「特殊運送・輸送会社のM&Aについて、どんな点を押さえれば良いのか?」
「事業承継を成功させるために知っておくべきことは何か?」
多くの特殊運送・輸送業界の事業者が抱えるこれらの疑問に、本記事でお答えします。
特殊運送・輸送会社のM&Aや事業承継は、ただの業務継続ではなく、戦略的な経営刷新のチャンスでもあります。しかし、その方法や売却相場、成功のポイントについて、明確で信頼できる情報は意外と少ないものです。
そこでこの記事では、M&Aの専門企業「M&A HACK」が、特殊運送・輸送会社のM&Aや事業承継における売却相場や成功事例、そして成功へのポイントを分かりやすく解説します。これからM&Aや事業承継を考える方々は、ぜひ参考にしてください。
目次
特殊運送・輸送とは
このセクションでは、特殊運送・輸送の具体的な定義から始め、特殊運送・輸送会社で扱う主な物品や需要が高まる背景について解説していきます。
特殊運送・輸送業の定義
特殊運送・輸送業とは、一般的な運送業とは異なり、特殊な技術や設備、専門知識を必要とする貨物の輸送を行う業種です。これらの貨物は、サイズ、重量、形状、危険性などの点で通常の輸送方法では扱えないものが多くあります。
特殊運送・輸送業者は、これらの貨物を安全かつ効率的に目的地まで運ぶために、専用の車両や設備、熟練したスタッフを揃えています。
特殊運送・輸送業で扱う主な物品
特殊運送・輸送業で扱われる主な物品には、以下のようなものがあります。
特殊運送・輸送の種類 | 主な物品 |
重量物 | 建設機械、発電設備、プレス機械など |
大型物 | 風力発電設備、航空機部品、大型彫刻など |
危険物 | 化学薬品、高圧ガス、放射性物質など |
精密機器 | 医療機器、半導体製造装置、衛星関連機器など |
美術品・貴重品 | 絵画、彫刻、古美術、貴金属など |
これらの物品は、一般的な輸送方法では扱いが難しく、専門の知識と設備が必要とされます。
特殊運送の需要が高まる背景
近年、特殊運送の需要が高まっている背景には、いくつかの要因が複合的に作用しています。まず、国内外でのインフラ整備プロジェクトが増加していることが挙げられます。大規模な建設工事では、重機や大型の資材など、特殊な輸送技術を必要とする物品の輸送需要が高まります。
また、産業設備の大型化・高度化も、特殊運送の需要を押し上げる要因となっています。高度な技術を要する精密機器や、大型の産業用設備など、特殊な輸送ノウハウが求められるケースが増えているのです。
さらに、グローバル化の進展も、特殊運送の需要を高める背景となっています。国際間の物品移動が活発化する中で、特殊な梱包技術や輸送ノウハウを必要とする物品の輸送需要が増加しています。加えて、文化・芸術への関心の高まりも、特殊運送の需要を後押ししています。
美術品や貴重品の展示会や、国際間の輸送需要が増加しているのです。このように、様々な要因が複合的に作用することで、特殊運送の需要は高まりを見せています。こうした需要の高まりを背景に、特殊運送・輸送業界は今後も安定した需要が見込まれる分野だと言えるでしょう。
特殊運送・輸送業界の市場動向と市場規模
日本経済新聞「矢野経済研究所、物流17業種市場に関する調査結果を発表」より
M&Aにおいて業界の現状とこれからを理解しておくことは非常に重要です。そこで、ここでは、特殊運送・輸送業の動向と今後について解説していきます。ぜひ参考にしてください。
特殊運送・輸送業界の市場規模
矢野経済研究所が発表した調査によると、2021年度の物流17業種総市場規模は、前年度比15.7%増の23兆1,860億円と推計されています。この大幅な拡大は、主に海運や航空貨物輸送などの国際物流関連業種で見られました。一方、国内物流は回復途上にあります。
同社は物流市場の潮流についても言及し、国際物流では海上輸送量の拡大が、国内物流では長距離輸送の効率化・無人化や鉄道・内航海運へのシフトが課題だと指摘しています。これらの取り組みには荷主の協力が不可欠で、物流事業者と荷主の協力関係が鍵を握ると分析しています。
2022年度の物流17業種総市場規模は、前年度比6.1%増の24.6兆円の見込みです。特殊運送・輸送業界を含む物流市場は、課題を抱えつつも拡大傾向にあり、新たな物流の在り方の構築が問われています。
