれ詳しく解説していきます。
M&Aの専門知識を持たない状態での引継ぎ
M&Aでは、買い手と売り手の情報格差(買い手のM&Aに関する知識・経験が圧倒的に豊富)があるため、M&Aの専門知識を持たない状態での売買は非常に危険です。
買い手の知識・経験が圧倒的に売り手を上回る場合には、買い手有利の条件(買収金額が相場よりも圧倒的に小さくなってしまう)という現象が起こりかねません。最悪の場合には、不利な条件でM&Aをすることによって、莫大な損害を被るケースもあります。
そこで、もしM&Aの経験が不足しているのであれば、M&Aアドバイザーを導入するのがおすすめ。M&Aで自社が損害を被ることを避けるのはもちろん、より有利な条件でM&Aを成功させることが出来るでしょう。
農地法や他農家への配慮と対応
農業の運営においてネックとなる要素は大きく2つ存在します。一つは「農地法」、もうひとつは「他農家との関係性」です。この2つの要素に注意することは、農業ビジネスを営むうえで必須となります。
農地法では「農地売買」や「農地転用」における法律が厳密に定められており、農地法に基づいて農地の運用を行わなければ法令違反となります。M&Aにおいて「耕作の目的に供される土地」の売買や転用には専門家のアドバイスを得たうえで交渉を行いましょう。
また農業は古くからの慣習を未だ色濃く残す業界でもあるため、同エリア内での農家同士の繋がりは非常に密接です。M&Aをきっかけとして新たに法人会社として農業を営む場合には、必ず近辺の農業組合法人などに連絡を取っておくことが推奨されます。
既存従業員への離職対策
買収先の既存従業員による離職対策は、M&Aを成功させるために必要なポイントのひとつです。既存授業員の離職を防ぎ、優秀な人材を雇用し続けることが重要になります。
経営者視点から見ればM&Aは立派な経営戦略であり、大きなシナジー効果を生むものです。しかし従業員にとっては、今後の働き方や会社との雇用関係に大きな変化をもたらす為、M&Aによって雇用条件や働き方が悪化すると離職を招きます。
M&Aによる離職を防ぐためには、従業員の働き方や雇用関係の変化に対し、敏感に配慮することが重要です。既存従業員が不安となる要素はあらかじめ取り除いておくことが、M&Aによる離職を防ぐ手段として有効になります。
農業法人のM&Aを成功させるためのポイント
農業法人のM&Aを成功させるためのポイントについて解説します。農業法人のM&Aを成功させるためのポイントは、以下の通りです。
- M&A戦略の立案
- PMI(統合後プロセス)の確立
- 相場価格への理解
それぞれ詳しく解説していきます。
M&A戦略の立案
M&A戦略とは、M&Aによってどのような効果を得るのかを検討するための準備や計画を指すものです。M&A戦略の如何によって、M&A後の事業計画もより具体化されます。
M&A戦略では、自社の分析(SWOT分析)や市場調査・業界トレンドなど様々な要素を調査することが必須です。明確な戦略を立てたうえで、買収(売却)先選定や交渉を行なっていくことになります。
M&A戦略において重要視すべきポイントは、以下の通りです。
- M&Aにより何を達成したいか(売却・売却後まで視野に入れたもの)
- 自社は売れるのか。売れるとすればどの部分か(事業の一部または全部)
- いつ・誰に・何を・いくらで・どのように売却(買収)するか
- 買収(売却)において障壁となる要素はあるか
- M&Aに必要な予算はどのくらいか(買収側のみ)
上記のポイントを押さえておくだけで、M&Aにおける戦略はより具体的なものになるはずです。反対にM&A戦略が場当たり的だと、交渉において不利な条件を飲まされるなどの弊害が発生します。
また自社にM&Aにおいて詳しい人物が所属していないのであれば、M&A委託業者に戦略の立案・実行を依頼することを強く推奨します。M&A専門業者に委託することで、よりスムーズにM&Aを成功まで導いてくれるでしょう。
当社のM&A仲介サービス「M&A HACK」では上記の戦略実行・買い手紹介を完全成功報酬でリスクなしの報酬形態で一気通貫対応しています。初回の相談は無料ですのでお気軽に下記よりご相談ください。
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PMI(統合後プロセス)の確立
M&Aにおいては成約がゴールではなく、売り手側と買い手側の両者が思い描いた成長を実現させることが本当のゴールです。そこでM&AにおいてはPMI(Post Merger Integration)の考え方が重要になります。
PMIとは、いわばM&A成約後の「統合後プロセス」を指す単語です。PMIにおける重要な要素には、以下のようなものがあります。
- 新経営体制の構築
- 経営ビジョン実現のための計画策定
- 両社協業のための体制構築・業務オペレーション
上記の点に留意しながら、PMIを立案します。PMIを綿密に行うことで、売り手・買い手の両者に発生するリスクを最小限に抑え、成果を最大化させることが出来るでしょう。
またPMIは成約後に立案するものではなく、M&A戦略の立案時から実行すべきです。M&Aの成約には1年以上の期間が掛かることがほとんどなので、PMIも長期的に行うことになります。
相場価格への理解
M&Aを実行する際には、売り手側・買い手側ともに相場価格をよく理解しておくことが必要です。M&Aの企業売買における相場価格は、該当の会社の価値によって算出され、事業売却・企業買収の金額目安とされます。
農業法人のM&Aでは、株式譲渡もしくは事業譲渡が使われることが多いです。株式譲渡と事業譲渡の大まかな相場は以下のように計算されます。
- 株式譲渡:時価純資産額+営業利益×2年~5年分
- 事業譲渡:時価事業純資産額+事業利益×2年~5年分
当然ながら事業利益が多いほどに相場価格も高騰します。実際のM&A売却における相場計算はM&A委託企業に依頼することになりますが、もし可能であれば依頼前に自社の相場を計算してみましょう。
また、売り手側であれば算出価格よりも安く予算を立て、買い手側であれば相場よりも高く予算を立てるのがポイントです。予算の算出においては、相場よりも多少のズレが発生することをあらかじめ考慮しておきましょう。
農業法人のM&Aについてまとめ
今回は農業法人のM&Aについて、市場の現状・M&Aの動向・M&Aの成功事例などを交えて解説しました。
日本の農業従事者は年々減少している一方で、M&Aによる他業界からの農業新規参入の流れは強まってきています。農業の運営においてM&Aは、事業拡大・新規参入・経営基盤強化のための有効な戦略となることでしょう。
しかしM&Aは企業の成長戦略として非常に有効な手段である一方、万全を期して臨む必要のある経営戦略です。当社のM&A仲介サービス「M&A HACK」では上記の戦略実行・買い手紹介を完全成功報酬でリスクなしの報酬形態で一気通貫対応しています。初回の相談は無料ですのでお気軽に下記よりご相談ください。
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