特殊運送・輸送業界が持つ課題
特殊運送・輸送業界は、以下のような課題を抱えています。
- 人材不足:熟練した運転手や専門スタッフの確保が難しくなっています。
- 設備投資の負担:特殊車両や設備の導入・維持にかかるコストが高額です。
- 安全対策:危険物や精密機器の輸送では、高度な安全対策が求められます。
- 環境規制への対応:排ガス規制など、環境規制への対応が求められています。
- 価格競争の激化:同業者間での価格競争が激しくなっています。
これらの課題に対応しながら、サービスの質を維持・向上させることが重要な課題となっています。
特殊運送・輸送業界の成長要因
特殊運送・輸送業界は、いくつかの要因が重なることで、今後も安定的な成長が期待できる分野だと考えられます。まず、国内外でのインフラ整備プロジェクトが増加していることが挙げられます。
大規模な建設工事では、重機や大型の資材など、特殊な輸送技術を必要とする物品の輸送需要が高まります。また、産業設備の大型化・高度化も特殊運送の需要を押し上げる要因となっています。高度な技術を要する精密機器や大型の産業用設備など、特殊な輸送ノウハウが求められるケースが増えているのです。
さらに、Eコマースの普及に伴い、大型・特殊な物品の輸送需要が高まっていることも、業界の成長を支える要因の一つです。オンラインショッピングの拡大により、大型家具や家電など、特殊な輸送技術を必要とする物品の配送需要が増加しています。
加えて、グローバル化の進展も業界の成長を後押ししています。国際間の物流需要が増加する中で、特殊な梱包技術や輸送ノウハウを必要とする物品の輸送需要が高まっているのです。
このように、インフラ投資の拡大、産業の高度化、Eコマースの拡大、グローバル化の進展など、様々な要因が複合的に作用することで、特殊運送・輸送業界は今後も安定的な成長が期待できる分野だと言えるでしょう。
新技術の影響と業界への適応
近年、IoT、AI、自動運転などの新技術が物流業界に大きな影響を与えています。特殊運送・輸送業界においても、これらの技術を活用することで業務の効率化や安全性の向上が期待できます。
例えば、IoTセンサーを用いた貨物の状態監視、AIを活用した最適ルートの選定、自動運転技術による運転手の負担軽減などが挙げられます。業界では、これらの新技術を積極的に導入し、業務の効率化と品質向上を図っている企業も出てきています。
ただし、新技術の導入にはコストがかかるため、中小企業にとっては課題もあります。業界全体で新技術の活用を進めるためには、技術導入を支援する施策なども必要になるでしょう。
主要な事業者とその市場の割合
特殊運送・輸送業界には、大手企業から中小企業まで様々な事業者が存在します。主要な事業者としては、以下のような企業が挙げられます。
- 日本通運株式会社:国内最大手の総合物流企業で、特殊輸送にも強みを持っています。
- 郵船ロジスティクス株式会社:日本郵船グループの総合物流企業で、重量物輸送に実績があります。
- 西濃運輸株式会社:大型・重量物輸送を得意とする物流企業です。
- 日本梱包運輸倉庫株式会社:美術品や精密機器の輸送に強みを持つ企業です。
ただし、特殊運送・輸送業界は中小企業も多く、上位企業の市場占有率はそれほど高くありません。各社が得意分野を活かしながら棲み分けを図っているのが現状です。
環境規制と業界への影響
近年、地球温暖化対策やSDGsへの関心の高まりを背景に、物流業界でも環境対策が重要なテーマとなっています。特殊運送・輸送業界でも環境負荷の低減に向けた取り組みが求められています。
具体的には、省エネ車両の導入、輸送ルートの最適化による CO2 排出量の削減、梱包材のリユース・リサイクルなどが挙げられます。また、環境規制の強化に伴い老朽化した車両の入れ替えや、排ガス浄化装置の導入なども必要になっています。
これらの環境対策にはコストがかかるため、中小企業にとっては負担となる面もあります。しかし、環境対応を企業成長の機会ととらえ、積極的に取り組むことが業界の持続的発展につながると考えられます。顧客や社会からの信頼を獲得するためにも、環境対策は重要な経営課題と言えるでしょう。
特殊運送・輸送業の動向と今後
特殊運送・輸送業界におけるM&Aの動向について解説します。これから特殊運送・輸送企業のM&Aを検討している人は、ぜひ情報の一部として参考にしてください。
技術革新とその影響
特殊運送・輸送業界では、IoT、AI、自動運転などの新技術が業務の効率化や安全性の向上に大きく貢献すると期待されています。例えば、IoTセンサーを用いた貨物の状態監視では、リアルタイムでの貨物管理が可能となり、トラブルの早期発見や予防につながります。
また、AIを活用した最適ルートの選定や自動運転技術による運転手の負担軽減は、輸送の効率化と安全性の向上に寄与します。これらの技術革新は、特殊運送・輸送業界の競争力強化に不可欠な要素となっています。
市場ニーズの変化
市場ニーズの変化も、特殊運送・輸送業界の今後を左右する重要な要因です。例えば、E コマースの拡大に伴い、大型・特殊な物品の輸送需要が高まっています。インフラ整備や産業の高度化に伴い、重量物や精密機器の輸送需要も増加しています。
一方で、環境意識の高まりから、環境負荷の少ない輸送方法へのニーズも高まっています。特殊運送・輸送業界では、これらの市場ニーズの変化を的確に捉え、柔軟に対応していくことが求められます。
国際的な規制とその対応
グローバル化の進展に伴い、特殊運送・輸送業界では国際的な規制への対応が重要な課題となっています。例えば、国際輸送では、各国の輸出入規制や通関手続きへの対応が必要です。国際的な環境規制の強化に伴い、輸送手段の環境対応も求められます。
特殊運送・輸送業界では、これらの国際的な規制動向を注視し、適切な対応を取ることが重要です。コンプライアンス体制の強化や、環境対応技術の導入などが求められます。
持続可能な輸送方法へのシフト
地球温暖化対策やSDGsへの関心の高まりを背景に、特殊運送・輸送業界でも持続可能な輸送方法へのシフトが進んでいます。具体的には、電気自動車や燃料電池車などの次世代自動車の導入、輸送ルートの最適化による CO2 排出量の削減、リユース可能な梱包材の使用などが挙げられます。
これらの取り組みは、環境負荷の低減だけでなく、コスト削減や企業イメージの向上にもつながります。持続可能な輸送方法への対応は、特殊運送・輸送業界の長期的な成長に不可欠な要素と言えるでしょう。
コロナ後の業界の動き
新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、特殊運送・輸送業界にも大きな影響を与えました。輸送需要の減少や、感染リスクへの対応などが課題となりました。一方で、コロナ禍を契機に、非接触型の輸送サービスやデジタル化の重要性が再認識されました。
コロナ後の業界では、これらの変化を踏まえた新たな事業展開が求められます。例えば、非接触型の輸送サービスの拡充、デジタル技術を活用した業務の効率化、感染症対策の徹底などが挙げられます。また、コロナ禍で顕在化したサプライチェーンの脆弱性を踏まえ、輸送ネットワークの強靱化や、リスク管理体制の強化なども重要な課題となるでしょう。
特殊運送・輸送業界のM&Aの動向
特殊運送・輸送業界におけるM&Aの動向について解説します。これから特殊運送・輸送企業のM&Aを検討している人は、ぜひ情報の一部として参考にしてください。
M&Aの最新トレンド
特殊運送・輸送業界では、事業の拡大や競争力強化を目的としたM&Aが活発化しています。特に近年では、以下のようなトレンドが見られます。
- 大手企業による中小企業の買収
- 異業種からの参入
- クロスボーダーM&A
これらのトレンドは、特殊運送・輸送業界の競争環境の変化を反映したものと言えます。M&Aを通じた事業基盤の強化が、業界での生き残りに不可欠な戦略となっています。
影響を受ける主要な業界分野
特殊運送・輸送業界のM&Aは、関連する様々な業界分野に影響を与えます。主要な業界分野としては、以下のようなものが挙げられます。
業界分野 | M&Aの影響 |
建設業界 | インフラ整備プロジェクトに関連する重量物輸送の需要増加、物流ネットワークの再編、新たな輸送サービスの登場 |
製造業界 | 産業機器や精密機器の輸送需要増加、物流ネットワークの再編、新たな輸送サービスの登場 |
電力・エネルギー業界 | 風力発電設備などの大型機器の輸送需要拡大、物流ネットワークの再編、新たな輸送サービスの登場 |
美術品・貴重品業界 | 美術品や貴重品の輸送需要増加、物流ネットワークの再編、新たな輸送サービスの登場 |
これらの業界分野では、特殊運送・輸送業界のM&Aの影響を受け、物流ネットワークの再編や、新たな輸送サービスの登場などが予想されます。
国内外の事例比較
特殊運送・輸送業界のM&Aは、国内外で活発に行われています。国内の事例としては、大手物流企業による中小企業の買収や、異業種企業の参入などが見られます
一方、海外の事例としては、クロスボーダーM&Aが増加しています。例えば、欧米の大手物流企業による日本企業の買収や、日本企業による海外企業の買収などが挙げられます。
国内外の事例を比較すると、海外のM&Aではグローバルな事業展開を目的とした案件が多いのに対し、国内のM&Aでは国内市場でのシェア拡大や事業基盤の強化を目的とした案件が目立ちます。ただし、国内企業も海外展開を視野に入れたM&Aを増やしつつあり、今後はクロスボーダーM&Aの増加が予想されます。
資金調達の手段とその課題
特殊運送・輸送業界のM&Aでは、資金調達が重要な課題となります。主な資金調達の手段としては、以下のようなものが挙げられます。
資金調達の手段 | メリット | デメリット |
自己資金 | 外部への依存が少ない、金利負担がない | 大規模なM&Aが困難な場合がある |
銀行借入 | 比較的容易に資金を調達できる | 金利負担がある、返済リスクがある |
株式発行 | 大規模な資金調達が可能、返済義務がない | 株式の希薄化が起こる可能性がある |
ファンドの活用 | 大規模な資金調達が可能、経営ノウハウの提供を受けられる | 高い投資収益率が求められる傾向にある |
M&Aを成功させるためには、これらの資金調達の手段のメリット・デメリットを理解し、適切に組み合わせることが重要です。また、財務戦略の立案や、資金調達先との交渉などを適切に行うことが求められます。
取引の法的な側面
特殊運送・輸送業界のM&Aでは、法的な側面にも注意が必要です。主な法的論点としては、以下のようなものが挙げられます。
- 独占禁止法
- 労働法
- 環境規制
- 許認可
これらの法的論点に適切に対応するためには、専門家との連携が不可欠です。弁護士や会計士、税理士などの専門家を交えたデューデリジェンスを実施し、リスクを事前に把握することが重要です。また、M&A契約においては、法的リスクを適切に分担・管理する条項を盛り込むことも求められます。
法的な側面への対応は、M&Aの成否を左右する重要な要素です。専門家との連携を通じて、法的リスクを適切にマネジメントすることが求められます。
特殊運送・輸送のM&Aをするメリット
特殊運送・輸送のM&Aにおいてのメリットを売却側・買収側の両方から解説します。メリットを元にして特殊運送・輸送のM&Aを検討してください。
売却側のメリット | 買収側のメリット |
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売却側のメリット
特殊運送・輸送業界における売却側のメリットは、以下の通りです。
- キャッシュフローの改善
- リスクの分散
- 市場シェアの拡大
- 資本効率の向上
- 経営資源の最適化
それぞれ詳しく解説していきます。
キャッシュフローの改善
特殊運送・輸送業界では、設備投資や運転資金の需要が大きいため、キャッシュフローの管理が重要な課題となります。M&Aによる事業売却は、キャッシュフローの改善に寄与します。売却代金を活用することで、債務の返済や新たな投資を行うことができ、財務体質の強化につながります。
リスクの分散
特殊運送・輸送業界は、景気変動の影響を受けやすい側面があります。また、事故や災害などのリスクも内在しています。M&Aによる事業売却は、これらのリスクを分散する効果があります。事業の一部を売却することで、特定の事業に依存するリスクを軽減できます。
市場シェアの拡大
M&Aによる事業売却は、市場シェアの拡大にもつながります。買収先企業との協業を通じて、新たな顧客や販路を獲得することができます。事業の一部を売却することで、注力分野に経営資源を集中させることが可能となり、市場での競争力を高めることができます。
資本効率の向上
M&Aによる事業売却は、資本効率の向上にも寄与します。非中核事業を売却することで、経営資源を中核事業に集中させることができます。これにより、投下資本に対するリターンを高めることができ、資本効率の向上につながります。
経営資源の最適化
M&Aによる事業売却は、経営資源の最適化にも役立ちます。事業の一部を売却することで、人材や設備などの経営資源を適切に配分することができます。また、買収先企業との協業を通じて、不足する経営資源を補完することも可能となります。
買収側のメリット
特殊運送・輸送業界における買収側のメリットは、以下の通りです。
- 事業ポートフォリオの拡充
- 技術獲得と革新の促進
- 経営規模の拡大
- 新市場へのアクセス
- 競争力の強化
それぞれ詳しく解説していきます。
事業ポートフォリオの拡充
特殊運送・輸送業界でのM&Aは、事業ポートフォリオの拡充に役立ちます。新たな事業分野への進出や、既存事業の強化を図ることができます。多様な事業を展開することで、経営の安定性を高めることが可能となります。
技術獲得と革新の促進
M&Aは、新たな技術の獲得や革新の促進にも寄与します。買収先企業が持つ独自の技術やノウハウを取り込むことができます。買収先企業との協業を通じて、新たな技術開発や革新的なサービスの創出も可能となります。
経営規模の拡大
M&Aは、経営規模の拡大にも役立ちます。買収先企業の顧客基盤や販路を取り込むことで、売上規模を拡大することができます。また、コストの削減や効率性の向上を図ることも可能となります。
新市場へのアクセス
M&Aは、新市場へのアクセスにも寄与します。買収先企業が持つ地域ネットワークや顧客基盤を活用することで、新たな市場への参入が可能となります。クロスボーダーM&Aを通じて、海外市場への展開を図ることもできます。
競争力の強化
M&Aは、競争力の強化にも役立ちます。買収先企業との協業を通じて、事業基盤を強化することができます。また、規模の拡大により、価格交渉力や市場での影響力を高めることが可能となります。競合他社に対する優位性を確立し、市場での競争力を高めることができます。
特殊運送・輸送のM&Aの注意点
特殊運送・輸送のM&Aを行う際の注意点を解説します。特殊運送・輸送のM&Aを行う際の注意点は、以下の通りです。
デューデリジェンスの重要性
M&Aを行う際には、買収先企業の業務や財務の状況を詳細に調査するデューデリジェンスが非常に重要です。特殊運送・輸送業界では、許認可の状況や安全規制への対応状況などを入念に確認する必要があります。
例えば、買収先企業が必要な許認可を取得していない場合、事業の継続に支障をきたす可能性があります。また、安全規制への対応が不十分な場合、事故やトラブルのリスクが高まります。
さらに、買収先企業の顧客基盤や業界での評判なども詳細な調査が必要です。顧客との関係性や、競合他社との比較優位性などを把握することで、買収後の事業運営の方向性を見定めることができます。
デューデリジェンスを通じて、買収先企業のリスクや課題を適切に把握し、対応策を講じることが求められます。
文化的な整合性の確認
M&Aを行う際には、買収先企業との文化的な整合性を確認することも重要な注意点です。特殊運送・輸送業界では、安全や品質に対する考え方が企業によって大きく異なる場合があります。
例えば、安全管理の徹底度合いや、品質管理の基準などは、企業文化に深く根ざしています。買収先企業との文化的な差異を見落とすと、統合後の組織運営に支障をきたす恐れがあります。
また、組織風土や経営スタイルの違いも大きな問題となることがあります。意思決定のプロセスや、コミュニケーションの方法などは、企業によって様々です。これらの差異を適切にマネジメントしないと、統合後の組織運営に混乱が生じる可能性があります。
買収先企業との文化的な整合性を入念に確認し、統合後の組織運営の方向性を明確にすることが強く求められます。
長期的な経済的影響
M&Aを行う際には、長期的な経済的影響を考慮することが欠かせません。特殊運送・輸送業界では、設備投資や人材育成に多額のコストがかかります。例えば、特殊車両の導入や、専門スキルを持つ人材の確保などには、相応の投資が必要です。
買収先企業の事業基盤を活用することで、これらのコストを削減することが可能ですが、一方で統合に伴うコストも発生します。
統合コストには、システムの統合や、組織の再編などに関わる費用が含まれます。これらのコストは、短期的には業績の圧迫要因となる可能性があります。
長期的な視点から、M&Aの経済的影響を適切に評価し、投資対効果を見極めることが重要です。シナジー効果の発揮による収益の拡大と、統合コストのバランスを取ることが求められます。
顧客との関係への影響
M&Aを行う際には、顧客との関係への影響にも細心の注意を払う必要があります。特殊運送・輸送業界では、顧客との信頼関係が非常に重要な役割を果たします。長年にわたって築き上げてきた顧客との関係性は、事業の競争力の源泉とも言えます。
買収先企業の顧客基盤を引き継ぐ際には、サービスの質の維持や、顧客とのコミュニケーションに細かな配慮が必要不可欠です。
例えば、輸送スケジュールや、荷物の取り扱いなどに関する顧客の要望に、きめ細かく対応することが求められます。また、統合後の組織体制や、連絡窓口の変更などについて、顧客に丁寧に説明することも重要です。
顧客との関係を適切にマネジメントし、信頼関係を維持・強化することが、M&A成功の鍵を握ります。
技術の統合プロセス
M&Aを行う際には、買収先企業の技術を適切に統合するプロセスにも注意が必要です。特殊運送・輸送業界では、独自の輸送技術やノウハウが競争力の源泉となります。例えば、精密機器の輸送には、特別な梱包技術や、振動対策などが求められます。また、危険物の輸送には、法規制への対応や、安全管理のノウハウが不可欠です。
買収先企業の技術を円滑に統合し、シナジーを発揮させることが重要ですが、そのためには綿密な計画が必要です。技術の棚卸しを行い、自社の技術との親和性を見極めることが出発点となります。
その上で、技術の統合プロセスを適切に管理し、ノウハウの共有や人材交流を図ることが求められます。場合によっては、買収先企業の技術者を自社に迎え入れることも検討すべきでしょう。
特殊運送・輸送におけるM&Aを成功させるためのポイント
特殊運送・輸送におけるM&Aを成功させるためのポイントを解説します。特殊運送・輸送におけるM&Aを成功させるためのポイントは、以下の通りです。
- M&A戦略の立案
- 相場価格の把握
- PMI(統合後プロセス)の確立
それぞれ詳しく解説していきます。
M&A戦略の立案
M&Aを行う際には、明確な戦略を立案することが何より重要です。自社の強みや弱み、業界の動向などを踏まえ、M&Aの目的や対象企業の選定基準を明確にする必要があります。例えば、事業の多角化を目的とするのか、規模の拡大を目的とするのかによって、買収先企業の選定基準は大きく異なります。
また、M&A後の事業運営の方向性や、統合プロセスの計画も綿密に策定することが求められます。買収先企業との協業体制やコミュニケーションの方法なども、事前に検討しておくべきでしょう。M&A戦略の立案は、経営トップの強力なリーダーシップの下、関係部門が一丸となって取り組むことが欠かせません。
相場価格をよく理解しておく
M&Aを行う際には、買収先企業の相場価格をよく理解しておくことが重要なポイントです。特殊運送・輸送業界では、事業の特性や業績によって、企業価値が大きく異なる場合があります。例えば、特殊な輸送技術を持つ企業は、高い評価を受ける傾向にあります。また、安定した顧客基盤を持つ企業も、高い価値を持つと言えます。
物流業界における企業価値の評価では、一般的に以下のような方法が用いられます。
- DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法):将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算出する方法です。物流業界では、長期的な契約に基づく安定したキャッシュフローが見込めるため、DCF法が適しているとされます。
- 類似企業比較法:同業他社の企業価値を参考に、類似企業の株価収益率(PER)や株価純資産倍率(PBR)などの指標を用いて企業価値を算出する方法です。物流業界では、事業の特性に応じた適切な類似企業を選定することが重要となります。
- 純資産価値法:企業の資産と負債の差額である純資産価値に着目する方法です。物流業界では、車両や倉庫などの物的資産を多く保有する企業が多いため、純資産価値法も有効な評価方法の一つとされます。
以上の方法を用いて、特殊運送・輸送業界のM&Aにおける相場価格を計算することができますが、最終的な価格は売り手と買い手の交渉によって決定されるため、これらの計算方法はあくまで参考値として利用されます。
PMI(統合後プロセス)の確立
M&Aを行う際には、PMIを確立することが重要なポイントです。しかし、多くの企業がM&Aを単独で行おうとする傾向にあります。これは、費用を節約したい、自社の方針を貫きたいといった理由からですが、実際にはデメリットが多いのが実情です。
M&Aを単独で行ってしまうと、買収先企業との統合計画の策定や、組織体制の再編などに多くの時間と労力を要します。専門知識の不足により、統合方法の検討が不十分になってしまう恐れもあります。さらに、両社の文化的な違いから、コミュニケーションの齟齬が生じ、統合が円滑に進まないケースも少なくありません。
こうしたデメリットを避けるためには、M&A仲介を利用することが強く推奨されます。M&A仲介は、豊富な知識と経験を持つ専門家が、統合計画の策定から実行までを一貫してサポートしてくれます。両社の文化的な違いを踏まえたコミュニケーション施策の立案や、ノウハウの共有促進なども、M&A仲介の得意とするところです。
M&A仲介を活用することで、PMIを適切に管理し、統合効果を最大化することができるのです。M&A成功の鍵は、PMIの確立にあると言っても過言ではありません。
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特殊運送・輸送業のM&Aにおける成功事例
特殊運送・輸送業界におけるM&Aの成功事例を紹介します。これから特殊運送・輸送業界におけるM&Aを検討している人は、ぜひ参考にしてください。
安田倉庫株式会社が大西運輸株式会社およびオオニシ機工株式会社のM&A
2019年9月に、安田倉庫株式会社が大西運輸株式会社及びオオニシ機工株式会社の全株式を取得し、子会社化した事例です。
安田倉庫株式会社は、物流事業を展開しており、多様な顧客ニーズに応えるソリューションと最先端テクノロジーの提供を目指しています。同社は「YASDA Next 100」という中期経営計画のもと、全国に倉庫・輸配送ネットワークの拡大を進めています。
大西運輸株式会社は、石川県金沢市に本拠を置き、小型から大型の車両を使用した広域ネットワークと確かなサービス品質で知られています。オオニシ機工株式会社は、同じく石川県を基盤に、クレーン作業や建材輸配送を得意とする一般建設業者です。
このM&Aの主な目的は、安田倉庫株式会社の輸配送ネットワークをさらに充実させ、サービス品質を向上させることとしています。大西運輸株式会社とオオニシ機工株式会社のネットワークとサービスノウハウを統合することで、安田倉庫グループ全体の成長と顧客満足の向上を期待するとしています。
米国日本通運株式会社による、MD Logistics, LLCおよびMD Express, LLCのM&A
2020年9月に、米国日本通運株式会社がMD Logistics, LLCおよびMD Express, LLC(以下、MD社)の全出資持分を取得し、子会社化した事例です。
米国日本通運株式会社は、日本通運株式会社の米国現地法人で、国際間の輸送ネットワークを持つ大手物流企業です。グローバルなサプライチェーンを支援することを目指し、特に医薬品産業における物流サービスの充実を図っています。
MD社は、1996年に創業されたアメリカの企業で、主に医薬品産業を中心に、消費財を含めたロジスティクスサービスを提供しています。MD社はインディアナ州とネバダ州に倉庫を持ち、全米に迅速な配送サービスを提供することが特長です。また、医薬品取り扱いに関する厳格な許認可と管理体制を有し、特定の温度範囲での保管や流通加工業務を行っています。
このM&Aの主な目的は、米国内の医薬品ロジスティクス機能を強化し、国内外の顧客への一貫した物流サービスを提供することです。MD社の子会社化により、米国での国内物流ネットワークを拡充し、グローバル化する顧客のサプライチェーンを一層サポートする体制を整えるとしています。
参考:米国物流会社の出資持分取得(子会社化)完了に関するお知らせ
センコーグループホールディングスによる株式会社オーナミのM&A
2022年12月にセンコーグループホールディングス株式会社は、日立造船株式会社の子会社である株式会社オーナミの66.6%の株式を取得した事例です。
センコーグループホールディングスは、重量物輸送を行う会社や77隻の船舶を有する海運事業など、広範な重量貨物輸送ネットワークを持つ企業です。
オーナミは、大阪を中心に全国に拠点を持ち、海上・陸上一貫輸送体制を有する物流企業です。1949年に設立され、倉庫や港湾運送、自動車運送、海上運送、通関事業を展開し、従業員数は261名です。
このM&Aの主な目的は、往復輸送や積み合わせ輸送などセンコーグループのネットワークを活用した効率的な輸送を実現し、オーナミが持つ重量物輸送や輸出梱包のノウハウをグループに水平展開することで、グローバルな重量物輸送事業の拡大を図ることとしています。また、機工事業の拡大も目指すとしています。
参考:国内外の重量物輸送拡大を図る ~海陸一貫輸送会社オーナミをグループ化~
日立物流によるオランダCyberFreight社のM&A
2022年9月に、株式会社日立物流がオランダの国際フォワーディング会社Cyber Freight International Holding B.V.(以下、CyberFreight社)の全株式を取得し、子会社化した事例です。
株式会社日立物流は、物流サービスを提供する企業で、メディカル事業を注力分野と位置づけています。国内外でGDPに準拠した拠点を整備し、医薬品温度管理輸送における高品質なサプライチェーン構築を推進しています。また、中期経営計画「LOGISTEED2024」においては、海外事業の強化・拡大を重点施策の一つとして掲げています。
CyberFreight社は、オランダのスキポール空港近郊に本社を置く国際フォワーディング会社で、航空・海上フォワーディング、倉庫・配送、プロジェクトカーゴ、三国間輸送、通関業務、EU域内輸送、中国発着鉄道輸送を行っています。特に医薬品の高品質なサプライチェーン構築において、GDPやCEIV Pharma認証を取得しており、高度な品質管理を実施しています。
このM&Aの主な目的は、株式会社日立物流が医薬品事業の拡大と国際的な物流ネットワークの強化を図ることです。CyberFreight社のオペレーションノウハウやフォワーディングネットワークを活用し、日系・外資系の医薬品顧客への営業展開を共同で推進することで、グローバルにおける医薬品事業の拡大を目指すとしています。
参考:オランダ国際フォワーディング会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ
ハマキョウレックスによる山里物流サービスの
2023年4月に、株式会社ハマキョウレックスが株式会社山里物流サービスの発行済株式の100%を取得し、子会社化した事例です。
株式会社ハマキョウレックスは、アパレル、食品、医薬品、医療機器などを中心に、物流センター事業(3PL事業)や貨物自動車運送業を展開しています。特に、物流業務の発展と拡大を目指しており、新規顧客の獲得にも力を入れています。
山里物流サービスは、大阪府に拠点を置き食品輸送を中心に事業を展開してきました。長年にわたり蓄積した食品輸送に関するノウハウが特徴です。
このM&Aの主な目的は、ハマキョウレックスが持つ物流ノウハウと、山里物流が培ってきた食品輸送のノウハウを組み合わせることで、顧客に高付加価値の物流サービスを提供することとしています。
参考:株式会社山里物流サービスの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ
まとめ
特殊運送・輸送業界でのM&Aには、事業基盤の強化や競争力の向上など、様々なメリットがあります。企業の成長戦略として、M&Aは非常に有効な手段だと言えます
M&Aを成功させるためには、明確な戦略の立案や、統合後プロセスの確立などが重要なポイントとなります。自社の強みや弱みを踏まえ、M&Aの目的を明確にすることが出発点です。また、買収価格の設定や、顧客との関係管理なども重要な課題となります。これらの課題に適切に対応することが、M&A成功の鍵を握ります。
M&Aは企業の成長戦略として非常に有効な手段である一方、万全を期して臨む必要のある戦略です。ぜひ今回の記事を参考に特殊運送・輸送におけるM&Aを検討してみてください。